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青いローブの女【カイトside】

現セレナ護衛カイト視点です。

 俺は坊ちゃんに指示を受け、このまま、姫さんを探しに行くことになった。坊ちゃんは、シュパールの民の治療と伴に森林国境への進軍を始めた。


 思ったよりも坊ちゃんのメンタルが心配ではあったが、バンさんがそこら辺はなんだか訳知りっぽいから、俺はそこには干渉しない。元々、坊ちゃんは国民を思う優しい王子だ。姫さんが危険に陥り、かなり乱れてはいるが、まだ大丈夫。取り返しのつかない事はしていない。


 姫さんとは上手くいって欲しいとは思っているけど、やっぱ愛が重すぎて、関わると変な方向、向いちゃうんだよなぁ。お互い高め合う様なそんな関係になればいいと思うけど、難しいのだろうか。今のは、聡明な坊ちゃんからは考えられない思考と行動だった。でも、自分で自覚して反省してたからまだ間に合う。なんとも、もどかしい。


 そもそも、愛する相手の危機に駆けつけたいと思う気持ちを誰が責められようか。王子と言う重い立場で彼の行動は間違いだと正さねばならないが、それは本来人間として当然の行動。


 俺の様に身軽に動けるわけじゃないんだ。坊ちゃんは。何も背負う者のない俺とは違い、彼は数千万の命を背負ってる。それがどれほど重いことか。


 二人には、幸せに、なって欲しいんだけどな。


 まぁ、ひとまず、今は姫さんだ。まさか、ラグーン国の王子まで出張ってくるとは。一体この土地は何なんだ。


 俺は自然に息が上がる。姫さんに何かあればどうすればいい。やはり、あの時別れるべきではなかった。行き場のない後悔が俺を襲う。


 しかし、時を戻す術はない。もう、今は俺に出来ることをやるしか、ない。


 ピュンピュン森を抜けていると、ふと、青のローブが見える。リーブルス…教。一体、何人だ。

 目視できる限り一人か。

 こんなところでなにを……。


 俺は、闇雲に探すよりも、こちらの方法の方が早いと判断し、すぐさま捕獲にかかる。


 ラグーン国の王子ならば、リーブルス教にも繋がりがあるはず。というか、リーブルス教を動かすボスかもしれない。あいつからどんな手を使ってでも吐かせる。


 木の上から青ローブに襲いかかり、すぐさま床に締める。手慣れた手つきで縄で縛り、ローブを剥いだ。

ん?っておい。


「…女か?」


「お前!!何をす……る…?えっ。うそ。ちょ。」


 その女は見た事ない顔で、絶対に会ったことがなかった。おれは諜報機関で訓練を受け、一度あった人の顔は絶対に忘れないからそれは、間違いない情報だった。だったのだが。


 この()()()


 俺は、すぐさまその女の首元に顔を埋め、深く息を吸う。


「ばか!ちょっと!何を!!」


 はぁ。まじかよ。


「おい。リリ。こんな所でなにやってんだよ。」


 俺がそういうと、青ローブの女は口をあんぐり開け、俺をまじまじと見る。お前、流石に呆気なく絞められてんじゃねぇよ。素人じゃあるまいし、簡単に捕まるなんてあり得ないだろ。……いや、相手が俺では、しょうがないか。うん、しょうがないな。


「誰だそれは!」


「もう、下手に誤魔化さなくてもいいよ。俺は鼻が効く。知ってるだろ?」


 俺がそういうと、心底悔しそうな顔をして、俺を睨んだ。


「あーもー!変装と演技だけは自信あるのにそれすらも見抜かれるのすごいムカつくんだけど!」


 それにしてもよくできてるマスクだな。顔だけで見ればリリの面影もない。ただ、俺は鼻が効く。こんな事でバレて大丈夫かぁ?コイツ。

 ま、素人騙すくらいなら訳ないか。


「結婚……したんじゃなかったか?」


 俺はニヤニヤからかう様にそういうと、リリは明らかに不機嫌になる。


「出来るわけないでしょ?私達の様な、()()()()が。」


 リリ、又の名をリリス・マクベル。まぁ、恐らくどちらも偽名。俺も本当の名は知らない。コイツは俺の後輩で、幼い頃から共に諜報員になるべく訓練を受けてきた所謂同類。少し前までは姫さんの横に侍女としてくっついていたが、あれはおそらくスヴェンさんの指示だろうな。コイツは基本的に成績がドベで出来が悪かったが、演技と変装だけは1番だった。スヴェンさんが使いやすいのもわかる。


「じゃあ、姫さんを騙してるって訳だ。お得意ので。」


 俺が意地悪を言うと、キッと鋭く睨む。


「結婚!……は、騙してる。でもそれ以外でセレナ様を騙した事はない!本気で仕えたいと思っていたし、今も危険があればすぐに参上するってこの心臓に誓ってる!」


 コイツは、純粋で、優しすぎる。こういう組織には向かない人間だ。なのに、持ってる才能が演技と変装など、1番最悪だ。人を騙す仕事しかできないじゃないか。だから、姫さんの侍女兼護衛なんてお優しい任務がお似合いだったのに。全くほんと、こんな所で何を….


