決戦直前
「魔王軍の総数は数十万だ……」
ハインの答えた魔王軍の総数は俺が見た時よりもはるかに巨大なものへと変わっていた。
「そんな……嘘だろ?」
その言葉を聞いた冒険者の1人が信じられないという顔をしながらハインに尋ねる。
圧倒的な数、それを信じたくないがそれを述べているのが自分達の尊敬しているハインだという事実が彼らを精神的に追い詰める。
「これは事実だ、そしてこの様子で侵攻してくるとなるとここに到達するのは……4日後くらいだろう」
更なる事実がハインの口から出される。
数の増量に加えて4日後にくるという期限付きである。
「そ、そんな……」
その事実に耐えられず1人の冒険者が膝から崩れ落ちる。
当たり前だ。圧倒的な数そしてそれを指揮しているのがかつて恐れられた魔王なのだから。
「このパゼレにいる冒険者はだいたい300人ほど……それでどう対処しろと……?」
「もうダメだぁ……おしまいだぁ……」
崩れ落ちた冒険者に続いて他の冒険者達も絶望の言葉を発する。
無理もないこちらは300、対して魔王軍は10万以上更には魔人が数体と魔王までいるという絶望的な状況に冒険者達は打ちひしがれるしかなかったのだ。
俺だってこんな軍勢と戦うのなんてごめんだ。
それでも1人だけこの状況でも立ちあがろうとする奴がいた。
「魔王軍がこっちに来てるなら逆にチャンスだろ」
声を上げたのはクーリッシュだった。
その言葉に他の冒険者や俺はクーリッシュの方を向いた。
「確かに魔王軍の数は絶望的、でも狙いがここだとわかってるのなら逆に向かい打てばいいんだ」
クーリッシュは他の冒険者達に向かって訴えかける、確かに狙いがわかっているならそこを叩くというのは割と合理的だ。
ここを逃せば次に魔王軍が侵略するところの特定が出来るのかがわからないからだ。
でも問題は……
「でも相手は10万はいる……俺達だけでどうしろっていうんだよ」
そう数だ、流石に迎え討とうとも数が圧倒的に不利だどうやっても勝てない。
ここの戦力は300人……いやむしろここだけなら300人なのだ。
「だったら他の都市から応援を頼めばいいんじゃないか?」
俺は口を開く、それを聞いた冒険者達は俺の方を向いた。
冒険者ギルドはここだけじゃなく他の都市にもある、ならそこから人を借りればいい。
「馬鹿な!他の都市から冒険者達に助けに来てもらう?魔王軍と戦う為にか!?
そんなの来てくれるやつなんていないだろ!」
俺の意見を聞いた冒険者の1人が強く反論してきた。
確かに魔王軍の戦力は強大だ、でもだからと言ってこのまま何もしなければ問題は解決はしない。
だが他の冒険者達は魔王軍と戦う事を恐れている、何か……もう少しきっかけがあれば……
「兵力が足らないと言うならば、私がなんとかしましょう」
バンッ!
と突如扉が開きとある提案が出された。
そして扉が開いて提案を出してきたのはリリーだった。
「り、リリー様!?いったい何故ここに……?」
リリーを見た冒険者の1人が何故ここに国王であるリリーがいるのかと驚く。
そんな冒険者をよそにリリーは話を続けた。
「兵力が足らないと言うなら私が王都から兵士を貸し出します、なんなら国王権限で他の都市からも兵力を出すように指示を出します」
リリーはそうキッパリと言い切った。
リリーの言葉にその場にいた者達は圧倒されて言葉を失う、俺だってそうだいきなり来てこんな事を言ってきて何を言ったらいいかわからなくなった。
でもリリーの提案はこちらにとっても好都合だ。
王都や他の都市からの援軍、数はどのくらいになるかはわからないがけれどかなりの人数が集まるのは確か。
それだけの人数がいるのだからきっとここにいる奴等も戦う事を選ぶはずだ。
「……それは嬉しいのですが、何故俺達にそこまで?」
ハインがリリーに対して質問をする。
「そこの2人には以前にお世話になりました、なので今度は私達が恩を返す番です」
ハインの言葉にリリーは俺とクーリッシュの方を見ながら答える。
そのリリーの言葉に少し頭を抱えるような姿勢を取るハインだったが直ぐに顔を上げて。
「リリー様がそうおっしゃるのなら仕方ない、我々も何もしない訳にはいけないな
我々パゼレの冒険者はここで魔王を迎え撃ちます!」
ハインはそう宣言した。
その宣言にショックを受けた冒険者もいたが反対できないと悟り逆に戦う決意をしていた。
「さっそく皆を集めてくれ!この事について皆に話しておきたい!!」
そうしてハインは冒険者達をギルドに集め魔王軍がこちらに向かってくる事と王都や他の都市から援軍を呼んでこれらを向かい撃つ事を話す。
最初は騒然とする冒険者達だったが、ハインの作戦や王都の協力も得られるという情報によりこの作戦に参加する事を決意し、魔王軍撃退のための準備が行われた。
王都へ援軍を要請する為にリリーは馬車で王都へと戻る。
その際にリリーはアミに離れたくないと泣きついていたが、ほぼ強制的に馬車に入れられて王都へと送られた。
それからというもの魔王軍が殿方向から攻めてくるのかがわかっている為、その方向への城壁の強化そして少しずつではあるが住民を別の都市へと避難させたりなどこの数日で行われる。
そして魔王軍がこちらに到達予定前日、この日はようやくアミが避難出来る日だ。
「気を付けてください……」
「大丈夫だ、安心しな」
心配そうに話すアミの頭に手を置きながらアミを落ち着かせた。
そしてアミを乗せる為の馬車がそろそろ来るという時だった。
非常用の鐘が聞こえてきた。
「なんだ!?」
鐘の音に反応して俺は鐘の方を向く、そして非常用の鐘を鳴らしたであろう男が大きく口を開いて。
「大変だっ!魔王軍が来やがった!!」
そう叫んだのだった。




