セルテカ ②
「フェル!!!!」
私が小屋付近までフェルと共に歩いていくと、畑仕事をしていたフェルの母らしき人が駆け寄り私からフェルを遠ざけた。
「お母さん。この人はセザール国の人だって言ってたよ。だから、大丈夫だよ。」
「そんなの、嘘かもしれないだろ?!」
フェルの母は私とカイトを強く睨んでフェルを抱きしめる。抱きしめるその手は震えていた。
「このままで大丈夫です!近づきません!なので少しお話を聞かせては下さいませんか?」
私はその震える手から、これは単なる噂ではなく事実だと感じた。ただの噂でここまで初対面の人間に態度に示したり怯えたりするだろうか。きっと一度そう言うことがこの村であったのだ。だからこそ、ここまで怯えている。
「随分と綺麗な顔立ちだね。まるでどっかのお貴族様みたい。」
私はドキンとした。ど、ど、どうしよう。アイリーンがせっかく、しなしなの服を用意してくれたのに!
「いやぁ。可愛いでしょう?本当に自慢の妹なんですよっ!この顔立ち、お貴族様と思われても仕方ないよなぁ!なんなら、お姫様くらいだよなぁ!」
ずっと喋らなかったカイトがいきなり喋りだす。
「お、お兄ちゃん。それは、言い過ぎ…。」
「そんなことないさぁ!」
ナイスフォロー!!!ここで溺愛設定が生きるとは!
しかしフェルの母は私達を受け入れることはなかった。
「帰っておくれ!」
ピシャリとそう言われ、話も聞いてくれそうになかった。
「お邪魔してすみませんでしたね!帰りますわ!」
カイトがクルリと方向転換をした。
「待って!」
私はどうしても噂の詳しい話を諦められなかった。だって、この旅だって勘で始まった不確かなモノ。情報は何よりも欲しい。それに、このくらいで諦めてたら、私がカルミア様の助けになんてなるはずがない!
「私たち、病の原因を調べにきたんです!貴方の気持ちも恐怖も重々承知の上で、お願いします。どうか、どうか、噂の件教えてもらえないでしょうか!!」
私は大きく頭を下げた。
「私はここから一歩も動きませんし、今日は馬車に泊まります。この村も今日の夜を過ごしたらすぐに出て行きます。お願いしますっ!どうか、どうか!」
私が必死に叫ぶと、フェルの母は、気が抜けたようにヘタリと座り込み、言った。
「病の原因って、もしかして、お国の研究員さんが何かかい?助けてくれるのかい?」
ち、違う。私は研究員なんかではない。でも、ここで引き下がっては真実も知る事は出来ない。どうしよう。言う?言わない?私が自問自答していると、カイトがスタスタ戻り、私の頭に手を乗せる。
「そーなんですよ!ウチの妹は見習いで!意外とガッツがあるでしょう??」
さらりと息を吐くように嘘をつくカイトは堂々としすぎて、色々知っている私でも騙されそうだと思った。
「そうかい……。やっと、やっと…。」
フェルの母は涙を流しフェルを抱きしめながら繰り返しそう言った。
「やっと?」
私がそう聞き返すとフェルの母はポツポツと話し始めた。
「ずっとずっと私達はお国の上の人に助けてくれって人を出してたんだ。なのに一人も来てくれやしないし、帰っても来ない。だから、私たち見捨てられたんだってそう思ってたんだよ。」
国にそんなこと伝わっているのか?伝わっていたのに対策をしないなんてことあるのか?
「ある日ね、あの森林国境の方から人が降りてきて、何事かと思ったら、畑の真ん中で倒れちまうもんだから、助けようと駆け寄ったんだ。」
ブルブルと身を震わす。
「そしたら、その男が、俺に触ると病が移るからどっか行け!って言うんだよ。でも、ほっとくわけにもいかなくてオロオロしてたら、その人は森林国境で働くセザール国の軍人さんだって教えてくれてね。」
「今、森林国境はラグーン国の人に占拠されて、病をばら撒かれてほぼ落ちているようなもんだって言うんだ。」
「占拠!?!?」
私は思わず聞き返す。
「あんた、うちの村からの伝令を聞いて来てくれたんじゃないのかい?よくわからないが、もう森林国境は落ちていて、ここがラグーン国に侵略されるのも時間の問題だって言われて怖くなっちまって。そしたらその男がパタンと死ぬもんだからもうこれは、一大事だって、すぐにお国の役人さんに伝令を送ったはずだよ。」
そんなの聞いてない!!!もし、それが本当なのだとすれば、その伝令を伝わら無いようにする何らかの力が働いていると言うことだ。伝令を伝えに行った人は恐らくもう…。そして、このセザール国は何も気づかぬまま、他国の侵攻を許したと言う事になる。
私は恐ろしい仮定の状況に身体が震える。病が流行っていると言うカモフラージュに惑わされ大事な事をずっと見逃してきたのでは無いか?
そしてここで確定する。こんな事をできるのは国の上層部に裏切り者がいる。やっぱりそうでなきゃ考えられない。お父様の耳にもこの事態が全く伝わっていないなんて、何処かで何かが動いている。
「色々教えていただきありがとうございます。」
私は丁寧に礼を言って、馬車に戻ろうと振り返ると、後ろから大声で、懸命に声をかけられる。
「私達!助かるんだよね!?助けてくれるんだよね!?」
その言葉に、ドクリと心臓が震える。みんなを助けられる確証なんて私には無い。もしラグーン国の人達が本当に森林国境を破っているのだとすれば、そこから目と鼻の先の村を襲うなんて簡単な事だ。なぜ今までここに攻めてきていないのかが不思議なほどなのだ。カイトがいるとは言え、無知で非力な子供と、カイトの二人だけ。こんな事約束なんて出来ない。必ず助ける何て口が裂けても言えない。
「私には小さな力しかないので、それをお約束することはできません。」
「…そん…な……」
震える声に胸が痛くなる。
「ただ、最善は尽くします。どうにかして、どうにかして、やり遂げてみせます。」
私はあえてそう言った。この言葉で自分を戒めるように。追い詰めるように。この事は一生忘れない。私は何もできない苦しさを永遠に味わい続ける気はない。そして、今の私には力はないが、できることも、ある。はず。
私はすぐに馬車の方へ歩き出す。
「あんな事言ってよかったの?」
カイトが私に問いかける。その瞳はどこか挑戦的で私を探っているよう。この一大事になんて楽しそうな目なのだ。
「あれは、私に言ったようなモノなので。自分に言い聞かせただけです。必ず助けると。」
拳を握りしめそう言うと、「ふーん。」と、手を頭に置いて、ふらふらと馬車の方へカイトも歩き出す。そして思い出したように私に詰め寄る。
「ってか、敬語!」
「えぇ!?もう、バレてたようなモノなのに!こんな時までいいでしょう!?」
私は思わず大声をあげる。
「やだ!俺のモチベーションに関わる!俺、妹萌えだから!」
私は思わず頭を抱える。こんな時に状況が分かっているのか。この人は。
不安の拭えないカイトを連れて私は寝床に着くべく馬車へ向かった。
複雑な話が続きますが読んでいただけると嬉しいです。
いつもブックマーク評価ありがとうございます!!




