遭遇【カルミアside】
第一王子カルミア視点です。
あれから数日後、俺は、森林国境に向けて軍を指揮し、道を進んでいた。完璧な独断。王の許可など貰っている暇がなかった。王子としての特権を行使して行ったこの行為は、正当性が認められなければ、おそらく懲罰を食らうな。まぁ、そんなことは正直どうでもいい。セレナと一緒になる為に必死だったし、俺の予想が当たっているのであればこれは非常事態だ。
そして、俺の予想を裏付けるかの様に、我が軍にはかなりの夜襲や刺客が送り込まれていた。まるでこの先に行くのを阻むかの様に。
「一体この先で何が………」
俺が軍を向かわせているのはセルテカと言う森林国境手前の村だ。森林国境へ行くにはここを通るしか道がない。そして、何より、入れ替わった役人は全てこの村からの取引やら管理やらの役人で明らかにこの村に何かあるとしか思えなかった。更に、その新しい役人達の共通点。キングサリと徹夜で見つけたそれは、皆リーブルス教を信仰していると言うことであった。別にそれは、罪では無い。ただ、隣国の過激な政治を見ればリーブルス教を危険視する事は我が国としては当然であり、その宗教の教徒が皆揃ってセルテカの役人なのだとすれば怪しいと言わざるを得ない。気づくことが出来たのも、国の諜報部がリーブルス教の教徒を全て把握していたおかげだな。
ガラガラと車輪が大きな音を出し、セルテカの土地に入る。こんな大勢の軍など普通は来ない。セルテカの人々は物珍しそうにゾロゾロと人だかりを作る。
俺はこの村で少し話を聞こうと一度止めさせた。ゆっくり馬から降りると、畑で泥だらけになった顔でキラキラと俺を見つめる少年がいた。横で母親らしき女性がポロポロと涙を流している。
何かあったのか?
「良かった。あの研究者様が私たちに助けを連れてきて下さったんだわ。」
涙を流しながら息子と抱き合う姿を見て違和感を覚える。研究者?そんなものをここに出した記憶もないし、出された記録もない。
俺はその親子に駆け寄り詳しい情報を聞くことにした。
「突然すまないが、その、研究員とやらの話をきかせてはもらえぬだろうか?」
「貴方はセザール騎士の方々かい?私たちを助けにきてくれたのかい?」
「ああ、そうだ。絶対に皆助ける。」
俺がその女性の手を握ると、さらに涙をボトボトと落としその研究員についてポツポツ話出した。
その研究員は、5日前ほどにこの街に来て、森林国境へ向かったこと。また、森林国境が落ちているかもしれない事。助けを求めても助けがこない事。そしてその研究員はそれを聞き、最善を尽くすと言ってくれたこと。
俺はそれを聞いてもその人々に心当たりがなかった。一体誰だ。俺よりも先に気づき動いたものがいると言うことだろうか。そして、その研究員とやらは、味方…なのだろうか?
「すまないが、その研究員とやらの容姿は覚えているか?」
俺の質問に不思議な顔をして、ゆっくり答える。
「一人は黒い髪の只者じゃ無い雰囲気の良い顔の男で、隣にはまだ幼い女の子がいたね。二人で来たみたいだった。」
黒髪の男と、幼い女?そんな研究者、王宮に居ただろうか。
「でも、幼い女の子の方は、すごい可愛らしい顔なのに、なんだか貫禄があってねぇ。長い綺麗なブロンドの髪を纏めて、颯爽と歩いて、なんだか凄く凄く、圧倒されたよ。」
長い……ブロンドの…
いや。まさかな。彼女がこんなところに来るはずがない。
俺は一瞬よぎった顔をすぐに頭から消す。
「そうか。どうもありがとう。」
俺はお礼を言って馬に戻る。とりあえず、森林国境が破られているのだとしたら時間の問題だ。ラグーン国の侵略を知らず知らずのうちに許すとは…。この土地はラグーン国にとってもセザール国にとっても都合の悪い土地だった為、そこまで強い警戒はなされていなかった。命がけで行う不法入国を取り締まる程度の守りしかお互い出していなかった。
しかしラグーン国はどうやってシュパールを黙らせたのか。あの民は歴史が深く、とても関わりにくい。独自の文化を守っている為関われば殺される。更にラグーン国やセザール国の民への恨みも強いだろう。
早くしなければ。とりあえず、今危険な状態である事は間違いがない。俺は、馬を強く鞭打ち速度を速める。
「殿下殿。不味いことになりましたねぇ。」
横で馬を走らせるバンがニコニコで俺に話しかける。
バンは何故か俺が森林国境へ行くと伝えた時「ええっ!?」と驚いたあと、ニッコニコでついてきた。特に必要ないと伝えたが本当に何故か無理やりついてきたのだ。
「ああ。これが事実なので有れば…最悪だ。」
俺はクッと唇を噛み締める。俺は、たまたまあの資料を見つけたが、それもセレナの事を望まなければ、見つけられなかった。そして、もし、その資料を見つけていなければ、未だに敵の侵攻を許したまま、のうのうと舞踏会なんて開いていたのだ。ただのバカ王子では無いか。
スヴェンや王は何をやっている。なぜ未然に防げなかった。こんな非常事態。絶対にあってはならないことだ。
そして、俺は一つの結論を導き出す。
やはり裏切り者…がいる?
それとも完璧な情報操作がなされている?
スヴェンは優秀だ。スヴェンが気づかないと言うことは、何かしらの工作が為されていないと可笑しい。クソ。まんまと出し抜かれたな。
下手したらスヴェン。お前の首が飛ぶぞ。
「ん??」
急にバンは宙を見上げる。もう森林国境のある深い森に迫っており、鬱蒼と目の前に木々が広がっていた。
バンの見る先の木がガサガサと揺れる。
そして、バサって中から黒い何かが凄まじいスピードで飛び出してくる。
「んな!なんだ!」
俺はすぐさま剣を抜く。そして、華麗に地面に降り立つその男の顔を見て、俺は呆然とした。
どういうことだ………。なぜ、なぜ。
「何故…お前がここに……」
「うっわ。まじか……」
そしてその黒衣の男は俺の顔を見て、心底嫌そうな顔をした後、フーッと息を吐き、何か祈る様に天を見上げた。
タイミングが良いのか悪いのか。
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