誕生日パーティー②
「ロイ、辞めなさい。」
ロイが強く睨む先を私は見ずに告げる。ロイがマルクスや、クラメールを警戒対象として隠そうともせずに睨み続けていた為、少し注意をすると、睨むのをやめ、先を進む私に遅れてついてきた。誕生日パーティーが進む中、私は一目のつかない場所へ移動をした。私の誕生日パーティーを名目にコネクション作りにみんな来ているだけだから、少し居なくなったって誰にも気づかれたりしない。
「ロイ、私の護衛騎士であるならば、力だけでない護衛の術を学んで欲しい。」
歩きながら告げる私にロイは明らかに怪訝な顔をした。
「それは…、どう言う意味でしょうか?」
私の進む道は、本来のヒロインから外れた険しい道になる。第一王子との婚約を破棄されずそのまま保ち続けるには、私自身が努力する必要がある。ゲームでのヒロインは王子による寵愛で婚約者の立場を守られていたが、それではダメだ。きっとストーリーを外れた私に第一王子からの愛情を得られる確証もない。更に、私は、今の第一王子を失いたくない。というのも、今は聡明である王子も、セレナを寵愛することで国や人に対して疎かな態度を取ることも多くなる。今は人や国を思う彼であっても、セレナがフラフラしていることからの嫉妬や、他の男による憎しみによってねじ曲がり、王子とは言えない言動や行動も目立ってくるようになる。私は今の聡明な王子のまま変わってしまう前の状態で成長してほしいのだ。つまり、私も自分を持ち、王子に対して横で支えられるような女性にならなければならない。
この先周囲からどんなバッシングを受けようとも、自分は正しいと言う絶対的な意志と自覚を持つ必要がある。私にはこの先いろいろな困難が待ち受けている。だから、こんな些細ないざこざでつまずいている暇はないのだ。
だから、ロイ。
「ロイ、あなたは、私の護衛を任されたことを左遷された、と思っているんでしょうね。………………でも、そんなことないですよ。私は王妃になりますから。」
ロイの目が大きく見開かれる。
「私の護衛騎士ならば、この先いろいろな私の道を塞ぐ困難が立ち塞がるでしょう。でも、私のことを守る術が体術だけではいつか私を守れない時がきます。」
「先程あなたはマルクス様やクラメール様に明らかな敵対心を出しましたね。でも、それではだめなんです。ただ、私の体の危険を守るだけでは、この先きっと私を守りきれなくなる時がきます。護衛騎士とはいわゆる私を写す鏡。私の護衛騎士になったからには、そう言う事のできる騎士になってほしいんです。」
今私はものすごい傲慢で面倒なことを言っている。でも、ロイはとっても優秀でそれができることを私は知っている。そして、その力が私には必要なの。
しーんと。沈黙が流れる。
沈黙が怖すぎて自ら口を開いてしまう。
「あの…だからその……優秀だと有名なあなたであれば、できると、思って…」
うう。視線が痛い。上手に言葉が出せない。無意識にドレスの裾を引っ張ってしまう。だからこう言うのあまり得意ではないんだよ。そろっとロイの顔を覗き込むと、目を丸くし明らかに驚いている顔をしていた。
ポカンと開いていた口がポツポツと言葉を紡ぐ。
「貴方は……私の事を以前から知っていたのですか?」
予想外の質問に驚く、が、それは当然の事。私は今生きている私の周囲の人間に関してはかなり知り尽くしているのだから。でも。
「もちろんです。最年少で王国の騎士に選ばれた真面目で優秀な方だと噂で聞いていました。」
私は前世の記憶を思い出す前から彼のことを知っていた。侍女や、父、母の噂話などでもよく聞くし、街の新聞などにもよく載っている有名人だからだ。私がロイを知っている事に対してそこまでおかしいことではないはずだけれど、まずいかな?
