聖女様
「全くなに考えてんのかしらっ。」
私はロイとアイリーンを連れて商店街を歩いていた。
「ほんと…ですね。なんというか、急すぎですよね…。」
ロイの言葉に、私は大きく首を縦に振った。
私たちが話す内容の元凶は全てあの男。私の父であるスヴェン・ディ・スカルスガルドだった。
「屋敷どーすんだって話よ!」
私はあの日お父様から王宮の一室を渡された。なんでも、第一功の願いは王宮に私達の部屋を持たせることにしたらしい。凄い事、凄い事なのだが、なにがなんでも急すぎる。
屋敷で働いている人達の他の就職先を見つけてあげることも必要だし、それも、我が屋敷と同等レベルもしくはそれ以上の賃金保証ができる場所でないといけない。
さらに、私の管理している商店街なども、屋敷から離れれば気軽に行けなくなってしまう。管理者としてはそれは困るし、なんならもう私が管理するのは無理かもしれない。他の人に任せるしかないかなぁ…。
「まぁ、でも、イレーナ様の為っていうところが怒るに怒れないね。」
困った表情でアイリーンは私に言った。
そう、そうなのだ。なんでも、仕事が忙しく、家に帰る事が難しい為、私やお母様ごと王宮に移動させてしまえばいいという発想から来たらしい。
どうしてそこまで飛躍したんだとも思ったけど、お父様なりのプレゼントなのかと思うと、あまり文句も言えない。なるほどね。これを渡せば仲直りできると。
……個人的に、お父様とお母様の関係はただ物理的に距離が遠かっただけじゃないと思うけど。他にもっとなかったのか。急にデカい事しすぎなのよ。というか、今更なのよ!
私はお母様とはあれ以来お話していないし、この事についてどう思っているのかわからないから、結局仲直りできたのかどうかはわからなかった。
「まぁ、とりあえず、やることはやりましょう。森林国境に出向いていたし。……商店街、久しぶりね。」
商店街は何ヶ月ぶりだろうか。お腹にいい刺激を与えそうな匂いが漂う。しかし、いつもとは様子が違った。
「それにしても……ちょっと変じゃない?」
いつもなら皆私に話しかけてくれるし、楽しく歩けるのだけれど、どこか一歩引いた雰囲気だ。
私、なんかしたっけ?
「おじさん!賭け矢やりたいわ!」
私は異様な雰囲気に呑まれながらも、いつも通り振る舞うべく賭け矢をしようと声をかける。
「あぁ……あぁ!セ…セレナちゃ…様?いいよ…。やっていき……やっていってくださいませ!!」
「ちょ…ちょっとどうしたのよ。なんでそんなにしどろもどろで。」
心配になるほどおじさんは声が震えており、どこか視線も合わない。
「何よ……皆してどうしたの?私、何か悪いことしてしまったかしら?」
正直、とてもショックだった。私なりに彼らとは信頼関係が築けていると思っていた。それがこんな風になるなんて。
「あぁ……。違うんだセレナちゃん。君がね、国の聖女様とか、英雄とか、救世主とか、色々言われているからさ…いつも通りでいいのか、皆戸惑ってんだよ。」
「せっ……せいじょ!?」
私が周囲を見渡すと、ほかのお店の人も私を見に来ているようで様々ところから沢山影が覗いている。いつもはそんな対応なんてされないのに!
「ちょっと待って……なんでそんなことにっ。」
私は流れる汗を感じながらアイリーンやロイを見た。
「セレナ……新聞。読んでないの?」
「よ…読んでない。だって、引っ越しの件で頭いっぱいで。」
いつもは欠かさず読んでいた新聞。森林国境で読まない期間が長すぎて読む習慣がすこし薄れていた。
「ま……まさか…。」
私はおじさんの手に握られている新聞を受け取り、記事を見た。
『救世主セレナ・ディ・スカルスガルド。この国の危機を華麗に救う。』
『悪魔の住む森林国境へ単身で乗り込み、すべてを平定。聖女の力か?』
『カルミア殿下も認めるセレナ・ディ・スカルスガルドの力。』
「な……何これ……。」
私は、変な汗が首筋から流れるのを感じた。
ちょっと、この手柄疑われてるんじゃなかったの?私がやったってみんな思ってないんじゃ。
「セレナ。もちろんスヴェン様の力では?って声も沢山あるのよ?でもそれは貴族内での噂よ。実際、国王様から勲章をいただいてるのはセレナでしょ?そりゃ、新聞にも載るし、大々的に報じるわよ。」
「うそでしょ!?もしかしてもうそんなに広まってるの!?」
「まぁ、そりゃ、国の新聞だもの。」
アイリーンの言葉に私は絶望的な気持ちになった。
私、何もできなかったのに。バンやカイト、アーサーやカルミア様に助けられてここまで来たのに、こんなもの手柄を独り占めしたようなものじゃない。
私の力じゃ結局は何もできなかった。それなのに、こんな大袈裟に取り上げられて、皆に、合わせる顔がなさすぎる!
私が顔を青くしてると、何故か後ろから黄色い歓声が耳に響く。
私は思わず振り返る。こんな商店街に、どんなスターが登場したのよ。
しかし、私はそのスターとやらを観た瞬間に、ため息をついてしまう。
「なんだ。誰かと思ったじゃない。貴方ね。」
「久々なのに、辛辣だなぁ、セレナ。いや、聖女様の方がよろしいですか?セレナ姫。」
うげっ。もう全く、すっかり女にキャーキャー言われるようになって。
そこには、キングサリがいつも通りのしたり顔で立っていた。




