誕生日パーティー①
穏やかなクラシックと共に様々な貴族が私を見つめている。豪華な会場、華やかなドレス、そして愛憎渦巻く視線。そう、今日は誕生日パーティーとはいえ、ほぼ婚約パーティーのようなもの。一貴族の誕生日パーティーに普通は王族なんているわけがない。スカルスガルド家は勝ち組。私を王家に差し出すことで成り上がりに成功するのだから。成り上がりと言っても、もう上がる必要のない程度には上位貴族なのだけれど。それでもお父様は上を目指さずにはいられないのだろう。国王陛下はなにを思って私を受け入れたのだろうか。スカルスガルド家が大きな力を持つことで貴族たちの均衡もかなり崩れる。冷たく冷酷な王はなにを考えているのか。
パーティーが進む中で、様々なプレゼントが運ばれてくる。長々と述べられる口上。冷たく、恨みの混じる目を隠そうともしない。言葉の端々に嫌味が混じる。
「まぁ、お久しぶりですわ。セレナ様。」
「アイリーン様。お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」
アイリーン・マクーガル、マクーガル家のご令嬢で、まぁ、ゲーム上はいわゆる悪役令嬢である。ゲームの時はかなりキッツーイ性格だったが8歳ではどうでしょうか??
「お誕生日おめでとうございます!また先を越されてしまいましたわ!追いつこうと思っても追いつけないんですもの。」
えっ。かわいい。つり目気味で目元にあるホクロ、将来有望な美人枠で、赤の薔薇をあしらったドレスがこの年齢でもう似合っている。今の彼女からは嫌味も恨みも妬みもなにも感じない。無邪気な可愛らしい御令嬢って感じ。
「あら、アイリーン様。歳を重ねることが大人であることの証明ではないですよ。」
あー、可愛い。アイリーンがぷくっと口を膨らませている。
「なんだか、今、すごくセレナが大人に見えましたわ。なんだかすんごく悔しいです。」
あー、8歳可愛いなぁ。アイリーンの陶器のような透き通った肌には赤い瞳がよく似合う。この時は普通に友達で、今も思わず公式の場なのに呼び捨てで私を呼んじゃうくらいには仲が良かった。でも、こんな素敵なアイリーンをねじ曲げたのは………
「アイリーン。セレナ様だろう。」
アイリーンの父親である、マルクス・マクーガルがすぐに諫める。
「ごめんなさいねぇ。セレナちゃん。うちのアイリーンがほんっとに……でも、綺麗になったわねぇ。本当に、、」
背筋が凍る。
「素敵なドレス。」
娘と同じ場所にあるホクロ、真っ赤な紅の唇が歪み、私を上から下まで眺める。真っ黒なツヤのある髪をたなびかせ、歪んだ笑顔で私を貫く。彼女はクラメール・マクーガル、アイリーンの実の母親である。
今までの気の緩みをスッと取ってしまうような、そんな感じ。冷や汗がドレスの中をスーッと通る。でも、絶対に動揺も感情も悟らせない。私は負けない。
「お久しぶりです。マルクス様、クラメール様。お元気そうで何よりですわ。」
ドレスをふわりと持ち上げ挨拶をすると、二人の顔がピクリと動くがそれは一瞬でたちまち満面の笑顔に戻る。二人の口からは耳を塞ぎたくなるような嫌味が繰り返される。
「婚約の件はどういうコネをお父様は使ったのか知ってらっしゃる?」
「こんなに綺麗なら逆に殿下とは、勿体無いと思うくらいだよ。ははは。不敬でつかまってしまう。いけないいけない。」
「まだ、こんなに小さな女の子なのに自分で相手を決められないなんて可哀想だわ。私、お手伝いしましょうか?」
「君はまだまだ若い。ここで生き急ぐ必要もないとも思うがね。」
グワンと、世界が歪みそうになるような怒涛の嫌味に私もかなり頭に来ていた。何より、隣のアイリーンにこんな汚い感情を見せないで欲しい。アイリーンはなにがなんだかわからないって言う顔で混乱している。今までは私と仲良くするようにとずっと言いつけられており、パイプの強いスカルスガルド家とつながることで利益を得ようと親は考えていたが、婚約となれば話は別。自分の娘を婚約者にと考えていたのにも関わらず婚約者の座すらもスカルスガルドに取られてはこうなるのも仕方ない。でも、アイリーンを巻き込むなよ。お前達の身勝手なわがままのせいで、乙女ゲームの展開でアイリーンがどんな末路を辿ったのかわかっているのか!?
いや、この時はみんな知らないのだけれど。
アイリーン・マクーガルはどのエンディングでも悲惨な末路を辿る。ヒロインに嫉妬し、親からへの重圧と得られない殿下への愛情。全てを持っているヒロイン、セレナへの嫉妬心を燃やし自分も努力を重ね美しく聡明な令嬢へと成長していく。しかし、殿下への愛情を受けながら、全く王妃になる気がないセレナへ次第に憎しみを抱くようになる。殿下との婚約者というアイリーンにとって一番欲しいポジションにいながら従者や、第二王子や、他の男にかまけて殿下を蔑ろにし、さらには婚約破棄まで最後にしてしまうセレナに怒り、両親に色々な圧力をかけられ、セレナを陥れようと画策するが、それがセレナの攻略相手に見つかり、牢に投獄され、その後の描写はされていない。最後、彼女はこんな言葉を残して牢に投獄される。
「すべてを持っていながら何も持っていないような顔をして、それが当たり前だと思っているセレナが憎い。努力もせず幸せを当たり前だと思っているセレナが憎い。私は自分の行ったことになんの後悔もない。私は殿下とこの国を愛している。」
この言葉は、殿下への愛とプライドの高いアイリーンを象徴している言葉として、最後まで品のある悪役令嬢だ!とか、自分を突き通すすごいいい悪役令嬢だった!とか評価を受けていたが、私からすれば、悪役令嬢でもなんでもなくて、一番の被害者じゃねーーーーか!!!ってこと。アイリーンの言う言葉で間違っていることは何一つなかったし、殿下を国を思い努力をする姿も何一つ悪役令嬢ではない。最後に画策したものだって、この国を思えば正しいことだったのかもしれないとも思う。乙女ゲームのエンディングの裏では、正式な婚約者が逃げた第一王子なんて国も荒れるし未来もないわけで、それを考えれば国を愛し殿下を愛していると牢で叫ぶ彼女の方がよっぽどヒロインであり、正義の味方である。
とゆうか、あれ?両親もかなり原因の一つだとは思うけど、ほぼセレナが原因じゃないか????
