突然の襲撃
「やだっ!!!死なないでっ!!」
ガバッと、飛び起きると、私はシュパールの民の横で眠ってしまっていた。
何分寝た?いや、何時間?私、今何してた。
ふと、自分の手を見ると握られている手がある。まだ、暖かい。生きてる。
ほっとして思わず涙がこぼれる。
カイトがここから出て丸2日、私は膨大な数のシュパールの民に出来る限りのことをした。しかし、救える命の方が少なかった。どんどん目の前で冷たくなっていく。
私にできることは彼らの生命力を信じて、体を綺麗に拭いたり、栄養のあるものを森から調達して食べさせたり、民間療法の様なものだけ。持っている薬もすぐに底をつきた。私に出来ることを懸命にやってもこぼれ落ちる命は止められない。
初めは、手も握らせてもらえなかった。
わかっている。私たちはそう言う歴史の中にある。ハクの様なシュパール人は珍しく、普通は私達に憎しみを抱いている。
でも、私は諦めたくなかった。この人達の命を。私にできることは限られている。だから、できることはさせて欲しい。助かるはずの命が目の前から消えていくことこそ恐ろしい事はない。自分にできる限りの事をした。
すると、次第にシュパールの民は私を手伝ってくれる様になった。まだ、数人だが。それも、大きな一歩であると私は思う。
人は鏡だ。虐げれば、虐げられる。憎めば憎まれる。だから、優しさは優しさを生む。人は絶対に醜いだけじゃ無い。
分かり合えることも、ある、はず、だ。
綺麗事だろうか。ただの理想で、空想の世界の話だろうか。
でも、私は信じたい。人の温もりも、優しさも、私達にある権利だから。憎しみ恨む、絶望する未来より、希望のある未来を信じたい。
「→+:$%・<」
背中を拭いていると、服の裾を引っ張られる。
見るとシュパールの民の幼い女の子だった。
でも、なにを言ってるのかわからない。
「ごめんね。なんて言ってるかわからないから、えっと…」
私がどう伝えようか迷っていると、後ろからヌッとハクが入ってくる。
「名前。名前が知りたいそうですよ。」
名前?私の?
私は少し戸惑った。だが、発音がわかるように、ゆっくりと言う。
「セ・レ・ナ」
すると、その子供は辿々しいながら、私の名前を懸命に呼んでくれる。何度も何度も何度も。
「せれな!せれな!」
私は、思わず涙が溢れる。シュパールの民と過ごしているとすぐに涙が溢れてしまう。
この子は希望だ。長い間受け続けた憎しみも痛みもまだ知らない子供に、争いなどと言う宿命を授けてはならない。子供に親の憎しみを受け継がせる様なことがあってはならない。この子は世界を自分の目で見て、心のままに信じたい人を信じて生きて欲しい。歴史に囚われて見失ってはならない事がある。
「貴方のお名前は?」
私が聞くと、ハクは通訳してくれる。
「ツェ・ル・パァ」
ゆっくり、私の様に、その子はわかりやすく発音してくれる。
「ツェルパ?」
私がそう言うと嬉しそうに笑った。
そうだ。一歩、ここから踏み出そう。
ここから始まるのだ。
そんな矢先。
ヒュン!と、私の横に何かが通る。
私はなにが起きたのかわからなくて、その場に立ち尽くす。しかし次の瞬間、頬に鋭い痛みが走り、触れるとポタポタと何かが垂れている。
血?
私はとっさにツェルパに覆いかぶさる。ハクは、綺麗な二本の剣を抜いて、私の前に立つ。周囲を見渡すと、森が青服の集団で埋まっている。襲撃?
「セレナさん。ツェルパを連れて中へ。」
私はその言葉を聞いてすぐに矢の届かないところへ移動する。野晒しに寝ているみんなが危ない。ツェルパを中のシュパールの民に預け、置いてある矢を咄嗟に手に持つ。
壁越しに外の様子を伺うが、矢はまだ放たれていない。ハクの殺気がここまで伝わってくる。拮抗しているのか?いやでも、数では圧倒的に敵わない。すぐにやれば、皆殺しにできたはず。
なにが目的?殺しが目的では無い?
とすれば……。
私は、ハクの言葉を思い出す。
『同盟を結びませんか?』
ドクンと心臓が脈打つのがわかる。
それは、考えたく無い未来が頭をよぎるから。
もしも、私が今ここに来ていなかったら。セザール国との同盟なんて物がまだ、ハクの頭に浮かんでいなかったとしたら。
きっと未だに、シュパールの民は瀕死の状態で、長い歴史に幕を落とすかも知れない絶体絶命の状況。そして、そんな中、リーブルス教聖騎士がトドメを差しに来る。つまり、シュパールは選択に迫られる。
威厳を守り闘うか、民の命の為敵にくだるか。
ここは森林国境。この森自体が敵国からの侵攻を止める盾でもあり、敵国への侵攻を邪魔する厄介な盾でもある。でもここを全て落とせたのなら?凄い力を持つシュパールを手に入れたら?
セザール国侵略への大きな一歩になるのでは?
リーブルス教会、いや、ラグーン国は、この森林国境を落とし、セザール国のトップの首を狙っている、と言うことになるのではないか?
これが全て計画的なのだとすれば、相手に侮れない敵がいる。それは誰なのかわからない。だが、敵は目の前のリーブルス聖騎士だけでは無い。
ハクにゆっくりと近づく青のローブ。
今の状態では、シュパールはこの要求を飲むしか無い。どんなに不利な条件でも、飲むしか無い。
だめ………。ここであなた達と対立したく無いっ。
でも、ここで飲まなければシュパールは全員皆殺しだ。
私が壁からハクと話す青ローブを見つめる。
「絶対に許さない。こんな事をして、許されるはずがない。」
自然と怒りで手が震える。
あの冷たく変わる手を、生きたいと願う手をお前らは知っているのかっ。
私は弓を握りしめ、ゆっくりと外へ出ようと足を踏み出す。
すると、ハクの前にいた薄ら笑うような青のローブが急に横へ吹っ飛んだ。
「えっ?」
ハクでは無い。赤の髪の赤い目の男が急に現れたのだ。華麗な飛び蹴りで、青ローブの男は床に叩きつけられる。
そして、その男は、青の集団に、大声で言い放った。
「お前ら、覚悟しておけ!!」
すると、青のローブの男達は悔しそうな顔でゾロゾロと撤退していく。
まさに鶴の一声。
何事なの?と、その男の顔を覗く。
精悍な顔つきの赤い目が特徴的なその男は、私には見覚えがあった。
うそ……この前カイトに出会ったばっかりだと言うのに。またなの?
その男はまさしく、最後の攻略対象、4人目である、アーサー・ホセ・サンドベリであった。
またもや新キャラ登場です。一応最後の攻略対象。
最近新しいキャラを増やしすぎて伝わっているか心配しています笑
話も複雑になってきましたが、まだまだ回収してない伏線があるので、回収するまでは書かなければ…。
変動あるとは思いますが200ブクマありがとうございます!
これからもどうぞよろしくお願いします。