「おい。姫さん知ってるか?」


 リーブルス教に潜入してるという事は知っているかもしれない。


 俺が聞くと、リリはニッコリ笑った。


「大丈夫。私が見た時全然無事だったし、アーサー王子は頭の良い人だから、セレナ様を殺したりはしない。」


 言葉尻に違和感を覚える。


「お前…、今ここで…何を探ってる?」


 がっと、腕を掴み深くマスクの奥の瞳を見つめる。なぜ、アーサーにそこまでの信頼を置く。お前に限って、もしや、そんな事は。


「ちょ、ちょっと待ってよ。売国なんてしてないよ?それは、誤解だ!最悪の!」


 リリは深くため息をついて、俺を押し除けた。


「ここで、数ヶ月私は潜入してたの。ここに指令が出たときは本当に何故ここに?って思ったんだけど、やっぱり、()()()可笑しいくらい頭が回りすぎてる。」


 リリの主人。つまり……スヴェンさん!

 数ヶ月前って事は、森林国境が落ちていることをあの時に既に知っていたと言うのか!?


「スヴェンさんは、この侵攻をどこ口の情報からか知らないけど既に知っていて、もう、動き出してる。この侵攻で確実にラグーン国は痛い目を見るよ。今に、この譜面をあの方がひっくり返す。」


 ひっくり返す。それは…つまり。今奪われた森林国境を取り返すという事か…?


 いや。スヴェンさんなら……それ以上…?


 というか、もしや……


「おい。アーサーがここにいるのはお前が…!」


 俺の反応をニヤリと笑う。


「そう。私が連れてきた。」


「まず、シュパールの村が焼かれた時点で、シュパールの民はラグーン国に憎しみを抱くでしょ?それを私がうまく利用して、シュパールをセザール国につかせるのが今の任務だったの。」


 なるほどな。こいつの演技力と変装力で、セザール国側へシュパールを取り込む、説得の任務。こう言う任務が確かに、コイツが一番輝くな。まぁ、もっとも、俺の方が上手くやるけど。


「でもそれを、姫さんがサラッとやっちまった、と?」


「そう!さすがセレナ様。これはきっとスヴェン様も予想外だと思うけれど……いや、予想通りなのかな?」


 ……冷静に考えてみると、その任務、リリや俺には無理だったかもしれないな。リリに適任な任務だと今さっき思ったが、ハクという男のあの目。初めて会った時は明らかに我々に確固たる殺意を向けていた。そのあと何故か少し緩まったが、あの殺意を和らげるなど容易ではない。少なくとも、演技や小手先の技術では。

 姫さんの何に共感し同盟など言い出したのかずっと謎に思っていた。あの殺意が一気に友好的になる理由。あの必殺シュパール語コンニチハ攻撃でも効いたか?

 ……ぶっ。やばい笑えてくる。流石にそれは無いか。


 リリは俺の先を指さした。指差す方は森林国境砦。


「そして、『森林国境をリーブルス教会が勝手に落としてるらしいですよ!』って私がアーサー王子にコッソリ情報を流す事で、なんとか止めようと動くでしょ?あの王子は他の王族とは違ってしっかり周りが見えてる人だから、セザール国の恐ろしさも良くわかってる。そして、実際ここに来た。」


「カルミア王子は、スヴェンさんの謎の信頼があってさ。絶対ここまで自力でたどり着くって言ってたの。そして実際カルミア王子も自力でここまでたどり着いてる。それは、この場に、セザール国、ラグーン国両者の王子が揃うことになる。」


 そしてその2人の王子はきっと、1番被害が少ない方法でこの侵攻を治めようとするはず。アーサーはどんな人か知らないけど、少なくとも坊ちゃんはそうするだろう。甘いからな。いや、優しいと表現しておくか。


 なるほどな?そして、


「セザール国の方が圧倒的有利な状況下の王子同士の交渉に持ち込めるってわけか。」


 我が国の侵攻を間違いだったと認める行為をしなくてはならないアーサー王子が絶対的に不利な立場。カルミア坊ちゃんはある程度の条件であればこちらに有利である要求を相手に突きつけられる。


 もし、俺がアーサーなら、この侵攻をセザール国民に伝わらないよう、侵略など無かったようにしたいと考える。大国セザールの全国民が全てラグーン国への憎悪に働いたら困るからだ。一瞬でラグーン国は滅びる。つまり、どんな理不尽な要求でも飲んで、この事態を収拾したいと考える。


