王都編【2】
第三王女であるリリーの護衛の為馬車に乗った俺とアミ。
行き先は王都・リズンバル
生意気な王女であるリリーと一緒という事でかなり面倒なことになる……と思っていたんだが……
「あ〜ほんとかわいい〜」
何故か王女リリーは俺の隣に座っているアミに抱きついてご満悦していたのだ。
その姿はまるで、可愛いぬいぐるみを買ってもらって喜んで抱きしめている子供のようだった。
そんな時ちょっとした疑問が脳をよぎる。
「……おい、お前まさか……俺を指名したのって……」
本来リリーの護衛をするのは俺ではなく、別の冒険者がやるはずだった。
しかし、手合わせをしたいとその冒険者から頼まれたから手合わせをしたところその冒険者に怪我を負わせてしまった為、俺が代わりにリリーが俺に護衛する様に命じた……
と思ったが、このリリーの様子を見てもしかしてと思った。
「なに?この子が可愛かったからあなたを指名しただけだけど?」
リリーは『何か問題が?』とでも言いたいような顔を俺に向けてきた。
その後すぐにリリーはアミに方を向いて抱きしめてる。
アミもどうなってるかわからない様子で困惑していた。
するとリリーの手がアミの前髪に触れ、隠していた右眼が出てきてしまったのだ。
俺はそれを見て焦る。
半魔人は受け入れられているとはいえ、まだ快く思っていない人が多いからだ。
「あなた……その眼……」
リリー静かにアミの眼をじっと見た。
右眼が出ていることに気がついたアミは咄嗟に前髪で右眼を隠そうとする。
「とっても綺麗ね!オッドアイってやつ?」
とアミの眼に対して称賛の言葉を送った。
そのリリーの言葉にアミはキョトンとしたような顔をする。
「怖く……ないんですか?」
アミは恐れながらリリーにたずねた。
「そんな事ないわよ!あなたとっても可愛いんですもん、逆に怖がる理由なんてどこにあるの?」
リリーは自信満々にアミへと身を寄せる。
俺はわけがわからなく首を傾げる。
俺の向かい側に座っている執事の爺さんは静かにただ気まずそうな顔で俺を見ていた。
その表情は申し訳無さそうな顔をしていたのだ。
「あ〜ほっぺもぷにぷに〜!!」
自分の執事がそんなことになってるのを気にせずにリリーはアミを可愛がる。
リリーはアミの柔らかそうなほっぺを指先で優しく突いた。
最初に出会った時は少し痩せ細かったアミだが、一緒に暮らしていくうちに健康的なまでの体へと戻っていった。
その時にほっぺも可愛らしく柔らかそうに膨れていったのだ。
それはそれとして、アミがリリーの猛アタックを受け続けて目を回してしまっていた。
「おい、そろそろやめ……」
流石に止めようと思い声をかけようとした瞬間……馬車が急停車をし、車内は激しく揺れた。
「なんですか?」
運転手側に座っていた執事が後ろの窓から馬車の運転手に事情を聞く。
「そ、それが……」
運転手は怯えたような声で執事に事情を説明しようとしていた。
俺も馬車の扉に付いている窓から顔を出して前方の様子を伺った。
そこにいたのは……
「そこにいるのはわかってるぜぇ!!お嬢様よぉぉ!!」
「ちょっと俺たちと楽しいお話でもしようか!!」
ガラの悪い男二人組が馬車の前で刀を振り回して道を塞いでいたのだ。
「あの人達が道を塞いでいて……どうすれば……」
運転手も怯えながら、執事に助けを求めていた。
お嬢様……リリーの事か?
確かに3番目とはいえ、リリーも王女だ誘拐すれば多額の身代金を請求出来る。
それにしてもこの2人はなぜこの馬車にリリーが乗っている事を知っていたのか……?
いや、そんな事を考えているよりやるべき事が俺にはある。
「どうしたの?あなたわたしの護衛なんでしょ?働いてね。」
そうだ俺は今リリーに雇われている身、この状況をなんとかしなきゃいけないのは俺の方だ。
「……アミを頼む。」
「言われなくても、この子には指一本触れさせないわ!!」
俺はアミを任せて馬車から降りる、リリーはアミを守るかのように強く抱きしめていた。
「お、なんだぁ?てめぇ!?」
道を塞いでいる男の片割れ、ガタイが横幅に広い男が俺にガンを飛ばしてくる。
「おい、邪魔だ。大人しくどけ。」
臆する事なく男2人に注意をする。
「だってよアニキ!コイツしばいちゃいやしょうぜ!!」
もう1人の方、縦に長細い男は隣の男に対して俺にも聞こえるくらいの声で囁く。
「そうだな!俺たちでやっちまうぞ!!」
男達2人が同時に襲いかかってくる。
──マジックオープン
「中級風魔法ストーム!!」
こういった時は武力行使が1番楽だと知っている俺は即座に魔法を発動する。
竜巻が男達に襲いかかり、飲み込む。
「「あ〜〜れ〜〜」」
やがて竜巻から男達が遠くの方に飛ばされていくのが見えた。
「あんたすげぇや!ありがとう!!」
道を塞ぐ障害がなくなったので、運転手の感謝の言葉を聞きながら俺は馬車へと戻る。
「よくやったわ、褒めてあげるわ!」
偉そうな態度でアミを抱きかかえたままリリーはお褒めの言葉を投げかける。
「はいはい、ありがとうな」
そっけない返事をして、馬車は再び動き出す。
日が暮れ一晩が経ってしばらくした後……
「つきましたよ!皆さん!!」
運転手が馬車の中にいる俺たちに声をかける。
リリーに未だに抱きつかれて可愛がられているアミを一目見て、俺は窓を開け外を見る。
「……すげぇな」
そこにあったのは凄まじいほどの大きさの王都・リズンバルだった。




