同調
早歩きで次の行動へと移る。
自室に戻って最低でも学生証ぐらいは見つけたいところ。
とはいえ、その部屋の場所が分からないのだが、2階建ての一軒家なら大抵は2階に子供の部屋があるんじゃないかな。
なんとなくそう思い階段を上がってみると、短い廊下があり、左手に1つ、右手に2つの扉があった。
ガチャ
自分に迷う暇を与える前に左の方の扉を開ける。
部屋の中は薄暗く、若干ホコリっぽい。色々なものが雑然と置かれている。机もない。どうやら物置のようだ。
自室ではないことを確認すると、音を立てないようにゆっくり扉を閉める。
ふー緊張した。誰もいなくてよかったわ…
しかしこの場合堂々と入るのが得策だろうと思う。
先に食事を済ませた兄が自室におり、この3つの扉のうちどれかの先にいた場合、コソコソと開けるほうが何かあるのかと思われるだろう。
堂々と部屋に入り、兄と鉢合わせた場合は寝ぼけていたとか、何言うか忘れた、なんて言っておけば特に違和感はもたれないはず、だ。
次に右奥の方の部屋に入る。
ガチャ
入ると正面に大きい窓が1つ、左に勉強机、右にベッド。
勉強机には学校の教科書や漫画が立てかけてある。
ベッドには割と大きいクマの人形…可愛いな。
全体的にピンクや水色、明るい色を多く感じる。
こ、これは、、たぶん女子の部屋だ!
生まれて初めて入ったぁ〜なんか照れちゃうなぁ。やっべニヤニヤが止まらん!
いっけねぇ、こんなことしてる場合じゃねぇぞ。
せっかくのこのJK体験を無駄にしないためにも出来るだけスムーズに登校したいんだ。
そうだ、男女どちらの部屋かは見た目で判断するとして、あとは教科書で学年を判断すれば誰がどの部屋か全部分かるじゃないか。いいアイデアだ。
とりあえず目に付いた教科書を手に取ってみる。
ええとこの教科書は…数IIBか。なら高2かな?
よし、急いでもうひとつの部屋を確認しよう。
ガチャ
よし、誰もいないな。
部屋の構造はさっきのと大体同じ、こっちは布団で寝てるのか。
おっ、こっちにはファッション雑誌があるぞ。ここも女子の部屋で決定だな。
こんなに速く女子の部屋2つに入るなんて、世界記録樹立じゃないのか?なんて…嘘です。
こちらでも机にあった教科書を適当に手に取る。
これは…物理基礎ね。じゃあ1年か。
ということは、兄の部屋の位置は保留としておいて、僕がお姉ちゃんと呼ばれていたんだから、さっきの部屋が自室ってことでいいよね?
物理基礎と数IIBじゃ明らかに数IIBの方がお姉ちゃんだもんね。
自分の部屋にある程度の確信を持ったところでゆっくりと扉を閉めてさっきの部屋に戻る。何か懐かしいという訳ではないが、この部屋が自分にしっくりきている気がする。
さてと通学カバンはとぉ…この黒のリュックか。オーソドックスだな。
う〜んこの子が生徒手帳ちゃんと持ってるタイプならいいんだけどな〜。まぁ僕なんてまともに生徒手帳持ち歩いた事ないから人のことは言えないんだけどな。
リュックの中をゴソゴソと漁ってみるが、暗くてよく見えないので、中身を全部床に放り出してみる。
しかし生徒手帳らしきものはない。
小さなポケットまで確認するが見つからない。
制服のポケットにも入っていないようだ。
あちゃ〜この子、見た目しっかりそうに見えて、カラオケとかで大人料金払うタイプの子かぁ。萌える。
生徒手帳での情報確認は諦めるか。
んっこれは…?
床に散らばった教科書達の中から保護者へのお知らせ的なプリントがこちらをみている。
こういうプリントには大抵学校名が何処かに書いてあるはずだ。
なになに、『春休み期間中の生活について』か。
高校名はえっと、北川高校だな。
よし、スマホで場所を調べよう。今のところ順調だな。
スカートのポケットにスマホが入っているのは分かっていたので早速電源ボタンを押す。
うわっマジかよパスワードかかってんじゃんか。これストーリー性どうなんだ?詰みにちかいじゃないかぁ。
とりあえず適当に打ってみるか…
4526っと。
スッ
あれ?開いた、開いちゃったよおい。そんな偶然あるか?あっ、そうか。そうだったわ。
この夢を真剣に楽しんでいるうちに、僕はこの状況が現実と同じかそれ以上の鮮明さであるとはいえ、ただの夢であるという印象を失ってきていた。パスワードが都合よく1発で解除出来たことで、興奮状態が少しおさまり、この世界が夢であるということを再認識させられた。それと同時に、自分の脳内だけでこんな事が起こりうるのか、起こっていいのかという疑問というか非常に淡い恐怖感を何処かに感じていた。