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生まれる命。

「ここは?」


キングサリ様は、商店街を少し歩くだけで、幾分か柔らかくなられた様に思う。私の考察だが、本当に彼は、なにも知らなかっただけでは無いのだろうか。空っぽの王子は、なにも知らず、不安で不安でその不安を他人に横柄な態度という形で表すしか方法がなく、空っぽの中身を必死に必死に守っていたのでは無いだろうか。


国民の手を握り、少し人を知るだけで、こんなにも人は変われる。中を埋めれば自然と優しさも生まれる。素直な人なのだ。きっと今まで誰も気づかなかったが、この人はこの人でずっと悩まれてきたのでは無いだろうか。


「ここは、ある方の家ですね。」


キングサリ様の頭に目に見えてハテナが浮かぶのがわかる。本当に考えている事がすぐ顔にでる。


「さぁ、中に入りましょう。」


私は家の主人に声をかけてキングサリ様を中に案内した。家の中はバタバタと騒がしく、今日というこの日が非常事態の様な状態でいることはすぐに分かった。


「ゔゔうぅぅぅゔゔーーーー!!!」


獣の様な声が、ある部屋の中から響く。よかった、間に合った。


「さっ。キングサリ様。」


私が手を引くと、明らかに怯え、廊下の角に立ち首をブンブン振るお姿があった。


わたしは無理やり手を引き、ノックして中に入った。キングサリはわたしの背中に隠れてなにが起きているのか見ていない。すぐに苦しむ女性の顔側に連れて行き、男からは見えないよう、しっかり配慮する。


「なんだ!なんなのだ!」


「今日は無理を言ってすみません。受け入れてくださった事、心から感謝申し上げます。」


私は苦しむ中、大変邪魔になってしまうとは思ったが、女性の横で礼を言った。


「全……全然、構わないよ。私なんかで……貴方の…お役に立てるなら……ね!」


わたしは女性のご厚意に心の底から感謝し、キングサリの横についた。


「キングサリ様。これはお産です。今新しい命が産まれようとしているんですよ。」


キングサリにそういうと、わたしの顔をまじまじと見つめて、そして女性の顔を見た。


この女性は、アイシュと言う。私が事業をお父様から引き継ぎ、この商店街の管理を任された時から、ずっと良くしてもらっている。実はあの準備でだらだらしていた1時間で、生まれそうだと、連絡があり、一人でお産に出向くつもりであった。しかし、今日のキングサリの変化を感じ彼にも見て欲しいと思ってアイシュにお願いしたのだ。


「うぅあぁぁぁぁぁーー!!!!」


アイシュは大声で叫ぶ。痛みで、息が乱れる。産婆が一緒に息をしようとするがうまくできない。


「なぜ、こんなにも叫ぶのだ。痛いのか?!」


馬鹿らしい質問にわたしは目眩がした。やはり連れてくるべきではなかったか。もともとバカ王子が来ると説明はしていたが、この痛みの中、酷すぎる。すぐさまぶん殴って連れ帰ろうとしたところ、アイシュは、私の手を止めた。


「そう………ですよ…殿下。赤ん坊を…生むという……事は…死にそうなほど……痛みを、うゔ、伴います……。」


息も絶え絶えの中、殿下の質問に答えるアイシュは、たくましく、強い。そんな姿は、とても美しく見えた。


「鼻からスイカを出す様なものです。痛いに決まっているでしょう。でも、貴方も私もこうして生まれてきたのです。」


私がそういうと、鼻から!と、怯えた後、何かを考えている様だった。


「ああああぁぁあーー!!」


アイシュが大声で叫ぶ。産婆がもう少しですよ!と声をかけるが目も手も強く閉じてガクガクと震えている。


私も、手伝えることはないかと席を立とうとすると、誰かが私の手を強く握った。


「お、俺にも何か、できることはないだろうか……」


キングサリは、震える手で私の手を握り、そう言った。


私は正直彼にできることは何一つないと、そう思った。無力であると私はすでに知っている。でも、それでも、無力なりに出来ることも私は知っている。


「手を…手を握って、汗を拭いてあげて。」


私が清潔なタオルを渡すと、わかった。と一言、言って、すぐにアイシュの握りしめた拳を両手で包んだ。


「大丈夫だ!!!きっと元気な子が生まれる!こんなにもお前が頑張っているのだから!きっと大丈夫だ!!」


キングサリは横でアイシュに声をかけ、汗を拭き手を握り励まし続けた。


歩くのも嫌がっていたのに、今では自らが汚れることも気にせず、1人の国民の手を必死に掴み、叫んでいる。いかにも王族らしい独特な鼓舞だったが、不思議と私はその言葉が心に染みた。


きっとアイシュもそうだと思う。だって、痛みの中、キングサリの言葉に強く、強く頷いていたのだから。



子は女の子だった。取り上げた瞬間皆大きな声を上げて喜び、キングサリはあろうことか、ドサリと床に腰をおろし、その赤ん坊を眩しそうに見つめていた。アイシュが子を抱き涙を流す様をキングサリは真っ直ぐな目で見つめていた。


「王子様、よろしければ抱いておくれ。」


アイシュは王子に子を差し出す。キングサリはどうしていいか分からずおろおろしていた。


「まだ首が座っていないので、腕で、支えて、そうそう。そうです。」


私が教えながら、子を抱かせるとキングサリは本当に幸せそうに笑顔を見せた。


「人はこうして生まれるのだな。」


まじまじというキングサリをアイシュは豪快に笑った。


「ははは!!そうですよ!殿下!私は早い方だったけれど、これを20時間とかかけて産む人もいるんだ!女を尊敬しました?」


少々、雑な敬語、以前のキングサリなら咎めて、無礼者!と罵っていただろう。しかし、もう、以前の空っぽな王子はもういない。


「ああ。本当に素晴らしい。」


キングサリの瞳には強い意志の様なものが見えた。もう、きっとこの人は大丈夫。何があっても大丈夫。そう、感じた。

賛否ありそうですが、ずっと書きたかったお話。


人の生まれる瞬間というのはとても心が震える物だなと思います。キングサリの心にも届いてるといいなと思います。


変動はあると思いますが、100ブクマありがとうございます!!

一つの目標にしてたのでとっても嬉しいです。

これからもどうぞよろしくお願いします!

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