1 影の薄い人間と幼女
皆は、妖怪というものを見た事があるだろうか?無論、僕はない。だって、人間が想像したものだから、だから存在しないんだって少し前まではそう思っていた……あの少女と、出会うまでは……。
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僕の名前は影島流。
ちょっとだけ影が薄いごく普通の高校一年生だ。まあ、ちょっとどころの話ではないのだが……。
一応、僕は誰にも気づかれないというわけでもない。ただ、それに気づく人はなかなかいないというだけの事だ。僕は、俗に言う陰キャだ。だからと言って誰かから虐めに遭っているわけではない。なんせ、この学校の人たちは誰も彼もが心優しい人たちばかりだから……だから、とても居心地が良いのだ。
いつも通り賑やかな教室の中、窓際の端っこで一人寂しく弁当を食う。
んっ?なんで一人なのかって?いくらここが平和な学校だったとしても、人と喋る勇気もない僕が友達なんて作れるわけないだろ?
一応言っておくが、中学の友達とは仲良いからな!と心の中で誰に言ってるのかわからない事を口走りながら弁当の中を摘み口の中に頬張っていく。
流「今日も母の飯はうまいな」
しっかりと母の味を噛み締めながらそんな事を呟く。まあ、一人暮らしだし食堂の弁当だし、母の味もクソもないんだけどな。
誰かの声(じゃあなんで言ったの??)
と何処からか変な声が聞こえてきたが、まあとりあえず気にしない事にしよう。なんとなく触れてはいけない気がするしな……。
流「ご馳走様、今日も美味かったな購買のカツ丼」
とそんな感想を述べながら、教室を見渡していると……。廊下の方から怪しげな人の影を発見した。
流「なんだありゃ?」
と小さく一人呟きながらその影の動きを目で追っていく。僕は、気になるは気になるのだが、めんどくさいとも思っていた。
どうしようかなと考えていると、そのガラス越しからの影が、そのまま僕たちの前の廊下を横切って見えないところへと行ってしまった。結局、好奇心という気持ちが大きく勝ってしまい、僕はその影を追いかける事にした。
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廊下を出て右側を向くと、その影は階段の方へと向かっていった。僕は普通に歩きながら、その影の姿をゆっくりと気づかれないように追っていく。やがて、屋上の扉前へとたどり着いた。ここの屋上は、普段は開いておらず、誰も入る事ができないのだが……僕は試しにその扉のドアノブを捻ってみた。すると、その扉は簡単に開いた。なぜだろうと疑問に思ったが、どうでもいいと思い考えるのを放棄した。そうして僕は、目の前にいる影へと視線を向けながら、ゆっくりと屋上の扉を閉めた。
??「あれ?」
すると、そこには……。
見た目が十歳程度の少女がそこに立っていた。肌は太陽の光に反射してとてもなめらかで、僕を見つめている目は月のように輝き、風に吹かれる黄緑色のショートヘアーがその子の姿を輝かせていた。その美しさ故に、僕の心は一瞬だけドキッとした……が、すぐに冷静さを取り戻してその子の方に再度視線をやった。
危ないところだった。もう少しで恋に落ちるところだった。まあ別に落ちても良いんだけど……。そんなことは置いといて、なんでこんなところに年端も行かない女の子がいるのだろう?とそんな事を考えていると。
??「ねえねえ?」
とさっきまでそこにいたはずの少女が、いつの間にか僕の眼前まで顔を近づけて来ていた。僕は、眼前に顔がある事に思わず驚き、ちょっとだけ後ろに後ずさる。
流「うぉぉっ!?」
僕が彼女に対して驚いたからなのか、目の前の少女は興味ありげな表情を浮かべながら、僕にこう問いかけてきた。
??「あなた、私のこと見えるの?」
流「………へ?」
思わずそんな事を聞かれて、素っ頓狂な声が漏れ出す。だが、彼女はそんなのお構いなしに、僕との距離を詰め寄りながらさらに質問を投げかける。
??「ねえなんで?なんで私が見えるの?」
流「え?あれ?えっえっえっ??」
僕は終始困惑する。
これはあれか?僕は見えちゃいけないものを見てしまっているのか?だとしたら、今日僕は死ぬって事なのか?いや、知らんけど。
とりあえず僕は、頭の中を整理するために、彼女の応答にとりあえずストップをかけた。
流「まっ、待ってくれちびっ子……いまいち状況が掴めてないのだが…?」
??「ムーー、私はちびっ子じゃないよ!私には東本さとみっていうちゃんとした名前があるんだから!」
「あ、さとみって呼んでね!」
と付け加えながら、ニコニコと笑みを浮かべるさとみという少女。別に聞いてもないのに名前まで言っちゃったし、なんなのコイツ?とますます不思議に思った。
流「ごめんごめん!悪かったよさとみ」
さとみ「それで……お兄ちゃんはなんで私のことが見えるの?」
改めて少女は、もう一度僕にそう聞いてくる。いや、なんでと聞かれても意味不明なんですけど?あと、見えるってどういうこと?
いまいちこの子が何を言っているのか全然理解できない!
流「………わからん」
と無難にそう答えてみた。まず、自分でも何もわかっていないので、こう答えるしかない訳なのだが……。
さとみ「へ〜……そうなんだ。なんだか、私お兄ちゃんの事、気になって来ちゃったよ。というわけで、それじゃあよろしくねお兄ちゃん!」
流「………はっ?」
少女のその言い方に、僕は唖然としながら、そんな素っ頓狂な声を漏らした。
流「えっ?どういうこと??」
僕はまた困惑する。いや、割と質問された頃から困惑している。
さとみ「えっ?泊めてくれるでしょう?」
いや、話の路線がクソズレてるし話が飛躍しすぎだろ!!僕一回もそんな話してないのだけど?!この子は何を思ってそう言ったの!?何もかもが意味わかんねえよ!
と心の中で困惑しながら、そう心の中で呟く。
これが、僕と彼女の最初の出会いであったのだった。
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