表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/113

兄弟【カルミアside】

時が少し遡ります。舞踏会の後のお話。

第一王子カルミア視点です。

俺は、星が光る夜空をぼうっと眺めていた。

思い出されるのは、セレナの泣き顔と懸命に真っ直ぐに自分を好きだと伝えるあの姿。


「もう。むりだ。」


俺はため息をつく。逆にあそこで我慢できた事にびっくりしているほど、俺は限界だった。


そもそも、五年前から急激に綺麗になりすぎだ。中身は真っ直ぐ優しいまま、そして少し泣き虫なまま。思わず、グッと拳を握りしめる。何が、『他の男に手をつけられたら…』だ。1番の不審者は自分ではないか。これからも、俺の理性が耐えてくれなければ、犯罪者になりかねない。いや、むりだな。これは。なってしまってもしょうがない。それほどまでにセレナの存在は罪深かった。


もう、手遅れだ。セレナには本当に申し訳ないが、手放せないし、正直片時も離れたくない。


「兄上。」


突然後ろから声をかけられる。舞踏会はもうほぼ終わっていて、招いた客人もほとんどいない。


「兄上。セレナの事を好きかどうかはわからなかったのではないのですか。」


低い、私を責める声。振り返ると、強く私を睨むキングサリの姿があった。この2年でかなり背も伸び、もうすっかり王子らしくなっている。


「いや、好きだ。申し訳ないが。」


私はキッパリそう言うと、キングサリは口をヘの字に曲げた。


「ここ2年、いや、5年?セレナをほっときながら、貴方は一体何を言っているんだ?そもそも、俺とセレナを応援しているくらいに思っていたのですが?」


そう。俺は、そうなれば良いと思っていた。思っていたのに。


キングサリは今でこそ馬鹿王子と呼ぶものは少なくなっているが、昔は本当にひどく、王宮内に行動を制限されていた。その為、他国の、ましてやラグーン国の姫との婚約などをすればラグーン国との外交問題になりかねないとスヴェンや国王が判断し、もしその際には私が婚約する手筈になっていた。普通は第二王子の役目なのだが、私が婚約することになったのはそういう事だ。


まだ、12歳だった時、婚約者を四人作ったあの時こそ、国王の意図が分からず、混乱したモノだ。しかし、結局はその四人はフェイク。いざと言う時にいつでもラグーン国の姫と婚約できるようにするための物でしかなかった。12歳で普通の王族は婚約者を決める。まぁ、キングサリは普通の王族ではなく、ほとんど王子としての活動もさせないようにされていた為現在も婚約はしていないのだが…。その王族としての体裁を守りつつ俺は外交の切り札として保険をかけられていた訳だ。


しかし結果、それが功を奏したことになっている。今回不本意な形でラグーン国との関係が悪化し、俺という切り札を使うことで解決する事ができるのだから。正直俺も結婚相手など誰でも良いと思っていたし、それでいいと思っていた。この国の一大事。俺の身が捧げられるならそれで良いと。


「ああ、応援していた。とてもな。ただ、もう無理だ。俺は、セレナの存在が大切すぎる。今日それを身に染みて感じた。」


でも、もうセレナを手放す未来を仮定することはできない。あの時、あの瞬間、それは決まった事で、動かせない事実。誰にも譲れない。


「兄上、ラグーン国はどうする気なのですか?今度は俺がラグーン国の姫との婚約へとたらい回しにされると?」


俺は、その発言に驚く。もちろん王族として当然の結論ではあるが、以前ならばそんな考えにも至らなかったであろう。そして何より、一部の人間にのみしか知らされていない、俺の婚約の話をキングサリ本人が自分の力で気づいていると言う点だ。一体セレナはこの男にどんな魔法をかけたと言うのか。


