13 母さんが来た!!
僕は今、ある少女と同棲をしていた。その少女は妖怪なのだが、どうやら僕には霊感があるようで彼女のことを見ることができているようなのだ。そして…昨日、その少女は携帯電話を買ってきた。理由は、僕と離れた時に電話をするためらしいのだが……、僕は思っていた。
流「普段一緒にいるのに、使うことってあるのかよ?」
という疑問だった。彼女はいつも、僕の元を離れずずっと一緒に行動をしている。だからこそ、僕は不思議なのだ……なぜ、携帯を持つことにしたのかを……。
さとみ「さっきも言ったでしょ、お兄ちゃんや他の友達と連絡するためだってさー!」
流「まあ、たしかに言ったな……。だけど、ずっと使うわけでもないし、ましてや僕と連絡先を交換してもいつも一緒にいるんだから変わらないだろ?」
と言ったのだが……。彼女は頬を膨らませながらこう僕に反論した。
さとみ「むー…!いつもいつも携帯を使うもんじゃないでしょ!!あくまで、連絡し合うためのものなんだから、そんな長時間もつついてるわけないじゃん!!」
と正論でかえされた。彼女のその一言は全くもってそのとおりで、今までスマホゲームしかやってこなかった僕は、それに多少の依存をしていたことに初めて自覚をした。
流「だっ…だよな…、悪い」
親父「流よ、パピーはお前をそんな風に育てた覚えはないぞ?」
流「黙ってろ親父」
通常運転で親父に辛辣な返答をする。
もうちょっと空気というものを読んでもらいたいものだと、思っていると……。
ピンポ〜ん…と、家のチャイムが響き渡った。玄関に向かおうと足を運ぼうとすると…。
親父「おい流よ待て!」
と何故か親父がそこで静止を呼びかけてきた。なんだろうと思いながら、再度親父に視線を向ける。
流「なんだ親父?」
親父「嫌な予感がする……」
知るか!!と、思いながらその場を後にして玄関へと足を進めた。僕は、誰だろうと思いながら玄関に向かい、その扉を開けた……。するとそこには……。
母「見つけたわよ貴方……何故って?……私が来た!」
母さんだった。母さんの顔は、某アニメのヒーローのようなシワの入った形相で……しかも、そのキャラの名台詞であるやつも、形は違えど口にしていた。
流「母さんじゃん、久しぶりだね!」
なにもツッコムことなく平然と会話を切り出す。ただ、ツッコミをしたくないだけなのでご注意を……。
母「あら流、久しぶりね……元気にしてた?」
さっきまでの顔とは一転して、優しく綺麗な笑顔を見せながらそう問いかける母さんに、僕はこう言った。
流「あー、いろいろあったしクソ親父が来たりもしたけど、普通に元気にやれてるよ!」
母「ふ〜ん…。やっぱりここにいたのね。私の勘に間違いはなかったわ…。それで、お父さんは今どこに?」
流「リビングに居るぞ」
と言うと、母さんは指をポキポキと鳴らして、満面な笑みを浮かべながら……。
母「そう……、ありがとうね流……。ぶっ飛ばしてあげるからね、あ・な・た!」
と言うのだった。その言葉と同時に、母さんはリビングに向けて歩き出した。そうして、母さんと一緒に親父のいるリビングへと足を進めるのだった。
□□□
親父「ヒッヒィィィィィィィィィー!!!」
親父「まっままままま待ってくれ!これは誤解なんだ!別に逃げた訳ではなく、俺にも考える時間が欲しかっただけで……!」
母「あらそうなの……、遺言はそれだけかしら?」
母さんの周りには、とてつもないほどの怒りのオーラを醸し出していて……それはまるで、誰も寄せ付けないような感じだった。
親父「待て!ホンマに頼むから待て!」
親父は必死に静止をかける。
これを見せられていた僕は思った。
これが修羅場である……と。
一連の流れを説明すると……喧嘩したあと、親父が僕のアパートに来て長いごと居座った為に、母さんがいつまで経っても帰って来ない親父に怒りのあまりここに来てしまったようだ。結局全ての原因は、親父としか言いようがない。
母「はぁ〜……、どうして私こんなのを好きになったのかしら……。不思議で仕方がないわ…」
それは僕も思ったが、張本人である母さんが分からなくてどうすんだよ、と言おうと思ったがなんとか堪える。
親父「俺のかっこよさに……だろ?」
となんとも気持ち悪いくらいにカッコいいイケメン顔を見せる親父。
母「…あんっ?!!」
親父「いえ別になにも言ってませんなんでもないです!!」
それを聞き、さらに苛立ちを覚える母さんを見て、親父は早口でさっき言った言葉を無かったことにしようとする。そんな親父を見ながら、僕は嘆息する。
流「はぁ…、本当に……」
本当にこの親父は空気を読まないやつだな…とそう思わざるにはいられなかった。
母「てか……まずあなたが原因なんだからね」
親父「…?そうなのか?」
母「そうなのよ!」
親父「すまん冗談だ」
母「それで、なにが原因だったかしら?言ってみなさいよ!」
親父「こつこつと一緒に溜め込んでいた年金を勝手に使っちゃったこと?」
母「あら、珍しく覚えてるじゃない。で……、その金であなたは何を購入したのかしら?」
親父「……お菓子?」
