王都編【19】
一本の矢が国王、シュルバンに突き刺さった。
兵士達が騒然とする中、ただ1人の男が叫んだ。
「ファリア!!マーヒィ!!」
クーリッシュが仲間の2人の名前を呼ぶ。
マーヒィは即座に国王の元へと走り、ファリアは魔法の詠唱を行う。
彼等の行動に気が付いた俺はマーヒィと共に国王の元へと駆け寄る。
俺とマーヒィが国王の元へと着く瞬間にファリアの魔法が展開される。
「──チェンジ!!」
その瞬間、ファリアの姿が消えてその場所には1人の弓を持った男が立っていた。
この時ファリアの空間転移魔法により、ファリアと国王を射抜いた男の位置が入れ替わったのだ。
男が現れるなり、クーリッシュは剣を掲げて男の頭部に振り下ろす。
いきなりの転移魔法に状況整理が出来ていない男はクーリッシュの剣により叩き斬られたのだ。
「「ヒール!!」」
俺とマーヒィは同時に国王へ回復魔法を使用した。
大量の魔力を全て回復魔法に費やす2人。
【……ダメです】
俺の脳内の説明がそう断定した。
けれど俺はその言葉だけじゃ諦めきれなかった。
たかが矢に撃たれた程度……けれどシュルバンの胸部からの流血が止まらない……
俺はこの人とはあまり親しい関係ではない……どちらかというと苦手なタイプの人間だった。
だけどもさっきの自らを犠牲にしてまで娘達を守ったその行いは、父親として素晴らしいとそう思えたのだ。
だから助けたいと思った……がしかし傷が治らねぇ……
「私も……手伝うわ」
治療が上手くいっていない事に気が付いた王女のリリーが名乗り出る。
「回復魔法がつかえるのか!?」
俺はリリーに期待を寄せる。
矢が急所に当たったのか俺達2人では回復しきれない……
それでも……1人増えたくらいじゃ……
「回復魔法とは違うの……私の魔法は他人の魔法の効果を倍増させる魔法……それを今から2人にかけるわ」
「──強化魔法ブースター」
リリーが魔法を使用する。
その瞬間、体中に力が溢れ出てくのを実感した……これなら!!
矢に射抜かれた箇所の治療は瞬く間に終わっていく、血が止まり矢によってあいたあなすらも閉じていき治療は完結した
……かに思えた
「ごほっっ!!」
「なっ……!!」
突如としてシュルバンは口から血を吐き俺は呆気に取られてしまう。
【元々この人は永くなかったんです……だから矢に射抜かれた箇所を回復させても、意味は無いんです】
そんな……そんな馬鹿な事があるか!?
「ありがとう……もういい……」
シュルバンは息を切らせながら俺とマーヒィに向けて感謝の言葉を放った。
「最後に娘達と……話をさせてくれ」
あまりにも弱々しい言葉に俺達はその言葉に逆らう事が出来ずに下がった。
リリー、ガーラ、ビィアルはそれぞれシュルバンの言葉を聞き近くによる。
「そんな……お父さん……」
先に口を開いたのはガーラだった。
自分の父親が矢に射抜かれたのは自分を庇ったせいと考えているような表情でシュルバンに顔を近付けて見ていた。
「気にすることはない……元々そう永くはなかったんだ。ガーラが無事でなによりだ」
シュルバンはそっと優しく、涙を流すガーラの頭を撫でた。
「もう……残された時間はない、だから今時期国王を発表する」
国王シュルバンが3人の娘の前で宣言をする。
この時、俺はなぜシュルバンが危険を承知の上で王位継承をしたかったのかを理解した。
あたりは沈黙に包まれる。
「次の国王は………………ガーラ、ビィアル、リリーお主ら3人だ」
シュルバンの口から驚きの発表がなされる。
「ガーラの知識、ビィアルの結界、そしてリリーのビィアルの結界を強化できる魔法……お主ら3人が手を取りあいこの王都を導いてくれ……」
ゆっくりと……残された時間を噛み締めるようにシュルバンは語る。
3人の新たな国王もその様子を静かに見守りしっかりとシュルバンの言葉を聞いた。
「しかし……無理はせぬようにな?無理ばっかりしてしまうと、ワシのように老けてしまうからの…………」
「最後にお前達に言っておくことは……ワシはお主ら3人を愛している……」
その最後の言葉を笑顔で言ったのを最後にシュルバンは動かなくなり、その後死亡が確認された……
ガーラ、ビィアル、リリーの3人の悲しみに溢れた泣き声が王都に広がった。




