黒衣の鳥 ②
「わぁ!カイトくん!久しぶりですねぇ!」
ずっと私達の話をニコニコ聞いていたバンが突然喋りだす。あまりにも話してなかったからもう帰ったのかとおもっていた。悪いことしたな。長いこと私達の会話に巻き込んでしまった。
「バンさーん!お久しぶりっす!」
二人は楽しそうに話し始める。それにしても可愛い顔。子供っぽいのだけれど、確か、オープニング時27歳だったから、今は25歳か。笑うと八重歯がチャーミングな彼は、攻略対象の中では最年長なのにも関わらず、少年っぽさを忘れない様なそんな可愛さがあった。
乙女ゲームをプレイしていたあの時、どんな感じだったっけ?何故だか記憶が曖昧で深く思い出せない。私はまじまじとカイトの顔を見る。なんだっけ?あーーー。何だっけ………。
「黒衣の鳥………?」
私は考えている事が口に出ている事に気がつかなかった。
そして、さっきまで楽しそうに話していたカイトは私の溢れでた言葉を聞いて、ツカツカ私の方へ歩いてくる。な、なに?近い……。
「姫さん。どこでそんな名前聞いたの?」
とても爽やかな笑顔。笑顔なのに顔が見えなかった。これは、前にも経験した事のある感覚。そう、お父様と以前心を隠して話していた時と一緒。
私が思わず後ずさると、ロイは私の前に立ち、カイトを睨みつける。久しぶりに見る表に出す強い怒りと殺気。ここ最近はウチに秘めるような、そんな、威嚇が多かったのに。
「ワンちゃんがワンワン怖いなぁ。そんな威嚇するなよ。俺はお前の代わりになるんだから。」
カイトはにっこり笑いお父様の方へ振り返って「そう言うコトだよね?」と聞き返す。代わり?代わりってまさか。
「こいつをお前の護衛にする。」
「はぁぁぁ????」
お父様の言葉に思わず声が出る。この男が護衛?私が目をひん剥くと、カイトは私に駆け寄り、可愛く、「姫さん!よろしくね!」と手を取ろうとする。
しかし、ロイがその手をバシンっと振り払った。
「いってぇ。ナニナニ?怒ってんの?」
「お前のような軽薄な男が護衛など務まるはずがない。」
ピリピリと伝わる二人の殺気。え。なにこれ。不味くない?
私に伝わるロイの殺気。でも、それを上回る様なカイトの冷たい空気に私はドクンと、記憶の蓋が開く。
そうだ、そうだった。今までなぜ忘れていたのか。この男はこの国の諜報組織である暗殺部と言うところに所属する所謂暗殺者。乙女ゲーム中での彼の説明には、わずか、10歳の時、この国に麻薬を密売する組織をたった一人で壊滅させた、この国イチの武の達人。黒衣の鳥とは、その時につけられた裏の通り名で、黒衣とは、単に黒い服を着て黒い髪だからではない。返り血でべっとりと濡れた体が乾きドス黒く見えるから。そしてその姿で夜の闇を飛び回る姿が鳥のようだから。やば。私、裏の通り名を口に出しちゃってた。
ロイは強い。この国で最年少で護衛騎士となり、今では団長に匹敵するのでは?と囁かれるほどだ。しかし、この男は、幼少の時から殺しを学び殺しに生きてきた所謂プロ。守る剣と、人を殺す事に特化する技、では全く種類が違う。この人に卑怯という言葉は無い。剣のみであれば百歩譲り互角であったとしても、勝ち負けが全ての何でもありの戦闘となれば正直、ロイに勝てる相手ではない。
私が悶々と考えている間にロイは既に剣を抜いていた。カイトは胸元にある何かに手を入れている。強い殺気がビシビシと伝わってくる。
「ロイ。辞めて。抑えて。」
「しかしっ。」
ロイは明らかにいつものロイではなかった。いつものロイなら、無闇に剣を抜いたりなんかしない。きっとさっきの事で気が動転しているのだ。
「なーんだ。なんか、もっと優秀なのかと思ってのに、期待外れだなぁ。」
ロイは剣を強く握りすぎて、ワナワナと震えている。そして、私は、とてもとても、彼にムカついていた。
そっと、ロイに手を重ねる。
「なっ!!!!セレナ様!?!?」
「ロイ。貴方の代わりなんて居ません。」
私がそう言うと、カイトはヒューッと口笛を吹く。
「おお。お熱いね!もしやそのふたり??」
私はテーブルに置いてある万年筆をカイトに向かって投げた。
「おお?!」
シュッと音を立てて、顔目掛けて飛んだ万年筆をカイトは、ピタリと止めた。
「ロイへの無礼は許しません。」
カイトは眉を片方だけ吊り上げて珍しいものを見た子供のようにワクワクした顔になった。なんか、お父様を真似したようになってしまった。血は争えないのね。
「貴方は、自分をロイの代わりだと言いましたが、違います。ロイは私の唯一無二の剣です。貴方とは全く違う。代わりになんてならない。」
「ただ、私は目的の為に貴方と共に行く運命は避けられない。」
私はその様子を達観していたお父様へ向かう。
「お父様。一つおねだりをしても?」
お父様は私を見つめる。
「内容次第だな。」
「カイトを私に下さい。」
私がそう言うと、お父様はニヤリと笑い、一言。
「良いだろう。」
そう言った。
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