でも、今のセレナは私だから。努力だってするし、王妃になる覚悟もあるよ。それに……私は王子が好きだし、この国もまだ8年しか生きていないけど結構好きだし、だから、アイリーンに婚約者の座を譲る気もないのだ。
アイリーン、ごめんね。私の選択でアイリーンは、親への圧力に苦しむかもしれない。でも、私も頑張るから、努力するから、ここはどうしても譲れないの。
「マルクス様、クラメール様。私は、この婚約、とても嬉しく思っています。」
アイリーンの横で大きく目を見開く二人。
「私、王子のことをお慕いしています。なので、この婚約むしろ、とっても嬉しいことなのです。」
目を見開いた両親の間でアイリーンがポッ顔を染める。
「セレナ!そうだったの!?なんでもっと早く言ってくれないのよー!」
キャッキャっとわたしの周りを飛んで手を掴む。え。もしかして、恋話好きなの?
「いつ!?どこで!?どんな所を好きになったの??きゃーーーー!」
とってもアイリーンは嬉しそうで、素敵な笑顔で私を見つめている。こ、こんなキャラだったっけ?
そして、再びアイリーンの両親を見ると、って、え!?!?なんでそんなに真っ青なの!?
ワナワナと瞳が夢顔は青ざめている。私の後ろに誰かいるの!?
恐る恐る後ろを振り向くと、そこには、この国の第一王子カルミア・デ・フォシュベリが立っていた。
ブロンドの髪に青い瞳、まだ、12歳であるが明らかに整っている綺麗な顔。素敵すぎる。やっぱり好き。
「セレナ・ディ・スカルスガルドだな。」
ひゅっと息が詰まる。やはりこの国の第一王子というだけあるこの貫禄。12歳にしてこの国を背負うそんな姿が見えるような、そんな神々しい姿。
「はい。」
すぐに顔を伏せて、ドレスを持ち上げる。横のロイもかなり緊張した面持ちで、膝末いている。
「そのような堅苦しいのは良い。顔を上げてくれ。」
顔を上げると、あぁ、なんて素敵なお顔なの。綺麗。
見惚れていると、突然質問を投げかけられる。
「セレナ、君は今日から私の婚約者となると言うことだが、先ほど君は私を慕ってると言っていたな。」
…………!?!?まって!?そこから聞いていたの!?
顔が熱くなる。ど、どうしよう。そもそも、出会ってないはずの王子を慕っていると言うこと自体、おかしい話だし、なんなら、地位に惚れていると、取られてもおかしくない。
「はい。言いました。」
でも、わたしには後ろめたいことも、王子に対する地位を狙う気持ちもない。だったら、目を逸らさず真摯に伝えよう。私の気持ちが伝わるまで。私は貴方の横にいる為ならどんなことだってできる気がする。
目を逸らさず真っ直ぐ綺麗な青い瞳を見つめる。
すると、カルミアは、そうかと、一言残し、顔を逸らした。そして、私の横を通り抜け、アイリーンの両親の目の前に立った。
「たしか、マルクス、クラメール、だったか。顔を上げよ。」
首を垂れてつくばっていた二人がびくりと肩を震わせ、恐る恐る顔を上げた。
私には、殿下の顔は見えないが、二人は明らかに怯えた顔をして口を震わせている。
「楽しそうに、私の婚約者と話をしていたな。なんの話だ、私も混ぜて欲しいのだが。」
マルクスは、あきらかに、焦りながら叫んだ。
「殿下にお聞かせするような話はなにも!」
シーンと冷たい沈黙が流れる。そして、王子が沈黙を破る。
「彼女は今日から私の婚約者であり、彼女への不敬は、私への侮辱と捉える。わきまえて行動するように。」
ピシャリと二人を説き伏せるとスタスタと人々行き交う中へ消えていった。
マルクスとクラメールら明らかにワナワナと自分の失態に怯え、床にひざまづいたまま動かない。アイリーンはオロオロとその両親を交互に見ている。
私はご挨拶をし去ろうと後ろへ振り返ると、ゾッとする感覚を覚えた。そして、隣の護衛騎士であるロイも剣に手をかけて後ろを向いている。背筋の凍った理由、それは、マルクスの冷たい目であった。私を突き刺すような鋭い鋭い目。私に対する強い憎しみの目。でも、決して振り返りはしない。この目はこれから色々なところで向けられる物。将来王妃になろうと考えているのであれば、これが当たり前になっていくもの。私は屈しない。この先どんなことがあっても、あの方の隣に居る未来のためなら、なんだってできるはず。
私は振り返りアイリーンたちを背に前へ進んだ。