我慢の限界
「はい?」
私は思わずそう聞き返した。
「カルミア様、何をおっしゃってるんですか?」
実は私はかなり頭に来ていた。だってなぜなら引っ張られた手が痛い。足を捻って足も痛い。それに、何より、とても周りくどい。私を振るのは国の為しょうがないとしても、カッコ良過ぎて今日の1日でさらに好きになってしまった。振るならパシッと振ってくれ。優しさなのだろうけども、今日で何回惚れ直したと思っているのか。なんなんだこの人はかっこすぎるでしょう!?
カルミア様は私を受け止めた体勢のまま、床に二人座りながら、私の赤くなった手首を謝るかの様にそっとさする。泣きそうな、辛そうな、そんな目でもう一度私に聞いた。
「君は……キングサリが…好きなのか?」
かすれる様なそんな切ない声。カルミア様の大きな瞳がグラリと大きく揺らぐ。くっ。なんなの!?拷問なの!?こんな近距離で囁くなんて!
「どうしてそう思われたのか説明をお願いしても?」
カルミア様は、私の赤くなった手首から自らの手をスルスルと移動させ、私の手に自分の手を重ねてくる。指が重なり、その指つきにドキリと心臓が跳ねる。
「よく、君の家にはキングサリが訪ねているし、それに今、とても楽しげに話していた。」
罰が悪そうに顔を逸らす。顔は歪み、見たこともない表情をしていた。だけど、私の手はギュッと握って離さない。私の心臓の音がやけに大きく聞こえる。あーもー、カッコイイ。カッコイイ。
カッコイイよ。でも、でもね…心外だ。
「私、ずっと、ずっと、ずぅーっと最初から、カルミア様だけが好きだと、言ってますよね?」
もう、私の怒りは我慢の限界だった。止まらない。ポロポロと涙が溢れる。
「はじめて会った時から、というか、その前からずっとずっと私はカルミア様が好きなんですっ。気持ち悪いと思うかもしれませんが、私はカルミア様の隣に居て恥ずかしくない様に、いろんな勉強も全て貴方の為に頑張ってきたんです。」
言葉も溢れるが、涙も止まらない。アイリーンごめん。せっかく綺麗にお化粧してくれたのに。
「それなのにっ。急にお手紙やめるし、舞踏会に呼び出したと思ったらカッコよくなってて、優しくて、そしたらなんか、誤解してるしっっ。」
私をカルミア様はびっくりした顔で見つめる。見たことないほど目を見開いている。
でも、私は止まらなかった。
「私だけがずっと貴方のことが好きで、好きで、好きで苦しいですっ。カルミア様は私に気を遣ってファーストダンスに選んでくれたんでしょうけど、それもこれも、私だけがずっと嬉しくてっ。」
私はカルミア様の手を握り返す。
「私っ。知ってます。これで最後なんでしょう?貴方と、一緒に、居られるの…最後なんでしょう?」
子供みたいにしゃくり上げる泣き方で、恥ずかしいのに、なによりも別れが辛くて止まらない。
「国のためですっ。仕方ないですっ。でも!それでも、貴方のとなりに居たいって努力してきた私の気持ちを、最後に、誤解なんて、しないでっ。私がカルミア様を好きだって気持ちを誤解しないで。」
子供みたいに泣く私は、本当に、人生で、一番、最悪だった。いつもは年齢の割に大人だと言われるのに、カルミア様の前だとどうしても繕えない。隠せない。本当の私をさらけ出してしまう。私の心をいとも容易く暴いてしまう。
でも、私はここまでカルミア様と一緒にいたくて頑張ってきたのに、気持ちを誤解されたことがなによりも苦しくて苦しくて、止まらなかった。わかっている。どうにもならないことがある事を。人生とはそう言うものだ。わかってる。わかってるけど!ここまで頑張ってきた私の努力や、気持ちまで、否定しないで…
止めどなく溢れてくる涙を拭おうとする。しかし、カルミア様は手を離してくれない。
「か…カルミア様。手をっ。」
私が言葉を発した瞬間、カルミア様の顔がゆっくり近づく。私の手を握る反対の手が私の頬をスルリと撫で、鋭い目が、強く光る。
「えっ。」
カルミア様は、あろうことか私の涙に口付けをした。
ひゃっと声を上げて逃げようとするのにカルミア様の瞳に捕まって逃げれない。
「もう、無理だ。」
私の耳元でボソリと呟く。ぶあっと顔に熱が集まる。
なに!?なんなの!?ほんとに、わざとやってんのか!?
