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私に出来る事

私はハクと一緒に火傷や、戦いでの傷を負う人のもとへすぐに向かった。シュパールは元々かなり膨大な数の民族だ。それが、こんな焼け野原に。私はすぐさま、救急セットを取り出し、軽い応急処置にかかった。予想した通り、この民族は医療の知識が浅い。良くわからないけど葉っぱが擦り付けてあったり、謎の液体で洗い流していたり、独自の医療なのだろうが、これでは大量に死ぬ。そして、私も、ある程度の火傷の治療くらいしか出来なかった。


「まただ。また。」


いやだ。ここで心が折れるなんて絶対に嫌だ。私は頬を強く叩く。そして息を吐いて心を落ち着けた。とりあえず私にできる事は、カイトが帰ってくるまでの時間を保たせる事。カイトが帰ってくれば、きっと助けてくれるはず。


私は遠い記憶のナイチンゲールさんを思い出す。まずは、清潔な環境!!


「すみません!清潔な水が欲しいので、元気のある人はここの村の護衛を残して川へ水を汲みに行ってもらってもいいですか!?」


私が叫ぶと、ハクは私の言葉を彼らの言葉に通訳してくれる。


「ありがとうございます。本当に、この言語がわかるんですね。」


私がハクに言うと、優しく笑った。


「ありがとうはこっちのセリフですよ。実は、私、国境警備隊のある人の言葉を聞いて一生懸命覚えたんですよ。子供の時から数年間ずっと。」


「独学!?」


私はびっくりする。この滑らかな言葉が独学なの!?だとしても相当な信念なはず。


「あ、いえ。国境警備隊に物好きな方がいて。その人にずっと教えてもらってたんです。」


へぇ。そんな人もいるのかと感心する。だとしたらそれは、とても素晴らしい事だ。

ってそう言えば国境の砦はどうなっているのか!


「国境の砦はもう落ちちゃったのかな……。」


私が心の声を漏らすと、ハクは苦しそうな顔をする。そして申し訳なさそうにおずおずと教えてくれた。


「砦は既に落ちています。私の仲間達が見に行った時にはもう……。どうやら、病が蔓延する中、攻め込まれた様です。リーブルス教によって。」


病!?やっぱりフェルの母が言っていることは間違いではなかった。リーブルス教がわざと一人だけ逃げさせて、村のみんなに病の恐怖を見せつけたと考えるべきか。そしてそれが病の噂としてこの国に広まっている?

しかし、それにしても情報が噂止まりでお父様や王まで伝わらないのにはどんな理由なの?侵攻されているなんて事実が上に伝わらないなんて。裏切りというか、かなり大掛かりな情報操作がされているとしか考えられない。


「私の言葉の師も病で亡くなりました。数年前の事なので今回とは関係がないと思いますが。だから許せません。」


「亡くなってらしたんですね……」


それを聞いて悲しい気持ちになる。シュパールの人を()()もなく受け入れる人なんてきっと素敵な人だろうから、会ってみたかった。


「彼は、愛する人と子供が()()()()と言っていました。貴方みたいに愛する人と一緒にいられるという事はとてもしあわせな事なんですよね。」


愛する子供と妻を残して逝ってしまったんだ。それは、きっと、とても悲しい事だろう。無念だっただろうな。と、しんみりする中、ハクの言い回しが心に止まる。


「あの……私。愛する人と別に一緒に今いないんですけど。」


私がそういうと、一度キョトンとした後すぐに、何か思いついたように私を慰める。


「あぁ!今さよならしちゃいましたもんね!でも、大丈夫。カイトさんは相当強いですから。すぐに帰ってきますよ。」


「えっ?いや?うん?いやいや。私とカイトは別に恋仲ではないですよ?」


私がそういうと、ハクは目を見開いで大声で叫ぶ。


「ええええぇぇーー!?!?あれで!?あれで恋仲ではないのですか!?!?私は、てっきり、主従関係の中の禁断の恋なのかと……」


「んな訳ないでしょう!!!いくつ離れてるとおもってるんですかっ!!」


私は思わず叫ぶが、いや、攻略対象なのだからギリギリ年齢はアリかと心の中では冷静になっていた。そして、年の差で上手くいって欲しいのは私ではなく、ロイとアイリーン、とここに居ない屋敷を守る彼らの事を思い出した。


ロイ。大丈夫かな。あの時、震える手で森林国境行きを引き止めるロイを置いて、私はここまできてしまった。信じて待ってて欲しい。そう伝えたけれど、大丈夫かな。


一筋の不安を抱え、私は騒ぐハクを諫める。


今は、ここでできることをやらなくちゃ。信じろって言ったんだから。それなりに役に立たなくては。


そう思い出して、私は倒れるシュパールの人々に手を伸ばす。


状況は、思ったよりも悪い。野晒しの地面に簀子の様なものが敷き詰められ、その上にゴロゴロと怪我人や火傷を負っている人が倒れている。何か治療をされているわけでもない。


このままじゃみんな死ぬ。


でも、私にはココで医療を奮えるほどの知識と技術がない。あるのは前世の看護の淡い記憶と、勉強してきた本による薄い医療の知識だけ。


その中で、私に出来ること、出来ること。


カイトがみんなを連れてくるまで、命を持たせる。それだけだ。それこそが私にできること。


私は目の前のシュパールの民のケアにとりかかった。


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