凶報
バレディレッタ達を追い払った日の夜。
孤児院……いやアミの為に王都から来てくれたリリーは今晩は孤児院に泊まらせてもらうようだ。
俺は楽しそうにしてる子供達の邪魔をしないように1人家へと帰ろうとする。
「……おい」
そこへさっきまでどこかに行っていたクーリッシュが戻って来て俺に声をかけた。
「あぁ、クーリッシュか。今日はありがとな」
俺はクーリッシュを見るなり今日アミをバレディレッタから守ってくれた事に対する感謝の言葉を述べる。
「それはいいんだ……それよりも……」
クーリッシュはどこか暗い表情をして口を開いた。
そしてクーリッシュから出た言葉は……
「バレディレッタが失踪した。」
バレディレッタが行方をくらませたという事だった。
どうやらバレディレッタはあの後すぐに自分の屋敷へと行き、そのまま最低限の荷物を持って奥さんや子供を置いて馬車で逃走したようだ。
その際、バレディレッタが馬車で通った門の管理をしていた門番を撥ね重傷を負わせたらしい。
追いかけようにも時間が経ちすぎていてどこに行ったのかも検討がつかないようだ。
「そうか……ったくあの野郎、自分だけ助かろうとしやがって……」
その話を聞いて俺はバレディレッタの行動に驚き、そして怒りを通り越して呆れを感じる。
自分の家族をすぐさま見捨てて1人だけ逃げる事が許せなかったからだ。
「それと……最近魔獣の様子が変だ」
クーリッシュは話を変える。
「変……というと?」
「最近魔獣達の数が少なくなっている。それと噂だと虚空の森で魔獣が確認されてる」
俺の問いにクーリッシュはそう答える。
虚空の森、確かあの森には魔獣が生息しなかったはず……だが以前は王都を襲撃した連中が意図的に放ったのは新しい記憶だ。
「まさか襲撃犯達が……?」
襲撃犯に関しては王都襲撃の際、全員捕えたはずだがもしかしたら残党がいるのか……そう俺は疑問に思った。
「さぁ……そこら辺に関してはまだ調査中らしい、まぁなにはともあれ……気を付けろ」
そう言い残してクーリッシュはその場を去って行った。
バレディレッタの逃亡、そして魔獣達の不可解な行動……また何かよからなぬ事が起こりそうな気がした。
──
虚空の森の奥、王都を襲撃していた連中のアジトのそのまた奥地にて魔獣達によりバラバラにされた馬車があった。
そして破壊された馬車の先に一つの洞窟があった。
そこに1人の男が侵入していた。
「クソが!なんで私がこんな目にっ!!」
そこにいたのはパゼレから逃げて来て怒りを露わにしていたバレディレッタだった。
馬車が壊れたバレディレッタはひとまずこの洞窟で身を潜めようとしていたのだ。
「ん?なんですかこれは?」
追っ手からさらに逃げる為洞窟の奥へと歩いていたバレディレッタに目に止まる物があった。
それは何の変哲のないヒビの入った石柱、しかし何処となく変な感覚をバレディレッタは感じてはいたが……現在元いた場所から逃げて来て心の余裕がなくなったバレディレッタは……
「どうでもいい!こんなもの!!」
怒りに身を任せ、石柱を蹴った。
蹴った勢いで石柱のヒビが更に広がっていく、ヒビが石柱全体まで渡りそして石柱が割れた。
その瞬間だった辺りに負のオーラが充満する。
「な、なんだなんだ!?」
驚くバレディレッタをよそに割れて負のオーラの中心である石柱から1人の男が現れた。
「……封印が解かれたか」
その言葉にバレディレッタの背筋が凍る。
この感覚、このおぞましい魔力にバレディレッタは死の恐怖を感じ取りその場で身を震わせているだけだった。
「そこの人間……よく我の封印を解いてくれたな……この魔王の封印を!」
石柱から出て来た男は自らを魔王と名乗った。
そうこの場所はかつて人々を脅かした魔王が封印されし地。
長い間月日が流れ封印も弱まっていき、元々不安定だった封印はたった1人の蹴りによって壊され魔王の封印が解かれたのだった。
「な、ならせめて命だけは……」
バレディレッタは魔王に対して命乞いをする魔王の封印を解いた事、それにより命だけは助けてもらおうとしているのだ。
「確かに封印を解いてくれた事には感謝する」
魔王はバレディレッタに向かってそう話しかけた。
一部の希望が見えたバレディレッタからは恐怖の感情が少しだけ薄れていったのだが……
バレディレッタの頭部を魔王が鷲掴みにした。
「だがしかし貴様の魂は醜い、生きている価値などありはしない」
そう吐き捨てて魔王はバレディレッタの頭部をトマトの如く潰し、地面に捨てる。
「さて、まずは力を取り戻すところから始めようか……待っていろよ我が娘、アーミレッタよ」
魔王はそう言い1人洞窟の奥底で笑った。