 おお。なるほどな。かなりいい条件でセザール国は森林国境下での交渉を行えるってのがスヴェンさんの書いたシナリオか。求める要求はなんだろうか。スヴェンさんの考えそうな事だと。うーん。この侵攻を無かったことにする代わりに…例えば土地を…


 ん?いや……おい、まさか。


「ちょっと待て。まさか、スヴェンさんの狙いは……」


 俺の呟きに、リリは困ったように笑う。もしそれが本当なのだとしたら、やっぱりスヴェンさんは化け物だ。


「スヴェンさんの狙いは、この森林国境の土地全てと、シュパールの民。元々分断されていたこの大きな森を、侵攻されたことを良いことに逆に全て手に入れちゃおうってこと…か?」


「そういう事。」


 リリの肯定する言葉にグラリと目眩がしてくる。


「はっ。はは。」


 おかしいだろ。国の国境が侵されているという一大事に、何故逆に奪い返し、更には土地を相手から奪う方法まで考えつくんだ。


 もともとこの森林国境は大きな森林を二つに分け、半分がラグーン国、もう半分はセザール国と土地を分けていた。しかし、シュパールの存在があったためその半分の土地も己のものとは言い難かった。それを今回、シュパールも含め森林全てを奪い、森林()()という概念そのものをなくしてしまおうとしている。それはつまり、ラグーン国が今後我が国を責めるとすれば、この大きな大きな森林を一から越えなくてはならないという強固な国境を築くのと同義。


 やっぱり、恐ろしい男だ。

 スヴェン・ディ・スカルスガルド。やつだけは敵に回してはならない。


「ラグーン国の敗因の一つは、シュパールの民を力で制圧し手に入れようとした事ね。あんな脅しじゃ、あの民族は屈しない。カルミア殿下の軍も到着して、シュパールも含めた我が軍に、リーブルス教の一聖騎士団なんて、そんなもの、蚊よ。蚊も同然。」


「そして最大の敗因は、スヴェン・ディ・スカルスガルドがこの国にいたと言うこと…ってな。」


「そう言う事。本当に恐ろしい方よ。」


 全く恐ろしい男だ。出来過ぎだな。()()なんて見つからないほどに…


 というか、なにを考えてこの森林国境をいきなり攻めたんだ。あの愚王は。


 でも、違和感はある。愚王だからこそ、この国を責めるような技量、度胸、知識は無いと判断され、警備が緩んだこの国境。一体誰の入れ知恵か?


 馬鹿には間違いないが、セザール国が一瞬危機に陥った事は事実で、病が流行っている事を流したり、なんだりってのも、そんな繊細な情報操作できるやつには見えないのだ。


 もし、あの国王を裏で操ってる()()()がいるんだとすれば……


 また、なんか、今後も一悶着ありそうだな。



「とりあえず。俺は姫さんを探さねーと。」


「あら。確実に無事だとわかってるのに?」


 リリの言葉に、一考する。が、やっぱり、そんな事考えることでもなかった。


「お前さ、()()()()が、いくら絶対無事ですよって言われたって、見ないと不安だし信じられないだろ?」


 俺の言葉を聞いた瞬間、急にリリの顔が歪む。

 ニヤニヤと気持ちが悪い。大体こいつがこういう顔をするとろくなことを考えていない。


「な…なんだよ。」


「ヘェ〜。大切な…人なんだぁ。ヘェ〜?」


 っっ……………。


 くそ。完全に無意識だった。俺は、なにを口走ってんだ。


「完全な身分違い&超絶片思いの萌え要素孕んだ私の大好きな展開なんだけど……。」


「うるさい。そういう事じゃない。」


 姫さんに直接会ってから、気持ちがよく動く。絶対に触れてはならない。欲を出さない。望まない。気持ちを自覚して認めてしまったあの日誓っただろ。もう一度思い出せ。


「もう、行く。お前、成績ドベで、ドジなんだから精々死なないようにしろよ。」


 俺が仕返しで皮肉を言うと、案の定キーキー噛みつく声が後ろに聞こえる。


 どっちにしろ、俺にとって姫さんが大切で守らなくてはならない存在なのは変わらない。

 俺の隣で笑ってて欲しいなんて、そんな傲慢な事は望まないから。どうか幸せでいて欲しいんだ。それを木の上から眺められればそれでいい。


 俺は、強くなる風に逆らいながら、森林国境の砦へと足を動かした。


長く、複雑でごめんなさい。わかりにくい場所も多かったかもしれませんっ。

私の技術では頭の中を言葉にするのが、これで限界でした笑

世の小説を書いている人は本当にすごい…


いつもブックマークや評価ありがとうございます!

これからも頑張ります!

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