王都編【13】
クーリッシュと名乗った男を俺は見ていた。
その金色の髪、その神妙たる佇まいはまるで勇者を思わせる雰囲気を出していた。
「マーヒィはその2人に治癒魔法を!ファリアは俺の援護の為待機!!」
クーリッシュはすぐさま仲間の2人に指示を出した。
2人もそれに応えるように動く。
三角帽子を被った青髪の女性はクーリッシュという青年の指示を聞いてすぐさま俺とガーラ様に近づいた。
「──ヒール」
マーヒィとクーリッシュから呼ばれた女性は回復魔法を傷ついた俺へとかけた。
その間、赤髪でポニーテールの女性、恐らくはファリアとクーリッシュはユザと対峙していた。
「なんだか知らないが動くな!!コイツの腕を切り落とされたいか!!」
ユザは予期せぬ敵に動揺を隠せずにビィアルを立たせて後ろから拘束して人質にしていた。
このままでは手が出せない、そう思ったのか、クーリッシュは隣にいるファリアと小声で作戦を話し合っているようだった。
2人の顔には余裕そうな表情はなく、ただ苦戦を強いられているかのようだった。
その時ビィアルは考えていた。
このままでいいのかと、このまま人質にされて助けを待つばかりでいいのかと。
いいや、良くない!
これは自分が王女だからではない、ただ長年信じてきた家臣にいいように操られていた自分に対する怒りが彼女に行動を起こさせる。
それと同じタイミングでガーラも考えていた。
このままでいいのかと、このまま自分は妹が捕まっているのに誰かに守られてそれを見ているだけでいいのかと。
いいや、良くない!
自分はビィアルの姉として、妹であるビィアルを助ける!!
その思いが彼女に行動を起こさせる。
奇跡的に合致した2人は同時に行動を起こしたのだ。
まずはビィアルが……自分を捕らえているユザの腕に向かって。
思いっきり噛み付いたのだ。
「いてぇっ!!」
クーリッシュに気を取られていたユザは思わぬ攻撃によりビィアルから手を離してしまった。
その瞬間、ビィアルを保護しようとクーリッシュがビィアルをまた捕まえようと再び手を伸ばすユザ。
しかしその2人より早く動いていたガーラはやさしくビィアルを抱きしめた。
ユザの蛇腹剣が2人に襲いかかろうとしていた。
「ファリア!!」
ビィアルとガーラを見て咄嗟にファリアに叫ぶ、クーリッシュ。
その意図に即座にファリアは理解した。
「──空間転移魔法チェンジ」
蛇腹剣がビィアルとガーラに襲い掛かろうとした時突然2人が消えたかと思った瞬間、その場にクーリッシュが現れた。
そして先程までクーリッシュがいた場所にはビィアルとガーラがいた。
「空間転移魔法!?」
先程までの現象に心当たりがあったユザは驚愕した。
空間転移魔法なんて超高度な魔法、そんな魔法が使える人間なんて希少すぎて見たことがなかったのだ。
しかしユザはそんな事を気にしていい状況ではなかった。
自分へと向かってきた蛇腹剣をクーリッシュは縦一直線に切り捨て、ユザの蛇腹剣はバラバラに破壊された。
「なっ!?」
自分の武器が破壊され、戸惑うユザ。
「大人しく降伏しろ」
武器を失ったユザに対して、降伏を勧めるクーリッシュ。
「なっ!!そんなことする訳ねえだろぉぉ!!」
ユザはクーリッシュの発言に激昂し突撃してくる。
しかしクーリッシュは難なくユザの腹部を蹴り飛ばした。
「もう一度言う、降伏しろ」
蹴り飛ばされて地面に転がるユザを見ながら再びクーリッシュは降伏を勧めた。
「舐めやがってぇぇ!!!」
ユザは懐から何かを取り出した。
それは大粒の魔石だった。
「お前……何を!!」
「これでお前ら全員殺すっ!!」
ユザはすぐに持っていた魔石を口に入れて飲み込んだ。
その瞬間だった、ユザの体に異変が起きる。
肌は赤く変色し、腕・足が膨れ上がり体自体が巨大化していき通常の人間の10倍程巨大化したのだ。
「あっはっはっはっ!!どうだ俺は今!魔人となった!!もう次の王女など関係ない!みんなまとめて死ねっ!!」
巨大な魔力がユザだった魔人から溢れる。
その魔力量は以前龍吾郎と戦った魔人エスカールを凌駕していた。
その強大な魔力でその場にいたガーラ、ビィアル、アーサーは死を覚悟した。
しかし、クーリッシュは。
「なぁあんた、あれもう殺していいか?」
振り返ってビィアルに向かって聞く。
ビィアルは頷くしか無かった、それが自分の元部下に出来る最大限の事だった。
「わかった」
笑顔で了承するクーリッシュ。
しかし背後からは魔人が放った拳が迫ってきていた。
結論から言うと勝負はすぐについた。
クーリッシュは縦に剣を振るった、たったそれだけで魔人の体は縦に真っ二つに割れた。
「──は?」
何が起こったかわからない魔人に対してクーリッシュは横に剣を振る。
魔人の体は上半身と下半身に別れてそのまま魔人の体は崩れていった。
「お前がただの人間なら殺さなかったよ、でもお前は人に害をなす魔人になっちまった。
俺はお前のような魔人を殺すのに容赦はしない」
クーリッシュは魔人にそう吐きかけた。




