本当に愛してくれる人【カルミアside】
カルミア・デ・フォシュベリ セレナが恋する相手である第一王子視点です。
俺は、セザール国の第一王子だ。生まれた時から高等教育を受けて、この国の上には立つべく教育を受けてきた。そこに対してなんの不満もなく、なんなら、この国の王になると言うことに対する誇りと言うものまであった。この国が好きだったし、この国を良くしたいと心から思っていた。
この国の王は、とても素晴らしかった。自分主体で考えるような愚王でもないし、民を思う政治をいつでも行っていた。時には大胆な政策も行い、もちろん賛否あれど、結果を一歩一歩積み重ね今の国はとても安定し、豊かだと言える。また、他国から見ても大国な我が国で、外交という場面では本当に顕著に王の器の大きさが見て取れた。決して、セザール国を低く見積もらせるようなことはせず、お互いに利益を生むような貿易を進め、本当に本当に俺は尊敬している。
しかし、素晴らしい王だから、いい父親だとは限らない。
王が俺を恨む理由はわかっている。それは、最愛の人を俺が奪ったからだ。つまり、王妃にあたる人であり、俺に取っては母親である。健康な人だった為誰もが不安などなく滞りなく終わるはずの出産だったはずが、俺を産み落としあっさり逝ってしまったのだ。
2歳の時に王に無邪気に駆け寄った際に背中に大きな切り傷をつけられて、子供がこんなに大きな傷を負ってなぜ生き延びたのかは本当に自分でも分からないのだが、それから俺は離れで過ごすようになる。
現在は王妃はいない。子孫を残すために再婚を周囲は勧めたが、王にとっての王妃は唯一無二であり、断り続けた。しかし、この国を思えば子孫を遺さねばならず側室を1人つけて、弟のキングサリが生まれている。
キングサリは半分しか血が繋がっていないが、大切に思っている。でも、キングサリや、その母である側室はそうは思っていないようだ。
俺は、離れで暮らす幼少時代を悲しく思ったことは一度も、ほんの一度もなかった。
ただ、時々ふと、背中の大きな傷が痛む時がある。もう塞がりしっかり治っているはずなのに、傷が痛むような気がするのだ。
そして決まって、俺は自分の孤独さを考えてしまう。
周りの従者はとても優しい。優しすぎて、俺を叱るものなどはおらず、ただただ、ドロドロに優しい。腫れ物を触るような、決して家族にはなれないような。そんなものを求めるべき立場でないことはわかっているのだが、求めずにはいられない。
切れない繋がりが欲しい。親子のような無償で愛されるような強い強い繋がりが欲しい。俺が王子じゃなかったとして、その尊き血を受け継いでなかったとしたら、俺の周りに残ってくれる人は一体いるのだろうか。
王子という肩書がなくなった俺自身を愛してくれる人は、いるのだろうか。
12歳になり、今では王と同じ城に住んでいる。が、もうあの時のような感情が昂って俺に牙を向くようなことはない。心の中でどのような気持ちを俺に向けているかは分からないが仕事の時は仕事と割り切って話せる関係ではある。お互い一線は越えず、親子ではなく、王と王子として。
そして今この有様だ。一応王子として進言したのだが、婚約者を4人も作るなんて、4人で戦争しろと言ってるようなものではないか。大体、こんなものはどうでもよくて、たしかに国民に迷惑をかけるような王妃では困るが、だからといって今の年齢のような年端もいかない温室育ちの令嬢にどんな違いがあると言うのか。それとも、この婚約に何か意図はあるのか。賢い王のとこだから、俺の婚約にかこつけて何かを企んでいる可能性はなきにしもあらずである。ただ、今の俺の実力では全く思い浮かばず、俺は、誠意を込めて、被害者であるご令嬢達に説明する他にないのである。
3人の令嬢の反応は大体同じ。俺との婚約に夢を見てしまったがために、泣くか怒るか呆然とするかその三択で見事に三種類の反応が見れた。誠意を込めた説明はしたが、一夫一妻である我が国ではかなり珍しいことでもあるためそうなるのも当然だ。
かなり憂鬱な気持ちで4人目であるセレナという少女の誕生日パーティーへ赴いた。特に変わったこともなく、ほかと変わらない嫉妬と策略と嫌味の飛び交うあまり心地の良いとは言えない雰囲気のパーティーだった。8歳?だったか。まだ幼いのにこんな祝うも何もない雰囲気で可哀想だなぁと。考えを巡らせているとちょうどかなり大きくやりあっている場面に遭遇した。そしてその彼女こそ、セレナである。
あー。結構言われちゃってるなぁ。これは、出てあげた方がいいなぁ、と一歩足を出したところで、そこから足が動かなくなった。彼女の背中から目が離せない。何故だかそんな荘厳な雰囲気を纏う不思議な少女。
「私、王子のことをお慕いしています。なので、この婚約むしろ、とっても嬉しいことなのです。」
へ??????????
彼女が?俺を?どうして??
俺の中で混乱が、?の大嵐が……。
俺の王子という立場に惚れていると言う事だろうか。サッと思考をまとめて彼女の顔を後ろから近づきチラリと見ると、真っ直ぐな目と真剣な表情。俺の地位が好きなんだと言ってるようには到底思えなかった。
どうしてだろう。あったこともないはずなのに、どうして俺を好きだとそんなにまっすぐな瞳で言えるのだろう。
俺に気づき青ざめるたしか…マクーガル家の当主と、その夫人がいたが心底どうでもよかった。少女に、今の言葉を聞き返す方が俺にはよっぽど重要だった。
「はい。言いました。」
強い強い瞳。俺はそんな彼女に圧倒され、目を逸らし、その場を収束させ足早に去った。
セレナ・ディ・スカルスガルドという令嬢は他の令嬢とは全く違う思考を持っていた。8歳とは思えぬ発言と思考。話し方や所作にも要所要所で何かしらの強い意志を感じた。
2人きりで話した時も、そんなところがとても新鮮でつい口が滑り、あまり話さないようなことまで話してしまった。自分にとっては初めての経験で、どうしようもなく、セレナという存在が俺の中で大きくなってしまうような気がした。
最後に、どうしてあんな事を、慕っているなどと言ったのか聞こうと思ったが、言葉が出なかった。自分という存在を本当に好きだと言ってくれる人が現れるなど思っても見なかった。夢であるならばそのままで。何かしらの理由で言ったとしか考えられず、自分で夢を覚ますのがとてもとても怖く感じたのだ。とりあえず今はこのままで、このままで。俺は足早にその場を後にした。