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災難【カイトside】

現在のセレナ護衛カイト視点です。

俺は人生で一番?と言ってもいい程に急いでいた。そもそもこの森の中に姫さんを置いていく選択肢なんて俺にはなかった。あの一族は、何故だか姫さんに友好的であるが、そもそもそんな甘いものでは無い。歴史を見れば明らかだ。シュパールとはよく小競り合いをおこしていたし、血みどろな歴史もある。そして、何より、ラグーン国やセザール国はシュパールの民を侮蔑や差別と言ったそんな目で見ている。進化から逸脱した、野蛮な民として、皆シュパールを恐れながらも見下している。


だから、危険なんだ。シュパールはただ俺たちを侵攻への抵抗だけで戦っているのでは無い。


差別や侮蔑されることへの()()()からでも戦っているのだ。


あのハクとか言う男も信頼出来ない。アイツは中身が見えてこない。俺と同じ匂いがする。内面を悟らせない様に仮面を被る俺と同じ匂いが。こちらの言葉を話し、懐柔しているだけかもしれない。同盟なんて話も本当かどうかわからない。そんな所に姫さんを置いていくなんて…。クソっ。今からでも引き返すべきか。


なのに、なぜ。なぜ、足が止まらない。こんなに後悔しても、なぜ、足が勝手に前へ進む。俺はどうしちまったんだ。あんなに震えることがあっただろうか。


どうしてだか、姫さんの言葉には人を動かす力がある。


『カイト…お願い。貴方にしか…頼めないの。』


姫さんが頼むので有れば、何処へでも飛んでやる。矢が振る戦場だろうが、火の海だろうがどこへだって。


いつからそんな柄でも無いことを考えるようになってしまったのか。


全く厄介な病だなぁ。手遅れだから仕方がない。こればっかりは惚れた弱みだ。


とりあえず、最短で5日…か。5日で必ず姫さんのところまで帰る。だから、だからどうか生きててくれ。

どうか……


流れる汗も気にならない。眠気も食欲も沸かない。こんなことは初めてだ。ひたすらに俺は深い森を飛び回り、ようやく、森を抜けた。


抜けた…………のだが。


俺はそこで信じられない者と出会う。間違いなく今日は人生で一番最悪な日だ。よりによって、何故今ここなんだ。


「おい………カイト。」


俺はその聞いたこともない様な冷ややかな声に顔もあげられない。コイツは本当姫さんのことになると俺ですら恐怖を感じる程に頭がおかしくなる。


「なぜ、お前がここに居る。」


俺は顔を見れなかった。ヒューッと口笛を吹いて宙を見上げる。見なくてもわかるよ。おっかねぇ顔してんだろ。わかるよ。

バンの堪えた笑いが静かな空気の中響く。

バンさんのやつ!全部知ってるからって、笑いにきやがったな。


「ここへ。」


その一言で、俺はいつの間にかカルミア坊ちゃんの前に跪いていた。はぁ。本当に姫さんの事でいっぱいのコイツには俺でも逆らえない。


「もう一度問う。なぜお前がここに居るんだ。」


俺はもう腹を括るしか無いと観念し、全て吐くことにした。それにこんなに沢山軍を連れてきてくれてるので有れば、予定よりも何倍も早く姫さんの所に戻れる。それに、何故だかバンさんもいるし、医療関係ならこの人でしょ。


「姫さんがこの先に来ているので護衛として御供しておりました。」


俺が一息で報告すると。ピリピリと冷たい空気が俺を刺す。は、腹イテェ………。


「セレナ…が……ここ…へ?」


ぶあっと鳥肌の立つような黒い殺気に目も当てられない。坊ちゃんは急に俺を掴みかかり、見たこともない様な目で俺に詰め寄る。だから怖いって本当に。勘弁してくれ。


「ではなぜセレナと共に居ない?今、セレナは森林国境付近で一人と言うことか……?」


ですよね…そう、なるよね。それ、ちょっと前に俺も思ったよ。


「一人っていうか、えーと、その。シュパールの民?と一緒にいますよ。」


チャキ。


と音がして見ると、それは剣を抜きかける音。


「ちょ!!わかる!気持ちはわかるんだけど、ちょっと待ってもらえませんかね?!」


やべぇ〜。やっぱ、本当にやべぇ〜。


バンは笑いが堪えきれずゲラゲラ笑い転げている。ほんっとこの人は。絶対面白がって付いてきただろ!


「説明します!説明するんで、聞いたらすぐ姫さんの元へ早くいきましょう!?ね!?」


俺は今まで起きたことを簡潔にかつ、素早く説明する。


森林国境へは姫さんの独断で来ることになったこと。俺が護衛を変わった経緯。森林国境は落ち、シュパールは大きな痛手を負ってること。その犯人がリーブルス教会である事。そして、この先にいるシュパールが姫さんに同盟を持ちかけられていること。


俺の報告の間、坊ちゃんは信じられない様な、見たこともない顔をしていた。わかるよ。その気持ち。まず最初から意味がわからない。何故森林国境へ行こうとしたんだって話だもんな。神懸かってるもんな。未来がわかるのかって話だ。


そうだ。いつもそうなんだ。何故か姫さんの前には道が開く。誰しもが無理であろうと思う所に易々と道が広がっていくのだ。あの小さな体に一体どんな力が秘められているのやら。


「お前への処分は後だ。とりあえず、この先を急ぐぞ…。」


静かに言い放ち、坊ちゃんは森林国境へ足を進める。なんだあの顔。般若か。


というか、ほんと、大ごとになってきたな。


もし、本当にシュパールの民との同盟が成立するのだとすれば、それは凄い快挙だ。長い長い歴史の戦いに終止符を打つことになるのだから。


そのきっかけがまさか、姫さんになるなんて誰が予想できただろうか。どんな偉人だよ。


…そういや、姫さんは王妃になるとかなんとか言ってたな。いや、別に姫さんは坊ちゃんが好きだから王妃になるって言う感じのニュアンスだったけど…。


俺はツーっと背中に冷や汗が流れるのがわかる。


もしかしたら、姫さんってとんでもなく凄い人じゃ無いのか?お飾りの王妃とかそんなレベルではなくて、歴史に名を残しちゃう様なそんなことをいつか成し遂げそうな、そんな人なのではないか?


なんか、そんな気が………する。


だって思いつかないだろ。俺がいるとはいえ単身で森林国境へ乗り込むなんて。俺だけじゃなく沢山の人の想像を超えて、姫さんはズンズン前へ進んでく。


はぁ………。とんでもない人に厄介な感情を抱いてしまったものだ。まさかその気持ちを返して欲しいなんて思ってはいない。それは、俺が絶対に許さない。だが、何かあるたびに毎回こんな危機に陥るので有れば、それは、本当に勘弁してくれ。心臓がいくつあっても足りやしない。


俺は、進軍するセザール騎士達を見て大きくため息をつく。とりあえず、来たばっかだが、来た道を戻るとするか。俺の役目は成し遂げた。


姫さん、お願いだから無事でいてくれ。

不運続きのカイトくん。強く生きてね。


ブックマークありがとうございます!

書き続けられるよう頑張ります。

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