龍吾郎!異世界転生をする!!
「竹本組を抜ける。龍吾郎お前、本当にいいんだな?」
とある場所にある和風の屋敷の一部屋に2人はいた。
サングラスを掛け、目の縦傷とが印象的な竹本組の組長、竹本源五郎は目の前にいる男に対して確認を取る。
この組みには俺を拾ってくれた恩義がある、この組の奴等は良い連中ばっかりだ。
だが、それでも……俺は決めたんだ。
「はい、覚悟は決まってます。」
その男、亜楼 龍吾郎は真っ直ぐな目で源五郎を見る。
「そうか、お前が決めた事なら俺は口出しはせん。」
はぁ……とため息を吐きながら源五郎は龍吾郎の竹本組を抜ける事を認める。
「だけど、ケジメは取ってもらうぞ。」
そうして、龍吾郎は左の小指を失った。
組を抜けた龍吾郎は屋敷を出て、街を歩いていた。
黒い髪のオールバックで紺のスーツを着ていた龍吾郎は周りの人間から視線を集めて注目を集めていた。
中には固まって龍吾郎の方を見ながら何かをコソコソと話す主婦の集団もいる。
だがそんなことは龍吾郎にとっては日常茶飯事だった。
これまでやってきた事を考えればこんな事をされても仕方ない、そう龍吾郎は考えていた。
だから大切なのは過去ではなく今。
これから汚いことから足を洗って真っ当に生きていこう。と龍吾郎は決意を決める。
先に逝った妻の為にも。
しかしそんな決意を決めた直後、
歩道を歩いていた龍吾郎にトラックが衝突して、龍吾郎は死んだ。
「はっ!……なんだここは?」
次に龍吾郎が目を覚ましたのは緑の草木が生い茂る草原だった。
周りには草原と少し近くに木々が立ち並ぶ深そうな森が見えた。
「ゆ、夢でも見てるのか?」
いきなりの事で頭が理解出来てない龍吾郎は自分の頬をつねった。
「い、いててて。……夢じゃねぇのか?」
痛みを感じ、龍吾郎はこれが夢でないと実感した。
「じゃあ、ここは何処だってんだよ……」
【この世界の説明を致します。】
【ここは貴方がさっきまでいた世界とは別の世界、通称異世界というものです。】
突如、脳内に機械のようで女性のような声が響いた。
「な、なんだぁお前!?どこにいるんじゃ!!」
いきなりの声に驚いて龍吾郎は周りを見渡しながら叫ぶ。
しかし周りに人影はなく、人の気配もしなかった。
【私は説明、この世界で貴方の知らない知識を与える存在です。】
そんな事をいきなり言われても、さっきから不可解な現象に襲われた龍吾郎には理解が追いつかない。
「うさんくさ、まぁそこらへんにいる人にでも聞いた方が何倍もいいな。」
姿の見えない怪しい奴よりも普通の人間の方が信用できると判断する。
【はぁ!?なんですか、私がせっかく……】
「きゃあああ!!」
説明とかいうのが俺に対して文句を言おうとした途端、遠くの方で小さい女の子の悲鳴が聞こえた。
「……なんだ!?ど、どこだ!?」
悲鳴が聞こえたという事はこの近くに人がいると思い、龍吾郎はその声が聞こえた場所を探そうとする。
【どうやらさっきの悲鳴はあの森の中みたいですよ。】
俺が疑問に思った事を教えてくれる……怪しい奴だが、今はどうやらそんな事を言っている場合ではないようだ。
俺は説明が教えてくれたように森の中へと入っていく。
森の中に少し入ったらその悲鳴の声の主は見つかった。
纏っている服は服と呼べるのかわからないようなボロ布。
白髪で黒い左眼に前髪が右眼が隠れてしまっている小さい女の子が、青ざめた顔をしていて腰が抜けているのかその場に座り込んで動けないようだった。
その理由はその女の子の前にいる生物を見たらすぐに理解できた。
その生物の大きさは大型犬の5倍はありそうな体。
目は赫く、全身真っ黒で鋭い牙がいくつも生えている犬の様な生物だった。
「な、なんだありゃ?」
見た事のない生物に動揺を隠しきれない龍吾郎、しかしその犬の様な生物はゆっくりと少女へと近づいている。
【あれは魔獣です。】
魔獣?なんだよそれ?
【魔獣の説明をします。魔獣は凶悪な魔力を帯びた獣で魔石を核としてその肉体を形成しています。凶暴で肉食、人を襲っては食べています。倒すと魔石が手に入ります。】
説明が魔獣の説明をしている間にも魔獣は少女めがけて飛んだ。
「──ッッ、あぶねぇ!!」
少女が危ないと感じた龍吾郎は少女を庇うように魔獣の前に手を突き出しながら飛び出した。
とは言っても、龍吾郎には魔獣に対抗するすべはありません。
突き出した手は全く意味はなく。
このままだと龍吾郎と少女は2人まとめて魔獣の胃の中。
【魔法の説明をします。まずは[マジックオープン]と心の中で思ってください。】
唐突に聞こえる説明の声。
なんでそんな事を……とか考えている場合じゃねぇ。
──マジックオープン!!
龍吾郎が心の中でそう思った瞬間、目の前に多くの文字が現れた。
初級やら、火魔法だとかそういった訳の分からない文字ばっかりだった。
【そして、出てきた魔法の中で使いたい魔法名を叫ぶのです!】
使いたい魔法と言われても何がなんだかわからねぇ。
だから最初に目に入ったこの魔法を使う。
「──初級火魔法!ファイア!!」
龍吾郎が叫ぶ。
突き出した手からバランスボール並みの大きさの火球が出てきて魔獣に直撃する。
しばらく宙に浮きながら魔獣は燃え、火球が消える。
魔獣がいた場所には何もなく、黒い灰と小さく虹色に輝く石がその場に落ちた。
「……倒せたのか?」
魔獣がいなくなって龍吾郎は不安そうに呟く。
【はい。魔石が落ちたので、魔獣は倒せました!】
「そうか、よかった……これが魔石か」
説明の言葉を聞き、安心したように胸を撫で下ろし落ちてあった輝く石を拾った。
「あ、あの……」
後ろから声をかけられる。
少しビクッと驚きながらも背後を見るとそこにはさっき自分が助けた少女がいた。
「あなたは?」
震えながら少女は俺の名前を聞いた。
「俺か?俺の名前は亜楼 龍吾郎だ、お前は?」
名前を名乗って公平に今度は少女にも名前を聞いた。
「私の名前はアミ……た、助けてくれてありがとうございます。」
やさしい木漏れ日の中、龍吾郎とアミの出会いは2人の運命を大きく変える出会いである。