龍吾郎対クーリッシュ
「仕事ねぇな」
ギルドの四角いテーブル席にアミと腰をかけながら俺はつぶやいた。
今日も仕事をしにギルドまで来たはいいが肝心の仕事がまったく入ってきていない。
今俺がしてることといえば、隣でジュースを飲んでゆったりとしてるアミを眺めていることだった。
そんな感じでボケーっとしてると……
「やぁ!久しぶりだね!!」
後ろから誰が俺に声をかけてきたのだった。
どこかで聞き覚えのあるような声だと思って後ろを振り返る。
金髪で蒼い眼、俺はコイツと会っていた。
そうこの都市バゼレに来た日に俺に絡んできた……えーっと確か名前は……
【クーリッシュです。】
俺の頭の中に説明からの言葉が聞こえた。
「あぁ、確かクーリッシュとか言ったか?」
説明のおかげでこの男の名前を思い出した。俺が彼に返事を返す。
「よく覚えていてくれた!先日はすまなかった!変な言いがかりをつけてしまって!!」
名前を覚えてもらったのが、嬉しかったのか少し上機嫌でクーリッシュは話す。
ついでにこの前のことも謝罪をしながら後ろの女の人と一緒に向かい側に座った。
「あぁそうだ!自己紹介がまだだったね!
俺の名前はクーリッシュ!伝説の冒険者ユウトの子孫にしてその生まれ変わりさ!!」
唐突に始まる自己紹介、伝説の冒険者?初めて聞くこの世界の事情に首を傾げるしかなかった。
「この2人は俺の大切な仲間のマーヒィとファリアだ!」
そう言ってクーリッシュは後ろにいた2人の女子を俺に紹介する。
紹介された2人は俺に対して頭を下げる。
「この前はすみません……」
「あの後大丈夫でしたか?」
2人揃ってまともでいい子そうだった。
両手に花まさにハーレム系って感じだな。
「あぁ大丈夫大丈夫、気にしないで。」
2人にそう返す。
2人は少し照れた顔をして、クーリッシュは何故か誇らしげな表情をした。
「って伝説の冒険者ユウトって誰?」
自然な疑問が口から出る。
それを聞いたクーリッシュは驚いた表情をして……っていうか結構表情豊かだなこいつ。
「ユウトを知らない!?……いいか?伝説の冒険者ユウトっていうのはな、かつて人々の暮らしを脅かした魔王を退けた歴代でも最強の冒険者なんだぞ!!」
魔王?いかにもアルコール度数が高そうな言葉が聞こえた。
最近酒飲んでないな……
それはそれとして、コイツはその伝説の冒険者とやらの子孫で生まれ変わりなのか。
「よくはわからないが、凄いんだな。
その人はお前の祖父か?」
とりあえず軽く返答する。
「?いや違うが?」
違うのか、なら父親とかそれか祖父よりもさらに離れた……
「ユウトは俺の祖父の友達の子供の親友の父親の弟のその従兄弟のその奥さんの父親の友達…………」
「いや遠いわ!!」
ユウトとクーリッシュの関係のあまりの長さに思わずツッコミを入れてしまった。
なんだよそれ、それがありなら俺だってそのユウトの子孫って事でも許されるんじゃないのか!?
