ハインの戦闘
魔王軍との戦争が本格的に始まる。
そんな最中、龍吾郎はまだアミや孤児院のこらと共に都市内に残っていた。
本来、来るはずだった馬車が未だに来る気配が無いのだ。
恐らくは魔王軍が来たと聞いて仕事を放棄し逃げたのだろう。
戦闘音が響き子供達は怯える。
「みんな歩いてパゼレから出ろ」
このままこの子達を置いておくのは危険だ、そう判断した俺は子供達に徒歩で都市外へ逃げる事を勧める。
ここから魔王軍が攻めてきている場所とは逆の門へは多少離れてはいるが、それでもここにいるよりずっとマシだ。
しかし子供達は鳴り響く戦闘音により怯えてはいるがゆっくりとその場を離れ始めた。
「ナイヒィールさん、アミの事よろしく頼む!」
俺は孤児院の寮母であるナイヒィールにアミを託す事にしたのだ。
「ま、待ってお父さん!私も……」
「頼むアミ、言うことを聞いてくれ……!」
反論しようとしたアミに俺は跪きアミの肩に手を置きながら強く言い聞かせようとする。
今回の戦いははっきり言って俺達が不利だ、だからと言って俺だけ逃げるわけにはいかない。
そんな危険な戦いにアミを巻き込む訳にはいかなかったのだ……
アミは俺の言葉を聞き、俺の表情を見る事でそのことを察してくれたのか小さく頷いた。
アミが頭の良い子でよかった。
それからアミは孤児院の子らと共に出口の門へと歩いて行き見えなくなった。
「よし、俺も行く──」
アミを見送った後、俺も戦闘に加わる為に城壁の方へと向かおうと振り返る。
振り返ると男がいた
男を見た途端に俺は"死"を感じる
魔人なんかのとは比べ物にならないほど膨大な魔力……
あぁ、間違いない。俺の目の前にいる男は……魔王本人だ。
場面は移り大きな穴の空いた城壁上へ
そこでは魔人とハインが戦闘を行っていたのだ。
魔人の両腕には鋭く堅い刃がついており、それを高速に動かしてハインへと襲い掛かる。
一方でハインの武器は現状剣一本のみ、それだけで魔人の攻撃を防いでいるのが精一杯だ。
そしてついに……
ハインが剣を魔人へと振りかざした時、魔人の一撃がハインの剣を捉え破壊したのだ。
「さてお前の武器は壊れた、これで終わりだな」
魔人は1人勝ち誇る。
しかしハインの中には敗北という感情は湧いていなかった。
なぜなら……
「──戦場で倒れし友よ、我が血と共に再び返り咲け!」
ハインが剣を構えてそう叫ぶ。
その時先程魔人によって殺された冒険者達の体から赤い血が飛び出してハインの剣に集まり再び剣の形になったのだ。
「また俺と共に戦ってくれ。
……俺の魔法は俺やその混ざった血、もしくは死んだ奴の血を操れる魔法だ
一回剣を壊した程度で勝った気になるな!」
赤黒くなった剣を一度見つめた後、再び魔人に向け睨みつけながら戦闘を再開する。
しかしハインは魔法で剣を復活させただけであって戦闘能力に上昇の傾向はなく以前魔人が優位に戦闘を進める。
しかし戦闘を行いながらも魔人は違和感を感じる、それは相手の動きによる違和感、何かを待っているようなそんな感覚だった。
しかしその違和感の正体はすぐにわかった。
下の方から相手に向かって何かが集まってきていた。
その何かとは……血だ。
下で倒れた自分の部下や死んだ魔獣達の血を集めて来ているのだ。
奴が生成した血の剣の何十倍もあるあの集まった血の量を見て察する、次の攻撃の規模のデカさを。
だからこそ速攻を仕掛ける、奴が攻撃を仕掛ける前に倒してしまえばあんな血如きに恐怖することはない!
奴は当然、俺の攻撃を防ごうとする。
しかしあの大量の血を集めているのに集中力を消費しているのか身のこなし方がなっていない。
そんな状態では俺の攻撃を受け切れるはずもなく、俺の鋭い一撃が奴の腹部に突き刺さる。
「がはっ…………!!」
奴の生暖かい血が俺の腕に流れてくる。
俺は思いっきり奴から腕を引き抜く、すると勢いよく多くの血が吹き出した。
人間であるならばこれほど多くの血を流せばすぐに死に至る、これで奴の攻撃は防げ……
そう思って先程までちが集まっていた場所に目をやった、しかしそこにはまだ奴の集めた血が残っており崩れる様子などなかったのだ。
すぐに俺は殺したはずの奴を見た、確かに倒れておりその下には大量の血が……奴のもとに集まっていた。
「はぁ……はぁ……どうした?自分の血は操れるって言ったはずだ、俺は死んだみんなを利用して戦っているこの程度で死んでたまるか!」
奴はそう言って体を起こす。
「これで──終わりだっっ!!」
体を起こした奴はすぐに集まった血を巨大な刃に変えて、俺に放った。
奴が起き上がった事に気を取られ隙が出来ていた俺はその攻撃をモロに喰らったのだ。
「グオオオオオオ!!!!」
血の刃が俺を切り裂きながら俺の体を取り込んでいった。
その間も俺の体は斬りつけられていく。
大抵の魔人ならこの攻撃で微塵も残らずに敗北するような強力な攻撃、しかし……
俺を殺せるような魔法ではなかった。
「残念だったなぁ!!こんな魔法じゃ俺の体は傷つけられても殺すには至らなかったようだなぁ!!」
血の刃を破壊して奴に叫ぶ。
先程までの攻撃では俺に傷を負わせることは出来なかったが、あの魔法は俺の体中に傷をつけ左腕の刃を破壊したのだ。
そこは誇ってもいいだろう、しかし俺を殺すにはあとひと押し足りない!
俺は魔法の反動と先程までのダメージのせいで床に膝をついている男に対してトドメを刺しにいく。
「名も知らぬ強者よ!これで終わりだぁ!」
そして俺は残っている右腕の刃を振り上げて奴の頭部を貫こうとした……が
「なっ……体がっ!!」
突如として体の動きが止まる。
体を動かそうとするが、動く気配が全くないのだ。
まるでもう自分の体ではないかのように。
「言っただろ……俺が操れる血は……」
奴はよろめきながらも立ち上がり俺を向きながら話した。
「俺は……俺の血が混ざった血も操れる、さっきお前に貫かれた時に俺の血がお前に付いた」
この男は自ら俺に貫かれるように仕向けた俺の腕に自分の血を付けたのだ。
だがそれだけで何故俺の体を止めることが出来たのか、何故俺の血と奴の血が混ったのか……
「何故俺の血がお前の血と混ざったかだって?」
疑問に思っていたのがバレたのか、奴は言葉を続けた。
「さっきの俺の攻撃、別にお前を倒すために使ったんじゃない。お前に傷を付ける事が目撃だったんだ」
奴の言葉を聞いて俺の体が動かなくなったわけを察する。
「そうだ、お前のその傷口から俺の血が入りそのままお前の体中に巡った。
お前はもう終わりだ」
奴がそう口にすると俺は体の中に異変を感じた。
何かが膨れ上がるような爆発直前のようなそんな感じがしたんだ……
俺はこれから自分がどうなるのか理解した
「や、やめ……」
命乞いをしようとした瞬間に俺の体が弾け肉片が飛び散ったのだ。