「今のキングサリならば、危険どころか有益でしか無いからな。お前がそれでいいならそれでも構わない……が、いやだろう?」


「ええ、嫌ですね。俺はセレナ以外と結婚などしない。言っておきますが、セレナは俺のものですか…ら……いや、違うな。アイツはこの言い方は嫌がるな。」


キングサリはブツブツ一人で呟く。


「本当に……変わったな…。」


「はぁ?」


本当にキングサリは変わった。この二年で、今までの遅れを取り戻すどころか、王子としてのちゃんとした知識を勉強し、ここまで立派に成長している。噂では、よく、街にも顔を出すらしい。そしてなんだか沢山の物を買い込んで庶民の食べ物を美味しい美味しいと食べると聞いた。国民からの評判も良い。以前は部下の名前すら覚えなかったというのに。


「俺は、とりあえずあの噂の流れた出所を探りにいかねばならない。」


俺が、セレナを手に入れたいのなら、セザール国とラグーン国の仲を回復させなければ。まだ国を捨ててまでもセレナを手に入れたいと願ってしまうまで落ちぶれていなくて良かった。俺は王子なのだから。この国の王子なのだから。


きっとこの国を捨ててセレナを追いかけても彼女は絶対に喜ばない。


「アンタ、俺の話聞いてました?俺は…」


「キングサリ。お前も来い。出所を調べる。」


キングサリは強く俺を睨む。


「だから、なぜライバルの言う事を聞かねばならないのだ。」


「だって、俺がラグーン国の姫との婚約を拒否すればお前がすることになるぞ?友好関係を復帰させなければな。それは、嫌なんだろ?」


「アンタが素直に婚約しとけばいいだろ!!!」


「だから、それは絶対しない。俺は、セレナが好きだからな。」


「訳がわからん!もう、知らん!」


キングサリはすごい勢いで、怒り狂いながら、バルコニーから出て行こうとした。

俺は思わず引き止める。


「協力してやれば、絶対になんとかなる。力を合わせよう。」


「神経こんがらがっているのか!」


「わかったこうしよう。二人で協力して友好関係を回復させたら、そこで、今度は二人で勝負だ。」


俺が名案を出したと思い、それを伝えるとキングサリは顔を真っ赤にして俺に突っかかる。


「そんな負け勝負受けるはずがないだろう!!」


こんなに怒りをぶつけられているのに何故だか笑いがこみ上げる。


「何がおかしいんだ……。」


ワナワナとキングサリが俺に問う。


「いや……すまない。なんだ。その。」


そうだ、以前はこんな関係ではなかった。蔑むような冷たい目を向けられ、俺はキングサリを避けていた。片方しか血が繋がっていないとは言え、大切な弟だったのに。それがどうだ。


「こんな風に、ケンカできる日が、来るとは思わなかったんだ。」


こんなに目が合って、喧嘩できる日が来るなんて。

俺がそう言うと、罰が悪そうに顔を背ける。


「セレナに言われただけです。」


「セレナに?」


キングサリは顔を背けたまま続ける。


「まともな目で見て自分で考えてみろって。」


「まぁ、それで考えてみて、好きでもなんでも無いですが、よく考えれば憎む理由も無いと思っただけです。」


それを聞いた瞬間、俺は久しぶりに、いや、初めて?大笑いしてしまった。こんなに笑ったの初めてだ。


「クックッ……ハハハハ!!全く。兄弟揃ってセレナには敵わないな。」


本当に恐ろしい。恋というものはいとも簡単に人を変えてしまう。


「ああ、今日は本当に笑った。さぁ、行くぞ。キングサリ。」


俺はバルコニーの出口へ向かう。


「いや、協力するなんて一言も言ってないんですが!?」


後ろに聞こえるキングサリの喧騒をこんなに愛しいと思う日が来るとはな。本当にセレナには驚かされる。


俺はまだ見ぬ敵を追い詰めるべく騒ぐキングサリを連れ、王宮へと急ぎ足で戻った。

基本的にいつもキングサリいじっちゃって申し訳ない。


いつもブックマーク評価ありがとうございます!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