ロイは、はぁー、っと強く息を吐くと腰に手を当てて、困った顔で私の事を見た。そして、私の前にひざまずき視線を合わせる。
「セレナ様。今までのご無礼をお許しください。」
深く頭を下げるロイに驚く。え!?いきなりなに!?
「ちょ、ロイ!?やめてください。どうされたのですか?」
思わず声が裏返る。ロイは頭を下げたまま私にポツポツと話をした。
「私は、正直、貴方の言う通り、この移動に乗り気ではなかった。この国のために頑張って努力を積み重ねてきたのに、なぜ令嬢の護衛なのだと、不満を持っていた。セレナ様。貴方に大変無礼な態度をとりました。申し訳ありませんでした。」
うん。今の発言もかなり無礼だけどね?笑
でも、それが本当の姿なんだなぁと思う。真面目であるが故に思っていることをそのまま口に出す素直さ。最初のチャラさはあれかな?ちょっとやっぱりやさぐれてたのかなぁ。なんだかそう思うと………。
「ふふつ。」
思わず笑い声がもれる。やばい。ちょっと可愛くて笑ってしまった。
「セレナ様?」
ポカーンとした顔で私の顔を見るのでさらにおかしくなってくる。
「ふふ、ロイ…。今もかなり失礼なことを言っていますよ…笑」
ロイは右上に視線を巡らせ、ハッとした顔になる。そして今度は頭を擦り付けそうな勢いで、もうほぼ土下座に近いように跪いた。
「も、申し訳ありません!!!決して悪気はなく………えと、うーん。たしかに私はこのくらいの歳の令嬢の護衛で一度嫌な経験がありまして、それで、その、誤解を、あなたに誤解をしていまして。」
必死で弁明する姿にどんどん笑いがこみ上げてくる。もう、ほんとに素直すぎる!
「あははは!もう………やめて、面白すぎます!」
顔を真っ赤にして私を見つめるロイになんだか愛着が湧いてくる。
ふぅーと一息ついて落ち着かせ、声をかける。
「私は、貴方の人生を私に預けてくれ、と、ドンと構えるような地位も器もありません。ですから、他の所で護衛の任務に付きたいとおっしゃられるロイを止める権利は、私にはありません。でも、ロイが私の護衛でありたいと望んでいただけるのであれば、とても嬉しいと思いますし、それ相応の努力をしたいと思います。」
「まぁ、まだ、出会ったばかりですしね!私もロイ様に主人と認めて頂けるように努力致しますので、もう少し一緒にいて頂けますか?」
恐る恐る、ロイを見ると、硬い表情になっていて、少し不安になる。
「あっ。でも、私からお父様に、身に余ると願い下げればすぐに他の任務に付けますし、嫌になったら、おっしゃっていただいて…………」
保険をかけようと早口で話す。すると、ロイは私の手をとって、口元に近づけた。えっ。えっ。えっ!?
「ロ、ロイ???」
ロイは、にっこりと笑った。
「1回目は、全く気持ちがこもってなかったので、上書きしました。これで貴方は私の主人です。」
カーッと顔に熱が集まるのがわかる。くそぅ!イケメン攻略相手はキュンとさせるのが標準装備なのか!?
「あっ、あの。私を認めてくださるのですか?」
「私のために努力するなんて言ってくれる人は、そんな主人はもう現れないだろうなぁと、思いまして…。それに、貴方が王妃になりますって言った時、なんだかすごい未来が見えた気がしたんです。」
ロイは私の手を両手で包むように重ねた。
「貴方は、きっと、私を見た事のないところまで連れて行ってくれる。そんな気がするんです。」
強い風が吹く。ロイの茶色い瞳が透けてキラキラと輝いて見える。
「これからよろしくお願いします。セレナ様。」
なんだか良い関係が築けそう。そんな気がして、なんだか大切な事を忘れているような気もするけど、とりあえずはまあいいか、と笑った。
「こちらこそです!ロイ!」




