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突然のフラグ

「もう、すっかり夜ですね。怒られませんか?」


自分が連れ回したというのを棚に上げて尋ねる。実は、キングサリは護衛も連れてこないで屋敷に来た。おそらくあの茶会の一件で、私が公にはしないものの、一応王宮で行動を制限されていたのだと考えられる。抜けてきたんだろうな。きっと、王宮で大騒ぎになってる。


や、やばいな。もう少し早く返せばよかったかもしれない。


「いや。大丈夫だ。」


大丈夫では無いと思う。早く返した方がいいと思うのだが、朝のキングサリとは違い、夜空を眺める姿が妙に王子らしくて、なんだか、帰ろうと声をかけるにかけられなかった。


「あの、あの女の旦那は何をしているのだ。こんな、一大事にいないなど。」


突然、私を見つめ真面目な顔で問いかける。


「アイシュさんですね。旦那さんは他界されてるんです。この国の騎士であった彼は隣国の国境警備にあたってる際に病で。」


彼の任務は隣国ラグーン国との国境警備であった。大切な任務だ。アイシュもそれは理解していたし、なかなか帰れない事も受け入れていた。しかし、あまりにも突然だった。依然からよくしてくれた彼女が大きなお腹を抱え憔悴して行く姿は今でも覚えている。


キングサリは旦那が亡くなっているという事実を知り、アイシュのいる家の方を強く見つめる。その瞳は、決してバカ王子と呼べるようなそんな軽い物では無い、強い光を宿す物だった。


「あの女……アイシュ、は、強い人なのだな。」


噛み締めるように、名前を口に出す。


「そうですね。これからは、大変な子育てを一人でやって行かなくてはなりません。」


私は、もう少し踏み出してみようと思った。


「でも、彼女だけではありません。」


キングサリはゆっくりと私の顔を見つめる。


「アイシュさんの様な悲劇は決して珍しいことではありません。この国には、困難や絶望を前にして、それでも進もうと前を見てる国民が沢山います。」


「私はアイシュさんなど、私が管理する商店街の皆くらいしかまだ、手を差し伸べられません。……いや、手を差し伸べたなんて、おこがましいですね。私は無力です。何もできていない。」


私はキングサリを見つめ返す。


「でも、貴方は?貴方のそのお立場ならいくらでも変えられるのでは?」


そう、貴方にはそれができる。


「今一度自分のお立場と力の大きさ、そしてやるべきことを見つめなおしてください。」


キングサリはグッと眉間に力を込めて、顔を逸らして夜空を見上げた。そして少し笑った。


「お前は、俺が嫌いなのではなかったのか?なぜそこまで俺に必死になるのだ。」


うっ。痛いところを突かれる。これは、本当の理由を言うべきだろうか。言ったら、今までの苦労が水の泡に消えそうな気もする。けれど、でも、今の彼に、沢山考え始めた彼に嘘をつきたく無いと思った。


「貴方のことは変わらずとっても嫌いです。」


私がそう告げるとおかしそうに笑い、「だろうな。」と言った。やはりもう今までの王子とは違う。


「私が好きなのはカルミア様です。でも貴方は嫌いだと、そういうので、まともな目でカルミア様を見て欲しかっただけです。」


私が本音を言うと、やはり、キングサリは不快!という顔をする。ここの仲を取り持つことは不可能なのだろうか。乙女ゲームの世界でも仲が悪かった二人。でも、くだらない啀み合いなど悲しいでは無いか。キングサリとカルミア様、二人ともこの国の王子なのだから。二人が同じ方向を向けばきっとこの国も良い方へ動くはず。


「やはり、カルミアの為か……」


私は慌てて、もう一つの理由もつける。


「でも!それだけではありません!」


「私は、この国が好きなんです。とても、とても。だから、この国の王族が国民を見下しているようなそんな事はすごく嫌だった。この方はこの国の誇れる王子です!って、そう自慢できるような、そんな王子であって欲しかった。」


私が、だから!と言葉を紡ごうとすると、キングサリに遮られる。


「ははっ。なるほどな。なるほど…。」


なぜかキングサリはおかしそうに笑い私にカツカツとブーツを鳴らし近づく。


ん!?えっ!近くないか!?


思わず後退りすると、彼は、私の手を取った。


「カルミアとは、深い仲なのか?」


急に意図のわからない質問をされ、声が上擦る。


「いえ………まだ、数回しかお会いした事がなくて……」


キングサリはいじわるそうな笑みを浮かべた。


「ではまだ、俺にも入り込む隙はあるな。」


は!?と、声を上げた瞬間にキングサリは私の手背に、キスをした。反射的に顔に熱が集まる。


まるで高価な宝石を触るかのように、丁寧で優しいそんな触れ方で。


「セレナ。君に誇れる王子だと言ってもらえるよう善処しよう。カルミアと俺は、ムカつく事に兄弟でそんなに顔だって変わらないんだ。俺が君の言う良き王子になれば、君の心も奪えるかもしれない。」


「んな!?!?」


似てないし!奪えないし!全然カルミア様の方がカッコいいし!そう心の中では反論できるのに、なぜが言葉が口から出てくれない。少し前までは馬鹿な王子としか思ってなかったのに、急に、急に、なんなんだ。


私が急に見せるキングサリの裏の顔にアワアワしていると馬車の来る音がする。もうやだ!帰る!帰るー!


私はすぐに顔を背け、馬車の方へ促した。その後、キングサリは馬車の中で一言も話さなくて、私も、何も話せなかった。


王宮の前に着いた時、「今日はありがとう。」と、朝では考えられなかった言葉を最後に、本当の王子みたいに外套をバサッと翻して王宮に消えていった。


私はそれを見送りながら、心は騒がしく、不吉なことが頭によぎる。


これ、もしかして、もしかしてしまうのでは?カルミア様のお力になりたいと、仲良くなってほしいと、キングサリを色々連れ回したけれど、結果的にこれは、ビックなフラグを建てたのでは!?


「もーーーー!!なんでなのよぉーーーー!!」


馬車にガタガタ揺られながら、私は頭を抱えて叫ぶしかなかった。


いつも隙間時間に書いているのですが、なかなか毎日2本は厳しく、今日は一本です。出せるときは二本出しますが、一本の日も多くなると思います。


申し訳ありませんがどうぞよろしくお願いします。


ブックマークと評価とても嬉しいです!いつも、ありがとうございます!

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