人攫い
「王族である貴方がこの侵攻に、関係していない?」
私が思わず聞き返す。
「それは、王族が一切関わらずリーブルス教会が独断で我が国に侵攻していると言う事ですか?!」
私がそういうと、苦渋舐めるような表情をする。
「……王宮のある男によってこの話が決定したらしい。私は蚊帳の外で会議にも参加していない。」
まさか、そんな事があり得るのか。
いくら国の主柱となるリーブルス教とはいえ、王族の許可なく、指示なく他国を侵攻することなどあるはずがない。もし、そんな事が起きているのだとすれば、それは、もはや王族としての機能を失ってるも、同然!
「なぜそこまで…その男を野放しにしておいたんだ……。」
私が思わず呟くと、アーサーは一度びっくりした顔をしてすぐに私に向き直る。
「きっとセザール国にも轟いているであろう?我が国の王、つまり私の父は所謂バカなのだ。」
おぉ。おう。すごいなやっぱり。自国の王、しかも実の父親をバカと堂々言い張るこの力強さ。たしかにこの人が王ならば、セザール国もかなり警戒を強めただろうが、逆にバカであることでこんな侵攻を許すことになるとは…。
「私は、この侵攻が結果、いずれラグーン国を自滅に導く一手だと確信している。だから、侵攻する前に止めに来た…のだが。遅すぎだ。」
やはり、アーサーは未来がしっかり見えている。森林国境を取れば、もちろん王都責めには有利かもしれないが、我が国の軍事力もかなりなものなのだ。その一手で勝てるような国ではない。むしろ、セザール国民の闘志に火をつける可能性の方が、大きい。
「では、つまり、先ほどの矢は、その男の手の?」
私が問うとゆっくり首を縦に振った。
なるほどね。馬鹿な王様ならば御し易いが、無駄に頭の切れるアーサー王子はとても邪魔だと言うこと。ここでアーサーを殺し、シュパールがやったと主張すれば、絶対に暗殺などとは思われない。
なるほど。アーサーも色々大変なのね。一人で国を守ろうと踠いてる。なんだか…
凄い人。
私はすでにアーサーに好印象を抱いていた。単純。ほんっと単純だが、たった一人で国を守るために踠くその姿はとても素晴らしいと、そう、思ったから。
しかし、ハクは私とは立場が違う。
ハクは、人を家族を仲間を恋人を、彼らは奪われ汚された。相手はラグーン国の王子、それは、ハクにとって許しがたい事実。静かに話を聞いていたハクも、もう限界のようだった。
「つまり、シュパールがこんなことになったのはあんたらが適当な事やってたからって事でしょう?」
その通り。その通りなのよ。ラグーン国が侵攻を止まっていたのならこの悲劇は起こっていなかった。誰も殺されていなかった。王子として関係ないなど、絶対に言えない。
でも、ダメ。憎しみに今囚われてしまえば、後で後悔することになる。この人はハクにとっても重要な人。必要な人。
アーサーがいなければ、セザール国は、シュパールとラグーンで全面戦争になる。沢山死ぬ。
彼は、この状況を大きく変えられる唯一の人。
だから、だめ!!!!
私は振り上げた剣から咄嗟にアーサーの前に飛び出した。シュッと剣が空を切る音がする。
「おい!」
アーサーの声に恐る恐る目を開けると剣先は私の目の前でピタリと止まっていた。
「セレナさん。どいて…ください。」
ハクは震える声で私に訴えた。私ごと、切ってもよかったはずなのに。私はセザール国の人間。つまり、差別する側の人間で、本来なら恨まれる立場。本当に、本当に心が優しい。
「ハク様。貴方ならわかるはずです。この方の重要性が。今感情に振り回されて剣を振り下ろす事がこの先どんな悲劇を産むか。」
真っ直ぐハクを見つめる。お願い。
「どうか、シュパールの主としての真っ当なご決断を。」
ハクは、グッと唇を噛んだ。目の前に敵のような男がいるのだ。辛いだろう。だが、今は堪えなければ。未来のためにも。
その瞬間体が宙に浮く。
「セレナさん!!!!」
えっ!なに!わ!!!
ハクが焦り、私の名を呼ぶ声が聞こえる。
私はアーサーの乗る大きな白馬の上に乗せられていた。何!?何事!?
「追っ手が来る!!ここにいては君達を巻き込んでしまう!」
そう叫んでアーサーは馬に鞭打ち、森にズンズン進んでいく。いつの間にか木の影に青ローブが見える。囲まれていた!?射られてからじっとしすぎていた。まずい。ここには怪我人が大勢いる。狙いがアーサーなのであれば離れることは良い判断。だけど!なぜ!
「ハ、ハク様!!!」
私が咄嗟に馬から手を伸ばすがもう届かない。ハクも私を助けようと追いかけてくれている。
だけど!なんで私まで!
「アーサー様!なぜ私を!!!」
「お前には聞きたい事がある!とりあえず一緒に来い!」
ズンズン進みシュパールの村が遠ざかる。ダメ!あそこで、あそこでカイトを待つって約束したのに!どうしよう!どうしよう!
必死に私を追いかけるハクを見る。もう、遠すぎる。
こればかりはもう、しょうがない。追いかけてもらう事で、ハクをリーブルス教会と戦わせるわけには…いかない。
私は決断した。
「ハク様!!私を追わなくて良いです!シュパールの皆んなを!皆んなを守って!」
私はアーサーに連れられ森林国境と言う名の更なる地獄へ連れ去られる。
ごめん。カイト。ハク。
セレナはトラブルメーカーすぎますね本当に笑
段落の始めを一マス開けると言う技術をやっと身につけたおにくです。読みにくかったですよね…。これからは忘れなければ読みやすい様下げますね。
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