孤児院の行く末
バレディレッタが振り返ると男と少女がいた。
男の方は誰だかはわからない、疲れたように息を切らせ膝に手をついているままだった。
けれども問題は少女の方だった、普通なら彼女を知らないなんて人間はいないだろう。
彼女はつい最近新たに国王となった3人のうちの1人……リリー様だったからだ。
何故ここに!?そう思うバレディレッタに対してリリーが口を開いた。
「貴方、今……アミに何しようとしていたんですか?」
彼女の口調は冷たく、そして怒りが込められていたのだ。
「い、いやいや落ち着いてくださいリリー様、こやつめは貴方様を騙しておる悪党なんですよ……」
バレディレッタは両膝を地面につけ目線をリリーより下げ適当な発言をする。
「貴方にアミの何がわかるの?」
そんなバレディレッタの発言をものともせずリリーは言い返した。
「それに私達には無断で孤児院を解体……ですか」
リリーはバレディレッタに詰め寄る。
バレディレッタの顔は段々と青ざめていくのがわかった。
「只今、姉様達に貴方について色々と調べてもらっています。今回以外の貴方の不正も明らかになるでしょう」
リリーは追い打ちをかけるようにバレディレッタに事実を突き付けた。
その言葉を聞き、バレディレッタは顔を落とした……が次の瞬間。
「……ざけるなよ」
バレディレッタが一言呟き立ち上がり、そして……
「ふざけるなよ、このクソガキが!!国王だからって調子こいてんじゃねぇぞ!!」
化けの皮が剥がれたかのようにバレディレッタは豹変しリリーへと襲い掛かろうとした。
しかしリリーはバレディレッタの行動に動じずに
「本当ならアミの分をお返ししたいのですが……あいにく私は非力なので、後は任せます」
そう言ってリリーは道を開けるかのようにしてその場から歩いて離れる。
当然リリーを追いかけようとするバレディレッタの目の前に1人の男が立ちはだかった。
その男はさっきまでずっと息を切らしてたはずの龍吾郎だった。
昨日アミが受けた痛み、そして今見る限りこの男の被害にあった孤児院の子供。
子供達の事を思うとこの男のしてきた事に対する怒りが湧き上がってきていたのだ。
彼はバレディレッタの前に立ち拳をバレディレッタに振りがざした。
龍吾郎の拳はバレディレッタの顔面へと直撃する。
バレディレッタの顔は龍吾郎の一撃によって歪み、地面に削られるかのような勢いで転がった。
バレディレッタはそのまま地面に倒れ動く様子はなかった。
しかし死んでいる訳ではない、龍吾郎はこの男には対して怒りがあったが感情任せにバレディレッタの命を奪うほど冷静さを失ってはなかったのだ。
バレディレッタが倒れ、彼と共に孤児院へと来ていた男達は動揺する。
その時リリーは口を開く。
「さっさとこの男を連れてこの場から去りなさい!貴方達にも後ほど然るべき罰を与えます」
リリーの言葉にその場にいたバレディレッタの連れの連中は悲鳴を上げながら慌ててバレディレッタを担いでその場から去って行った。
そしてバレディレッタ一行が姿を消しその場にはしばらく静寂な空気が漂っていたのだ。
かなりあっさりとした結末にナイヒィールや孤児院の子供達は信じきれていなかったのだ。
最初に口を開いて言葉を発したのはアミだった。
「お父さん!リリー!?なんでこんなにはやく……」
アミはリリーと龍吾郎を交互に見ながら2人に尋ねる。
龍吾郎がパゼレから王都へ出発したのが昨日の夕方……それからリリー達と状況を説明してから帰って来るのにはかなりの時間がかかると思っていたからだ。
何故俺達がこんなにもはやくにパゼレに戻って来れたのか……それはリリーの魔法のおかげである。
王都での話が終わり、俺はどことなく嫌な予感を感じていてすぐにパゼレへと帰ろうとした。
しかしその時、事情を聞いたリリーが
「私も行くわ!」
と言ってきたのだ。
俺やガーラがいくら説得しようがリリーは聞かずやがて俺達の方が折れてリリーも連れて行く事になったのだ。
連れて行くにあたりリリーの安全も確保しなければいけない、そう思ってくれたのかガーラはビィアルを呼んできたのだ。
理由は彼女の結界魔法で俺の移動での衝撃からリリーを守るためだった。
更に俺のスピード魔法に対してリリーの強化魔法を使い、行きの時の何倍もの速さでパゼレに戻ってくることが出来たのだ。
まぁ体への負担がかなり大きかったから今後はあまり使いたくはない手段だ。
「あの……リリー様……」
そんな事をアミに話しているとナイヒィールがこちらに近づいてリリーに話しかけていた。
「この度は……その誠にありがとうございました」
頭を深々と下げてナイヒィールはリリーに感謝の言葉を述べた。
「別に……私はアミの為にやった事だから!勘違いしないでよね!」
リリーはナイヒィールにそう返す。
「後以前から受け取れずにいた支援についてはすぐに行います」
リリーは続けて恐らくバレディレッタによって止められていたであろう支援についての話もする。
「そんな……!わざわざ私達の為に……」
ナイヒィールはリリーの対応に涙を浮かべて喜ぶ。
「一応私達の責任問題だったので……今日はこれくらいにして王都へと戻りますね」
リリーは大人らしくナイヒィールに説明をして帰ろうとする、しかし……
「お前どうやって帰るんだ?」
「えっ?」
俺の問いかけに疑問符をリリーは浮かべた。
「え?も何ももうビィアル様にかけてもらった結界魔法は解けてるだろ?生身で俺の魔法の衝撃耐えられないだろ」
とリリーに説明した。もうすでに王都からかかっていた結界魔法は解けており、このまま俺の魔法で王都に送り届けようものならリリーの体は衝撃に耐えられずバラバラになる。
「そ、それじゃあ……私は今日どこに……?」
ようやく状況を理解できたのか、リリーは冷静さを失い慌て始めた。
「それじゃあ……今日は孤児院で泊まってかない?」
そんなリリーにアミは提案する。
「そんな……リリー様にこんな場所で泊まってもらうわけには……」
ナイヒィールが絶叫する。
確かに孤児院の衛生管理は悪い、そんな場所にこんなお偉いさんを泊まらせておくのは問題になりそうだ。
「アミも一緒に泊まる……?」
しかし絶叫しているナイヒィールを横目にリリーはアミに尋ねた。
「うん!」
その問いかけに対してアミは即答する。
するとリリーは顔に笑みを浮かべ。
「じゃあ泊まらせてもらおうかしら」
孤児院に泊まる事を決意した。
その際ナイヒィールは反対していたが。
「まぁ本人もこう言ってる訳だし、いいんじゃないか?」
俺がナイヒィールに説得して今日はアミとリリーは孤児院に泊まることになったのだ。