この感じだと、生まれ変わりってのも怪しいな……あまり関わらない方がいいタイプの人だこれ。
なにはともあれ、早めに会話を切り上げた方がいいな。
「んで?何か用か?無いなら帰るぞ、こっちは依頼が無くて困ってるってのに……」
そう言って俺は席を立とうとした。
「実はあなたにお願いがありまして……実は俺は明日要人護衛の任務があるんです……」
いきなりクーリッシュは話し出す。
こっちは依頼がないってのに、お前の依頼の話をされてもって感じだけど……
「でも俺自信が無くて……よければあなたと手合わせしてもらえないだろうか?」
手合わせ?あんまり疲れるようなことはしたくないな……
「パス、大体なんで俺がお前と手合わせしなきゃなんねぇんだよ。」
そう言ってテーブルから立ち上がりその場を去ろうとした。
「お願いします!報酬は払いますから!!あなたは強いってギルドの他の人から聞きました!!」
そう言って泣きつくように必死にお願いをしてきた。
ちょっとめんどくさい奴と思ったが……
「……報酬は払ってくれるのか?」
彼が言った報酬というのに反応した。
「そりゃもちろん!タダで手合わせなんて頼みませんよ!!」
ハッキリと彼は報酬を支払うといった。
仕事というのなら断る理由なんてない。
「わかった、お前と手合わせするよ」
俺はクーリッシュの頼みを聞くことにした。
「本当か!?なら今からやろう!!」
クーリッシュは喜びながら立ち上がる。
しかしその時、横から咳払いをする声が聞こえた。
その咳払いの声の方を向くとそこには受付のリリーンが立っていた。
「手合わせするのはいいですが、流石にギルド内ではやめてくださいね?」
どうやら俺たちの会話を聞いていたようでその忠告に来たようだ。
「あ、あぁわかった外でやるよ」
そう言って俺たちはギルドの外へと出た。
しかし外へ出ていざ勝負!と思ったが……何故かギルドの外には多くの冒険者達が集まっていた。
いったい何事かと思ったが、どうやら俺達の話が聞こえて俺達の勝負で賭け事を行うらしい。
冒険者達からはどっちに賭けるか?という話し声が聞こえてきた。
とわいえ手合わせを中断するわけにはいかなく、勝負は始まるのだった。
10mほどの距離をおいて、向かい合う俺とクーリッシュ。
アミや他の冒険者達は俺達2人を囲うように立っている。
「武器とかはいいんですか?」
クーリッシュは背中に背負っている剣を構えながら、俺に聞く。
そういえば剣とか武器とかは使ったことがなかったな……
でも俺は魔法とかでなんとかしてきたし、今回もいいか。
「あぁ、大丈夫だ。」
そう返事を返した後に審判役であるリリーンが俺とクーリッシュの間に入る。
「それでは……勝負開始!!」
そして始まる俺とクーリッシュの戦い。
まぁ最初は距離を取って様子見がてら戦うとする……
そう思った一瞬にクーリッシュは10mもの距離を詰めて俺の目の前にまで来ていた。
【──補助風魔法フロート!】
とっさに説明が魔法を使い体が身軽になりクーリッシュの攻撃を避けれた。
コイツ多分めっちゃ強い!
その後も距離を詰めて戦闘を行うクーリッシュ、俺はクーリッシュから距離をとりつつ魔法を使うことが出来た。
「──炎中級魔法フレアバーン!」
俺の手から出てきた巨大な炎の球はクーリッシュに一直線に向かっていった……が
クーリッシュが剣を縦に振り、炎の球を切った。
これからどうするよ?
【それでしたらこの魔法2種類をお使いください】
そして説明はとある2つの魔法を提案してきた。
とりあえずやってみるか!
「──氷初級魔法アイスフロア──岩中級魔法ストーンフォール!」
俺は説明から提案されていた2つの魔法を使う。
地面には氷が張り氷の床を作り、上空からクーリッシュ目掛けて岩が落ちてくる。
「なんだと!ダブルマジックだと!?」
クーリッシュは俺の魔法に驚いた様子を見せていた。
俺に気を取られていたクーリッシュは足元を注意していなかった。
クーリッシュの踏み込んだ足は氷の床を思いっきり踏みつけてそして……
思いっきり足を滑らして顔面を地面と激突させるようにコケたのだ。
そしてコケているせいで動きが止まったクーリッシュにストーンフォールの岩が降り注いだ。
「ぐ、ぐわぉぁぁぁぁ!!!」
クーリッシュは落ちてきた岩に下敷きになり、姿が見えなくなった。
その後しばらくの沈黙があり……
「「大丈夫か!クーリッシュ!!」」
俺を含めたその場にいる奴らがクーリッシュの身の安全を心配した。
とりあえずでクーリッシュの上に乗っかっている岩をどかしている時にその人物はやってきた……
「なんですのこれは?たかだか冒険者達がわたしの道の前にいるんですか!?」
甲高い声がギルド前に響き渡る。
その声はたった今ギルド前に着いた馬車の中から聞こえてきて、その声の主が馬車から外へと出てくる。
金髪のロングヘア、歳はおおよそアミと同じくらいの裕福そうなドレスを見にまとった女の子が出てきた。
「わたしを誰だと思ってるの?
わたしは王都・リズンバルの第三王女リリーよ!!」
ギルド前は騒然とした。




