汚れた手【カイトside】
攻略対象 カイト視点です。
残酷な表現がありますので苦手な方はご注意下さい。
俺は一体なにをしているのだ。手を縛られ森の野蛮人共に連行されながら、考える。黒衣の鳥と呼ばれた男が聞いて呆れるな。このくらいの人数ならば、手加減は出来ないだろうが、切り抜ける事は、できた。そして、俺は本来そのために姫さんと一緒にいると言うのに。ロイという護衛騎士と変わった意味がない。あー、スヴェンさんにめっちゃキレられそーだなコレ。本当に何故敵に下っているんだ俺。黒いシャツの袖からゴソゴソと見えない程度に刃物を出す。まぁ、このくらいならばぜんぜん抜けられる。
ふと目隠しの下の隙間から前に居る姫さんを見る。姫さんは目隠しをされ、手を後ろで縛られて震えていた。自ら捕まって置いて、怯えてやがる。本当に姫さんはカッコつけがお上手だ。ただの、か弱い令嬢だと言うのに。
俺は手に持っていた刃物を引っ込め、姫さんの勇気を出した行為に付き合うことを決めた。別に気まぐれだ。こんな奴らすぐに殺そうと思えば殺せるしな。
俺は、戦争孤児だ。姫さんが生まれる前にあったラグーン国との小競り合いで両親は死んだ。本当に小さい戦だった。今でこそ、一応の友好関係を築いてはいるが、昔はもっと殺伐としていた。
小さい戦と表現したが、小さい戦とは言え、戦は戦。人は死ぬ。俺の両親はその戦争で、あの世に連れて行かれた。
俺の両親は共に医者だった。らしい。顔も、もう覚えていない。そのくらい俺は小さかった。そして家も燃えた。写真一枚すらない。
孤児院でその事実を聞かされた時は腹わたが煮え繰り返るかと思った。顔も知らない両親なのに、殺された事実が俺を憎しみの渦へ突き落とした。そして何よりも許せなかったのが、ラグーン国がこの国に攻め入ってきた理由だ。
『異教徒を許すな!』
ラグーン国はある一つの宗教を軸にしている国であり、それを基本として生活や政治が成り立っている。セザール国はどこの神を信仰しようと自由であり、ラグーン国がセザール国に攻め入る理由として異教徒であると言う事は、何も違和感はなかったらしい。
俺は、それを知ったとき、この世の不条理を恨んだ。なんて下らない。7歳の時だった。
それからはもうあまり記憶に残っていない。孤児院を飛び出して、名前を捨て、国の諜報部の人員になるべく、苦しい訓練を受け続けた。初めは多分ラグーン国への復讐心だったのだろうか。俺は生まれつき、良い目と、良い鼻を持っていた。なかなか成長しない薄い小さな身体も、俺に速さと言う名の武器をくれた。
麻薬の組織を壊滅させると言う任務を受けた時も、何も恐怖はなかった。俺は誰よりも強いと言う自信があったし、それは事実だったからだ。手や身体は血で汚れ、染みつき真っ黒に染まって、いつの間にか黒衣の鳥なんて可笑しな名前で呼ばれるようになっていた。
殺して殺して殺して、沢山の骸の上に俺は立っている。
そう気づいた時、俺はなにがしたかったのか分からなくなっていた。親の復讐なのか、この世の不条理への反逆心なのか。別に国に対して愛国心があるわけでも無い。俺は何のために殺しているのか。
両親は医者だった。その手で沢山救ってきたのだろう。しかし、俺の両手は真っ黒で、血に塗れている。こんな子をきっと恨んでいるだろうな。
それを考えると頭が痛くなった。
俺は、変わらないのでは無いか?両親を殺したあの戦争と。なんら変わりはない、ただの殺人鬼なのでは無いか?俺の手は修復不可能なほどに汚れてしまった。もう落ちない。汚れは落とす事はできない。
それに突然気づいた時から俺は殺しの依頼を受けなくなった。
実際には、受けれなくなった。
もう、もはや俺は殺し屋でも人間でもない。
ただの生きる屍だった。
そんな時、カルミアという若い王子に声をかけられる。幼いのに、この世を見通すような、しかし、切ない瞳を持っている子供。彼の背中には大きな傷がある、らしい。それこそ不条理なはずなのに、瞳に濁りを感じなかった。どうすればそう生きれる。何故、俺は、どこで間違ったんだ。
その若き未来の王は顔を赤くし、あろう事か、おずおずと俺にお願いをしてきた。
「ある……少女を見てて欲しいのだ。」
「は?」
俺は、思わず声が出る。なんの話だ。
「お前の噂は聞いている。ただ、今何も闇の仕事を受けていないと言うならこの仕事を受けて貰えないだろうか。気配を感じ取られず、ずっと尾行するなんて、お前くらいの腕前で無いとできないだろう?」
「いやいや、たしかにそれは、そうでしょうが、なんの目的で?その女が売国でもされていますか?」
俺は、理由が全く予想できなかった。たまたま王宮をぴょんぴょん飛び回っていたら声をかけられ、突拍子もない事を言うのだから。
「いや、そう言うわけでは無い。ただ…どんな生活をしているかとか、どんな奴と話しているのか…とか、無事で生きているのかとか、それを私に報告してくれるだけでいいんだ。」
「んー。あ!わかった!恋する相手の行動を知りたいとかそんな事だ!?」
俺はさらっとジョークを言った。つもりだった。
「ちっちがう!!!断じて違う!俺は!!…ゲホッ。私は…別に恋などはしていない。」
幼い王子は顔を真っ赤にして必死で俺に食い下がった。
「えっ。うそだろ。まさか本当に……そんな事を、この俺に?」
うそだろ?黒衣の鳥だぞ?
