王都編【9】
国王の話が終わり王位継承を翌日に控えた夜、俺は城の中を歩いていた。
少しばかり気になったのだ。あの国王の気持ち、あの去り際に発した「娘を護ってくれ」という言葉、あれはどういう事なのだろう?
そのまま歩いているとバルコニーに1人の女性がいるのが見えた。
金色の髪に白く清楚な装いをして大人の雰囲気を醸し出している彼女は、この国の第1王女であるガーラだった。
こんな時間に護衛も付けずに何をしているのだろう?
「こんなところで何してるんですか?ガーラ様」
俺はバルコニーにいるガーラに話しかける。
「あなたは……確か……」
ガーラは俺にすぐ気付いて、俺の方を向いた。
「どうも、一応リリー様の護衛として雇われた悪希 龍吾郎という者です」
頭を下げ改めて自己紹介をする。
「あなたが……!今日は虚空の森での事とあの子を護ってくださりありがとうございます」
ガーラは今日の事とリリーの事について感謝の意を伝える。
「いえいえこちらも仕事ですので当然の事をしただけですよ」
その感謝の言葉にそう返す。
「それよりも明日の王位継承ですよね?こんなところでそれも1人で何をしているんですか?」
俺はガーラに1人で歩いている理由を聞く。
「明日は王位継承だから……少し考え事をね」
うつむきガーラはそう口にする。
考え事と言うと……まあ明日の事だろうな。
考えると1番大人なガーラに王位を継承するのが妥当だろう。
王位を継承するということはこの国の新たな国王になるということだ。
彼女は新たな国王になる事の重大さについて考えているのだろう。
「……わたしなんかが国王になれる訳ないんですよね……」
ガーラはいきなり弱音を吐き出す。
「わたしができる事なんて精々、政治と外交くらいで……お父様のように王都の結界を張る事なんてわたしには出来ません……」
少し聞いたことのない単語が出てくる。
王都の結界??
【それはこの王都に貼られている悪意を持つ者に反応する結界の事です】
疑問に思っていると説明が結界についての情報を教えてくれた。
【別に害はなかったので言いはしませんでした。それとこの結界かなり弱まってきていますね】
結界が弱まってきている?
俺は説明が説明放棄した理由をとりあえず置いておいて結界が弱まってきていることに疑問を抱く。
「お父様はもう長くはありません……結界維持のために力を使いすぎてもうお父様は限界にきているのです。
だからどうしても明日、結界を張ることが出来るビィアルに王位を継承させるつもりでしょう。」
疑問に思っていたことはすぐにガーラから聞けた。
なるほど……だから国王は明日の王位継承の中止に反対していたのか。
自信のなくなっているガーラの顔は少し俺にダメージを与えてきた。
純粋な女性が傷ついている姿はあんま見たくない。
「……まだ誰がなるかななんて決まってないだろ?それに結界を張るってだけで国王が決まるなんて俺は思わない」
一応ガーラにフォローを入れる。
「そ、そうでしょうか?」
自身のない返しが来る。
多分ガーラは元から自分に自信がないのだろう。
そんな人にいきなり自信をつけさせるのはかなり難しい。
だから俺はひとまずガーラの事を励ます。
「政治と外交っていう長所があるじゃねぇか……まぁ少しは自分に自信を持ってください」
俺は一応部外者なわけだ、だからこういった問題にはあまり口を挟むのはどうかと思う。
それでもこれだけは言っておかないと
「自分の出来ないことを嘆くより、自分の出来ることを大切にした方がいい。
……俺はもう部屋に戻るから、あんまり1人で出歩くのは控えてください」
俺は一言だけ残して、ガーラと別れて部屋へと戻ろうと城を歩く。
すると話し声がどこからか聞こえてきた。
声的には男と女の声だ。
興味本意でその男女の話を聞こうと声の場所へと耳を澄ませて近づく。
そしてその声の主達が視界に入る。
どうやらこの声は第2王女のビィアルとその執事であるユザの話し声だったようだ。
2人で何やら話しているのに聞き耳を立てた。
「お姉様を差し置いて、結界が張れるだけの私が国王に選ばれるなんて……そんな事あっていいはずがありません」
どうやらこっちも明日の王位継承についての話のようだ。
「お姉様は私なんかよりも凄いんです……それに私なんかに国王なんて務まるはずがないんです」
執事に強く訴えかけるビィアル。
「大丈夫です、あなたには王になる資格があります。
私たちが国王になったあなたのことをお支えします」
ユザはやさしくビィアルをなだめた。
これ以上は聞いちゃいけない……
そう思った俺は今度こそ部屋へと戻った。
明日の王位継承……おそらく楽な仕事ではないだろう。
お互いがお互いを王に相応しいと思っている……誰が国王に選ばれるかは明日にならないとわからない……
それにしても、2人ともリリーについては触れなかったな。
そうして俺たちは王位継承の日を迎えた




