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空っぽな王子【キングサリside】

第二王子キングサリ視点です。

俺はこの国を知らない。

俺の世界は王宮の出入りできる一部の部屋の中のみで、一緒に過ごす母上だけが俺に知識を与えてくれる唯一の人だった。


母上は側室ではあるが、今現在1人しか王の隣に居ないため、王妃という立場でも不思議ではない。しかし、王がわざわざ側室という名前にこだわるのは母上を愛さないと誓った証拠であり、それは母上を深く深く傷つけるものであった。


毎日母上は泣き叫び、俺をドロドロに甘やかす。家庭教師や、武術など全ての物を俺から遠ざけ、俺のすべき事は兄であるカルミアを打ち、この国の王となる事だと俺に囁き続けた。


俺の世界は母上とこの王宮の中だけで、他にどんな世界があるかなんて知らなかった。実際暮らしには不自由はなかったし、今、この時まで、俺は自由であると、誰よりも自由であると思い込んでいたのだ。




「はい。美味しいですよ?キングサリ様もどうぞ。」


彼女はセレナという。俺は美しく優秀だと有名なこのセレナという女が、カルミアを慕っていると宣言し、更に婚約者であることがなにより気に入らなかった。


カルミアが幸せになっていいはずなどないのだ。奴は、悪魔の様な心をもち、俺のことを蔑んでいるのだから。そんな男になぜ皆は従う。


なぜ、俺の周りには誰もいないのだ。


「こんなもの食べぬ。串に肉を刺している様なそんな下品なもの。そもそもどうやって食べるのだ。」


ギュッと俺の足をハイヒールで踏む。此奴!おれが王族だと分かっているのか!!??


ギリッと睨むと、さも、なにもしていないかの様に笑い、見本の様に食べ方を見せてくれた。


「こうやってかぶりつくんです。美味しいですよ?」


「お前、そんな下品な食べ方を俺の前でよくできるな。恥ずかしいとは思わないのか?」


「私は貴方と隣にいること自体恥ずかしいです。それに、これはここのテーブルマナーですよ。かぶりつくことがマナーなんです。そんなことも知らないんですか?」


くっ。こいつは俺を馬鹿にする!そもそも、今日ここに来たのは、何故か俺へ罰が下されるやも、という通達を受け、その原因がこの女だと知って懲らしめに来たのだ。それなのに、なぜこんなことになっているのだ。


「毒殺のこと言いますよ?」


クソ!マクーガルの奴。そんなことに使うのならば手を貸してなどいなかった。


俺は渋々その肉の串とやらにかぶりつく。


「……うまい。」


おれがそう呟くと、女はとても嬉しそうに笑った。そして、店の店主が、俺の手を取った。振り払おうとする。しかし、


「まさか、王族の方に食べていただけるなんて!私、一生忘れません!!」


手を取り、今にも泣きそうな、その主人を見て、いつもなら振り払えたはずの手を、なぜか俺は振り払えなかった。




「手がどうされました?」


俺は歩きながら手を眺めていた様だ。気づかなかった。


「いや………なぜあの男は俺の手を握って、あんなにも嬉しそうだったのかと、思ってな。」


「へぇ。もっと傲慢かと思ったけど意外とそうでもないんだ。」


「は?」


「そんなの単純ですよ。嬉しかったからです。」


俺は、その女の顔を見た。淡いブロンドの髪が風にたなびき、夕日に照らされ、先ほどよりもその女は綺麗に見えた。


「この国にとって王族とは神に等しい。王族の人に会えて、更に自分の店のものを食べてもらい、そして美味しいと言ってもらえた。そんな幸せなことは彼らにとって無いのです。」


俺はもう一度自分の手を見た。傷のない、いつも通りの綺麗な手。あの店主と手を合わせた時、アイツの手は分厚くボコボコで綺麗とは言い難いものだった。


「キングサリ様。あの主人は長年あそこであの店を切り盛りし、子供を育てて毎日を過ごしてきました。そんな……そんな彼に、貴方は死刑を言い渡せますか?」


「は!?なぜだ!?罪を犯してなどいないであろう?」


女の目が鋭く私を射抜く。


「そうですか?彼は勝手に貴方に触れましたよ?貴方は先程、勝手に触れたロイに死刑とそう言ったではありませんか?」


「それは……。」


女の護衛を見る。その護衛は女をびっくりした様子で見ていた。


「ロイも母がいて父がいます。ここにいるのはただの人間でも、日々を必死で生きてきてやっとここに立てている、奇跡を積み重ねてここに立っているんです。」


「王子というお立場では、貴方の一言で多くの事が簡単に行えます。あの場で、あの状況だったからロイは今生きていますが、場合によってはその一言で、彼の人生は幕を閉じていたのです。」


「どうか、今一度ご自身を見つめ直してください。」


俺は、女から目が離せなかった。なぜか体が無性に熱く、燃えている様で、自分の中から何かが生まれている様に感じた。


「さっ。太陽が落ちる前に、もう少し周りましょう。」


女が俺の手を引く。しかし、振り払おうとは全く思わなかった。




「これは……賭け矢ですね。」


女は商店街を抜け、むさ苦しい男の集まりをさも当然の様に歩いていく。令嬢は、普通こんな所を歩くものなのか?


「真ん中に、一万ブール。」


全く一言も話さなかった護衛の男がいきなり店の店主に声をかけ、懐から金貨をゴソゴソ取り出した。


「ええ!?ロイ!やるのですか?!」


「私はやりません。やるのはセレナ様です。」


うおーーーーー!!!と、むさ苦しい男どもが騒ぎ立てる。うるさい。おれはあからさまに耳を塞いだ。


女は一度ため息をつき、店主から矢を受け取る。なっ。こいつ!弓をやるのか!?


俺はポカンとしていると、なれた様に弓を構え、キリッと打つ準備を始めていた。そんな、俺に突然ロイが話し出す。


「セレナ様は、弓を稽古されて約四年になります。私もここまで腕を上げるとは正直思っておりませんでした。」


四年?!俺がロイに気を取られているとスパン!と大きな音がして、女の方を見る。


真ん中だ………。


うおーーー!!!!と、また男どもが騒ぎ立てる。その中をスルリと抜けて、当たり前と言わんばかりに、店主に弓を返す。


「ロイのなけなしのへそくりを減らすことにならずよかったですわ。」


ふふっと護衛に笑いかけ、その護衛はいじわるそうな顔をしてたんまり増えた金を受け取る。


「セレナ様がこの程度の距離なら外すことはありませんから。」


2人を見て、鮮烈に、こみ上げてくるものがあった。信頼しあえる仲間。冗談を言い合い笑い合える仲間。そんなものが俺にいるのだろうか。俺は思考を巡らせても護衛の顔1人すら思い出せなかった。


「むさ苦しい所をお見せしましたね。」


「もう、帰る。日も落ちる。」


俺は、逃げる様に出口へ向かう。こいつらを見ていると、自分の不自由さを見せつけられている様で、体が裂けそうになる。


「あっ。待ってください。最後に一箇所だけ行きたいところがあります。」


帰る手段をこいつしか持っていない。そんなの従う以外になく、今日初めてこんなにも歩いたヨボヨボの足を、また前に出し、トロトロ2人の後ろへついて行った。

この国では、賭け矢は全然合法で、よくお祭りにあるくじや、射的のようなそのくらいの軽いイメージです。セレナは初め、賭け矢の店主に舐められて居ましたが、どんどん上手くなる腕を見て、今ではとっても気に入られています。最近ではセレナが来ると赤字だと言うのに、可愛くてしょうがないみいみたいで可愛がっています。

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