この俺に、恋路の手伝いをさせようって言うのか。なんだ、この坊ちゃんは。
だめだ…笑いが止まらない。
「な!なぜ笑う!!」
俺はそんな幼い王子の依頼を聞くことにした。何故だかはわからない。ただ、こんなに笑わせられたのはきっと両親を失って以来だったんだ。だからだろうか。
俺はその少女、つまりセレナをずっと見続けてきた。
その日何を食べ、何に笑い、何に怒ったのか。正直、あの育児放棄のスヴェンさんより俺は姫さんには詳しい。たまにスヴェンさんが俺から情報を買ってった事もあったしな。特にあの、マクーガルの件はスヴェンさんですら結構焦っていた。顔には出さないが。あの人も相当拗らせている。
そして、これは、絶対に姫さんには言えない。これがバレてカルミア王子キモい!ってなったら本末転倒だ。
実際相当キモい。好きじゃ無いと頑なに否定し続ける癖に、男の影を伝えると、キッと眉間にシワがよる。そして今にもその男を切り捨てようとするのでは無いかと言うほど、静かに怒る。あの幼い頃見た、濁りの無い目は勘違いだった。はっきり言って、姫さん。あの男はやめておいた方が良い。愛が重すぎて、絶対いつか何かやらかす。逃げられるうちに逃げておいた方がいい。
ただ、姫さんも相当重い女の子だった。いつ、どんな時でも坊ちゃんのことしか考えていない。普通こんな危険な場所へ、いくら好きな男のためとはいえ来れないよ。来れない。
そう。だから、似たモノ同士なんだ。特に愛の重さが。姫さんの方がまだクリアな愛だけど。まぁ、結局重さは一緒。
だから、見ているうちに色々、芽生えた気持ちには蓋をしよう。俺は坊ちゃんも嫌いじゃないんだ。やばいやつだとは思うけどな。
一応近づき過ぎないよう、俺を信用するなと忠告もした。
本当に真っ直ぐで汚れを知らない、少女。最初は無鉄砲だなぁと思うだけだが、あの子は何故だか人を惹きつける。全てを守りたいと必死で不条理に抵抗する姫さんの姿は、何故だかいつも泣きたくなる。みんな諦めているような事をそれでもなお、その小さな手で救い上げようとするのだ。自分がボロボロになっていることに気づかず。
あの子を見ていると夢を見ているようだった。綺麗な手で必死で人を救わんと苦しんでいる。欲張りなんだな。何も失いたく無いと思っている。そして、敵からすらも出来れば奪いたく無いって思ってる。そんなワガママな子供が何故こんなにも俺の心を突き動かすのか。
俺がやりたい事を代わりにやってくれているからかな。俺はこうでありたかったって言う理想だからなのかな。殺しでじゃなくて、真っ当な方法で人を助けてみたかった。人を救ってみたかった。姫さんは俺の理想を体現してくれてんだな。
更に、最近では本当に周りに花が咲くんじゃ無いかってほど綺麗になって、困ったモノだ。まだガキの癖に生意気だ。
そして自分の美貌にあまり興味がないことが本当に命取りだ。さっきだって、涙目で、「一人ぼっちになるかと思った」だの、「信用すると決めた」だの、本当に勘弁してくれ。こっちは諸々冗談に流して必死で処理していると言うのに。
俺の殺しを止めたのも俺への気遣い。殺すのが嫌って気持ちもあったのだろうが、俺が今、殺しをしていない事に気付いている。なぜだかはわからない。わからないが、この姫さんは時々未来が見えているような事を言うからな。
俺はフーッと息を吐く。
何を考えているのかはわからないが、とりあえず今は姫さんに乗っかってやるか。あの震える手に守られてやるか。いつでもカッコつけてるからな。姫さんは。
汚れるこの手で、隣に居ていいのかはわからない。多分、絶対に触れていい存在じゃ無い。だから、今回だけは隣に居させてくれ。これが終わったら遠くの木の上に戻るから。今だけは、姫さんの光で暖まらせてくれ。
なんて柄にも無い事を考えて、俺は謎の木で出来た造形物に乗せられ、謎の民族へ連行されていた。
いやいや。これ、もう死にそうじゃね?大丈夫?
まぁ、コイツらが姫さんに手を出すような事があれば、すぐに俺が守るから。
姫さんは、俺の、光だからな。
この先前触れもなく残酷な表現が出る場合がありますので、苦手な方はご注意下さい。
カイトくんが書いてて1番楽しいかもしれません笑
ブックマーク評価ありがとうございます!!




