誕生日パーティー③
ロイとは良い関係が築けて行きそうだなぁと、ウキウキと会場に戻る。このあとは、第一王子に挨拶するだけだし、もう終わったも同然ね!あー!疲れた!早くお風呂に入りたい!
………なんか、忘れている気がする。なんだっけ?なんだっけ!?
あ!!!!!
そうだ!私はこの後第一王子に酷い事を言われて、王子の事が嫌いになってしまうと言う流れだったはず!こんな大切なことを忘れているなんて!
正直言ってなんて言われたのか全くわからないんだよねぇ。今の王子ラブ状態でなにを言われても嫌いになるような事はない気がするけど。でも、ヒロインの正規ルートを外れるからには、色々未来が変わることも絶対あるし、王子から愛されないルートもなくはない。絶対に間違えないようにしないと!
いくら、国を思う優しい王のままであって欲しいからって、ヤンデレを回避するためであったとしたって、嫌われるのはいやだよー!
正直ヒロインみたいに好かれたい!!!だから、出来る限り変なことはせずに…………
って、私既に、間接的に愛の告白をしてしまっているのだった………。
もーいやーーー!
「セレナ!」
私の名を呼ぶ声がして振り返るとお父様が立っている。そしてその手の先には、噂をすれば第一王子が、すました顔で立っていた。ま、眩しい。
「セレナ、挨拶しなさい。」
言われなくてもわかってますぅー!お父様ったら王子の前でもぜんっぜん変わらない張り付いた笑顔。本当に腹の中がわからない人だ。いっそのこと、あの、アイリーンの両親のように、地位で態度を変えるようで有ればわかりやすいのだけれど。
私は、ゆっくり、かつ、上品さを意識して丁寧に挨拶をした。大丈夫、ちっちゃい頃からこれだけは仕込まれてきたの。失敗はしない。
しかし、挨拶の口上を述べようとした所で王子に止められる。
「形式の挨拶は良い。それより、スヴェン、一度2人で話をしたいのだがいいか?」
父はスッと手をかざすと私の周りから人が消えた。そして父も私に満面の笑みを浮かべると、背を向けて会場の人に紛れて消えていく。え??い、いきなり2人ですか??
緊張で、心臓の音がやけに大きく聞こえる。
「ここは、騒がしい。部屋に移動する。」
人払いまでして、さらに部屋へ?一体何事???私は自分の脳味噌をフル回転させて、これから何が起きるのかを予測しようと画策したが、一向に思いつかず、そして、目的地にたどり着こうとしていた。
「まぁ、座れ。」
大きな豪華なソファに腰をかけると、マフっと高そうな柔らかいシルクが私の手を伝わるが、正直それどころではない。憧れの王子と2人きり。願ってもない状況だが、きっと良い意味ではない、ような、気が、する。
「セレナ、と言ったな。先程も言ったように君は今日から私の婚約者となる。だが………」
「わたしにはすでに婚約者が3人いる。」
「は、はぁ…」
こんな流れ乙女ゲームにあったのだろうか。正直思い当たらない。もしや、酷いことを言われたというのはこの話?
「もちろん私としては誰が未来の王妃としてふさわしいか見極める必要があり、見極めてから婚約すればいいと王には進言していたのだが、このような形になった。ここ最近で私は4人と婚約したことになる。」
「一応4人の婚約者には伝えておくべき事だと判断して、皆に伝えている。おそらくいずれは知ることになると思っていたが、私の口から伝えることが一番誤解を生まないと判断した。」
やや、早口気味で慣れたように、しかしどこか申し訳なさそうな形で伝えてくれた言葉には、確かな誠意があった。きっと私は4人目で、みんなに伝えてきたことなんだ。
私はスーッと息を吐いて、しっかりと王子の目を見つめた。
「カルミア様。わざわざ私のために人払いまでしてお話をしてくださりありがとうございます。婚約者としてお力になれるよう、頑張っていきますので、どうかこれからよろしくお願い致します。」
私は笑顔で伝えると、王子の目が大きく見開かれた。そして、背筋が伸び綺麗な体勢で私に向かっていたが、それを崩し、フニャりと笑った。
なになに!か、か、かわいい!!!
「君は、面白いな。」
「えっ。」
いや、と、手で口元を覆い、肘を膝について私を下から見つめる。
「正直、この話をすると、ほかの令嬢は皆怒るのだ。普通、婚約を4人としたなどということは、不快に、そう思って当然だと思うのだが、君は違うのか?」
うーん。不快、か、不快なのだろうか。私は。でも、彼は王子であって全くしょうがないことに思えるのだが。
王子は今12歳であり、おそらく婚約者はそのあたりの年齢。私が8歳だから、うーん。たしかにそのくらいの年なら、浮気よー!ってなるかもなぁ。素敵な恋に憧れる、両思い同士で当たり前に結ばれることを信じて疑わないかもしれない。貴族の令嬢としてはあまり、家のことを考えた時良くないことになりかねないが……
「カルミア様は、王子ですし、正直そこに関しては、どうしようもないことなのではと、思います。それに……」
そう、それに
「カルミア様は、とても誠意のある伝え方で私に伝えて下さりました。そのことが何よりも嬉しいですし、気持ちが伝わったので、不快な気持ちは抱いておりません。」
そして、私はあなたのことが好きだしね!
王子は私の話をとても楽しそうに聴いてくれた。なんだか、12歳とは思えない包容力のある目で、私を見つめる。
「本当に君はしっかりしているな。君と同い年のキングサリに見せてやりたいよ。いたずらばかりで本当にだらしないんだ。」
弟である第二王子の話題になり、私達はお互いクスクス笑いながら和やかに会話をした。そこまで深い話はさすがに出来ないけど、でも、はじめにしてはいいんじゃない?
そろそろ時間的に戻らないとまずいっていうところで声をかける。
「もうすぐ、パーティーのお開きの時間です。私、一言最後に言わなければならなくて…」
「最後にひとつだけ、聞いてもいいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「君は………いや、なんでもない。」
えっ。なに!?気になる!
では、と、颯爽にマントを翻して帰っていく。な、なんなの?気になるじゃない!
まっすぐ出口へ向かう王子を見ると、引き止める間も無く出て行ってしまった。なにか不愉快なことをしてしまったのだろうか。
そんな、一抹の不安を抱え、私は喧騒だらけのパーティーを収めるべく、誕生日パーティーの会場に向かった。
はぁ。最悪…かも…