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羨望【ルルージュside】

カルミアの四人の婚約者の一人ルルージュ視点です。

初登場にしてすぐに新キャラ視点。

 私は静かに、汚らしい部屋の外からあの女を見つめていた。スウスウと寝息を立て、沢山の資料に囲まれながら机に突っ伏し気持ち良さそうに眠っている。


「何故殿下は、こんな気品のかけらも無い女を……?」


 見れば見るほど憎たらしい。こんな所で寝こけるような女に、私は負けたとでも言うのかしら。


 私の名前は、ルルージュ・アデライン。由緒正しきアデライン家の長女で、王妃になるべく、幼い頃から高等教育を受け努力を重ねてきた。


 父も母も「素敵な王子と結婚をして、世継ぎを生むことが、ルルージュの幸せだよ。」それが口癖で、私はそれに従うようにして、今まで生きてきた。


 王族の隣に立つ女性になるには気品のある王妃たる姿勢が必要だ。だからこそ、私はそれを努力し続けて保ってきた。なのにも関わらず、こんな野蛮な女に盗られるなんて。本当に汚らわしいわ。


 スカルスガルド家は確かに今や他の追随を許さぬ程の出世を続ける優秀な家ではあるけれど、それもあのスヴェン様の特筆した能力でのみ。


 親に縋り手柄を自分のものにして殿下との婚約を我が者にしようだなんて。浅ましいにも程があります。私ですら、王宮に部屋を持つことを許されていないのに、王宮に部屋まで用意してもらって、なんて外堀を埋めるのが上手い子なのかしら。


 こんなにも汚い部屋で、ベットにも戻らず本に塗れて眠る様な子に私は絶対に負けませんわ。


 殿下の婚約者として、私は貴方を決して認めない。


 これは、嫉妬なのだろうか。私はこんなにも窮屈で惨めなのに、彼女はいつ見ても笑っている。明るく楽しげに笑っている。自分の好きな事を心の底からやっている様で、それがとても腹立たしい。


 私の好きな事など一つも昔から出来たことはなかった。全てはこの婚約の為に何もかもを投げ捨ててきたと言うのに。


 ソッと部屋の扉を閉めて、私は自分の部屋に戻ろうと後ろを振り向くと、思わずひゅっと息を呑んだ。


「あぁ……!貴方!そんな後ろに立つだなんて失礼じゃない!」


「申し訳ございません。何をされているのかと不思議に思いましたので…。」


 綺麗な顔立ちのその男の制服を見て、私は胸を撫で下ろした。おそらく、あの女の護衛ね。


「貴方も大変ね。あんな娘の護衛だなんて退屈でしょう?」


 私がワザとそういうと、彼の顔色がスッと変わるのがわかった。いえ、表情は変わってないわ。変わったのは彼を囲う空気。


「いえいえ。そんな……。寧ろ忙しいくらいですよ。あの方の護衛は…。私は幸せ者です。」


 幸せ…?護衛をすることが?


「……っは。貴方、真面目な顔してご冗談がお上手ね。ロイ・ウェンデル様?でしたわよね。知ってますわ。とても優秀だと聞いております。そんな貴方が、この娘の護衛で幸せって……。」


 おかしいわ。本当に。笑っちゃう。普通、護衛をする事を幸せと思える騎士など一握りしかいないだろう。大体はわがままな貴族に仕えることに絶望している人ばかり。こんなやんちゃそうな娘の護衛で、優秀な貴方は幸せを感じるのね。


「そういえば、侍女さんは落ちぶれたマクーガルの娘でしたね。あら、いけない。この名は禁句かしら。でも、本当に変わり者揃いで……。」


 私がふふっと笑うと、護衛の顔が無表情で私を見つめていた。怒りの顔でも喜びの顔でもない、ただの無表情なのにも関わらず、彼の表情に、私は鳥肌が立った。


「変わり者……。そう…ですね。そうかもしれません。ですが、私からすれば……。」


「ローイくん♪」


 ハッと振り返ると、そこには、噂の白い医者が長い髪をたなびかせ、颯爽と私と護衛の間に割り込んだ。


「気持ちはわかるけど……我慢ですよぉ〜。我慢我慢。」


「貴方は……。確か…バン・マナギル様…」


 私が名前を口にすると、彼はにこやかに笑っていた顔をストンと落とし、静かに顔色を変えた。美しい顔が私を見つめているが、白く透ける睫毛の先の瞳から目が離せない。


「その名は捨てました。気軽に…バンと、お呼びください。」


「バン…様。」


 私が名前を呟くと、先程の顔が嘘だったかのように晴れやかな笑顔を私に見せた。


「はい!よくできました!時にルルージュ殿!もうこんな時間です。そろそろお部屋に戻られては?」


「言われなくても戻りますわ。失礼しました。また近いうちに…。」


 私はサラリと方向転換し、帰る帰途へと着く。全くなんなのかしら。今日はどれほどの無礼を受ければ良いのかしら。主人やその従者達を馬鹿にすれば、怒りを表に出して隠せないほどの強い忠誠心。あの女の周りには、彼女を慕う者しかいない様に思える。


 どれもこれも敵わない。


 そもそも、私が今王宮にいるのは、それはどれもこれもあの女。セレナ・ディ・スカルスガルドの突然の報せが発端だ。


 私の優雅な朝に届いた一通の招待状。この封を切った瞬間に私は怒りで震えたものだ。


「お茶会への招待上ですってぇ〜?」


 王宮に引っ越してすぐに茶会を開くだなんて、そんなもの自慢をしているようなものではないか。どれだけ自分が寵愛を受けていることをひけらかしたいのか。吐き気がするわ。


 でもそれでも、今となっては身分が上のスカルスガルド家の誘いを断るわけにもいかなくて、行かざるを得ない状況にも腹が立つ。


 何よりも一番腹が立っているのは、貴方の態度によ。


 セレナという女。私や他の婚約者から幾度となくお茶会の招待状を送ったにもかかわらず行く行かないの返事もなくずっと無視し続けてきたのよ。明らかに私達に仲良くする気がないと宣言しているようなものじゃない。なのに、今になってなぜお茶会を?


 あーもう。絶対に寵愛を受けたから良い気になってるんだわ。本当に腹が立つ。


 ああ言う子が何もかも奪っていくのよね。どんなに必死で努力しても、手に入れられないものを彼女はすべて持っている。


 でも何より、私はこんな気持ちを抱いてしまう自分にも腹が立つ。


 結局私は彼女を影から妬むだけで何もできない。殿下の寵愛を受ける事はないし、きっとずっとこのまま、あの子の事が嫌いなまま人生を終えるんだわ。


 はぁ……。明日はもうお茶会当日だと言うのに、なんて気分は最悪なのかしら。


 私にくっついている後の二人の婚約者達も何かしでかさないか心配だし。とりあえず今日はもう寝てしまおう。嫌なことも全て忘れて。


 無事にお茶会が終わりますように。

やっと出てきた、他の婚約者。


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