母「4Kテレビでしょうが!!」
まじかよ親父!?と内心で驚きながら親父のその発言に呆気に取られる。どうやったらお菓子なんていう単語が出てくるんだよ。
母「あなた私に言ったわよね!流の未来のためにと少しでも貯めておこうって!あなたそれ何年前に言った!?」
親父「え〜〜と……分からん」
母「壱!年!前よー!!」
と言いながら芸人のようにツッコミをかます。母さん父さん、多分芸人なれるぞ二人とも……、と思わざるにはいられなかった。
母「これだからあなたって言う人は、バカアホうたんこなす……なのよ!」
「前なんか、私まだ湯船浸かってないのに勝手に栓を抜いたじゃない!あれのせいでまともに温まれなかったんだからね!」
親父「なっ……!それだったら英美だって、酷いじゃないか!友達からもらった大切などら焼きを勝手に食べたではないか!」
母「しょぼいわよ理由が!あと、友達って誰よ!」
親父「ご近所さんの田所さんだよ!ほら、2丁目に住んでた!?」
母「知らないわよ!会ったことないんだから!」
田所さんか……懐かしいな〜。よくあの人とはいろんな話をしていたものだ……。結構面白い人だから、僕も好きだったな……。今頃、元気にしてるかな……?と呑気に思い出に浸る僕。こんな状況で、何やってんだろうなと思った。
ふと隣に視線を送ると、怯えるように体を震わせている少女…さとみが、僕の隣で静かに座りこんでいた。
あの二人の喧嘩が始まってからというもの、さとみはずっとこの調子である。別に彼女に怒っているわけでもないのに、その母の怒りオーラ故か、今にも泣き出しそうに目尻に涙を溜め込んでいた。
流「どうしたさとみ、怖いのか?」
と僕はさとみにしか聞こえない声量でそう問いかけたのだが……。
さとみ「べっべべべべべぺぺペツニにニニニニニこ、こわがってててててなんか…ないよぉぉーー!?!」
何故だか挙動不振になり出すさとみ。
僕なんか変なこと言っただろうかか?と思いながら、そのさとみの異様な反応に唖然としていると。
母「何ですって元文ー!」
さとみ「ひゃいっ!!」
流「…んっ!?!?」
怒鳴る母さんの声量が途端に大きくなったからか、母さんに対しての恐怖心が高まり咄嗟に変な声を出して急に僕の腕にしがみつくさとみ。そんな突然のことに僕は困惑し、その場でしばらく体が固まってしまう。もちろん、こういうスキンシップに慣れていない僕にとって、これはもはや生き地獄と言っても過言ではなかった。まあ、嬉しくはあるけど。
…ん?なんだか、髪の毛から女の子の良い匂いが……って、何考えてるんだ僕は!!と煩悩を振り解くように左右に首を振る。
親父「なんなら英美だって、俺の誕生日忘れてたじゃないか!俺はお前の誕生日をちゃんと覚えてプレゼントまでしっかりと考えてあるって言うのに…!」
と親父が言うと…。
母「そっそれは……、ありがとう」
となんだか恥ずかしそうにそう言葉を口にした。……そうして、まだまだ二人の喧嘩は続いていく。
母「そういう元文だって、私との記念日を忘れてのほほんとして…!私はしっかりとあなたへの贈り物を準備してるのに!」
と母さんが言うと…。
親父「それは………、どうも…」
と親父も照れ臭そうにそう言葉を口にした。
あれ…?と、そこで僕は違和感を感じた。なんかいつの間にか褒め合いになってないか?と気づくのにはそう時間は掛からなかった。
そうして、それから長い時間が経過し……やがて喧嘩は終息した。
母「えっと……ごめんなさいね」
親父「いや、今回ばかりは俺が全面的に悪かったから。だから……、すまん」
母「そっそう!ならそれでいいわ。でも、今回だけだからね、お互い様は!」
と言った。
結局、お互いが謝り合ってこの喧嘩は終わりを告げた。長い喧嘩だったが、さとみも胸を撫で下ろしながら、さっきまで震えて密着していた体を、僕から離すのだった。
□□□
その後は、二人は無事自宅へと帰っていった。最後は手を繋ぎながら、昔に戻った見たいとか言いながら笑って帰っていった。こちらとしては面倒な親父が、もうここには来ないため嬉しいのだが、久しぶりに母さんと話がしたかったのが心の残りであったのは秘密である。
流「全く……、本当にあの二人は仲が良いのか悪いのか……、息子である僕ですらよくわからないよ」
と呆れた感じで言っていると。
さとみ「きっと……、仲が良いと私は思うよ」
「…だってさ、何十年もああやって一緒に暮らしてるんだもん。そんなの……、仲が悪いわけがないじゃん!」
と満面な笑みでそう言うので、僕はその顔を前にして思わず、こう口を滑らせてしまった。
流「…可愛い」
さとみ「……へ???」
流「あっ、やべ……」
さとみ「………」
突然のこの言葉に彼女は顔を赤くして俯いた。
その後、僕らの間には気まずいという空気が流れ始めたのだった。
気づけば外も夕方、まだまだ今日という日には一悶着ありそうだな……と、そう思わざるにはいられなかったのであった……。
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