「あっ。わっ、わ、私の話、聞いてました!?」
更に熱が顔に集まるのがわかる。涙が止まらず、グニュッと真っ赤な泣き顔でワナワナと睨む。
「そう言うことするから好きになってしまうんですっ!!!!」
今もてる力を振り絞って思いっきり言うと、カルミア様は私の言葉で吹き出した。
「ック。ははははは!もー本当に、君は。」
あ、本当の笑顔だ。
初めて見る心の底からの笑顔。
カルミア様は私の顔を両手で挟み、ブミュっと頬を潰した。
「俺がぐちぐち考えていたことを君は全て吹っ飛ばすな。」
ニヤッと笑みを浮かべる。そんな顔が素敵過ぎて言葉が出ない。私は頬を手で潰され情けない顔だと言うのに。
「セレナ。今までの非礼を詫びよう。本当に申し訳なかった。」
「俺は色々考え過ぎていたんだ。だから、色々整理して、為すべきことを成し遂げたらもう一度君に会いに来る。それで許してもらえないだろうか?」
為すべきこと?なに?なんのこと?
でも、カッコ良いからなんでもいい。もう一度会えるなら、なんでもいいよ……。
「ゆ、許すにきまってるじゃないですか〜。」
カルミア様は「ありがとう」と囁いて私を抱きしめた。カルミア様の心臓の音まで聞こえるほど、近い距離。ダメダメ鼻血出ちゃう。無理好き!
すると、抱きしめたまま、不意に顔をクイッと上に向けられる。えっ。何。顔が近い。よくわからないけど、綺麗な顔……。
私がポーッとしていると、カルミア様はなんか急にグッと険しい顔をする。そのままパッタリと動かない。
「あ…あの?」
声はかけると、カルミア様は、バッと密着していた身体を離して、大きく息を吐いた。そして、そっと私を立てる様に支えてくれる。
「足大丈夫か?」
「え…えと、ダメです……」
ふと、足を見ると真っ赤に腫れている。さっき転んだ時挫いたな。もー、貴方が無理やり連れ出すからこんなことに、って思った瞬間急に私の体は宙に浮く。
「え!うそ!待って!」
「待たない。もう君は帰宅だ。他の男に手をつけられたら意味がない。」
な!なんか、すごいことを言われた気がする。私を抱き抱えながら、優しく私の足に触れた。
「本当にすまない。優秀な医者を送る。」
そんなことどうでもいい。色々起きすぎている。頭の混乱が止まらない。
私はそのまま下まで連れられ、馬車に連れられる。そこで、顎が外れそうなほど驚くロイに引き渡される。わかるよ。ロイ。私と同じ気持ち。なに!?なんなの!?この状況!
「今日はありがとう。楽しい夜だった。」
カルミア様が爽やかな笑顔でそう言うと、すぐに馬車が動き出す。私は馬車の小窓から、ジンジン痛む足と共に、遠くなるカルミア様のお姿を呆然と見送るのであった。
寄り道終わります!寄り道の方が出番があるカルミアさん…
次回あたりから新章に入ります。
新章は長くかかりそうですが気長に付き合って頂けると嬉しいです!
ブックマーク評価感想いつもありがとうございます!
すごくすごく嬉しいです!!!!




