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国を思う

私は今、キングサリ、ロイという謎のメンツを引き連れて馬車に揺られている。キングサリは終始不機嫌面で、しかし、私を怖がっており、小刻みに震えていた。


「キングサリ様。」


私が声をかけるとヒィッ!と声を上げてから、なんだ。と素直に、ただ不快そうに顔を向けた。


「キングサリ様はこの国の人口をご存知ですか?」


私が尋ねると、ウゲッと心底嫌そうな顔をして言い捨てた。


「知るか。そんなもの。興味ない。」


「なるほど。キングサリ殿()()はこの国に興味がないと……そういう事でよろしいですか?」


私が嫌味を言うと、キングサリは更に不快そうに顔を歪めた。


「その様な知識は私の部下がわかっていれば良いのだ。」


そういうキングサリを私は鋭く見つめる。キングサリは目を合わそうとはしない。


一度フーッと息をついて。私は国の事を思った。


「私はこの国がとても、とても好きです。」


急に話を変えた私をキングサリはチラリと見る。


「海辺に沈む夕日も、美味しいセザール特産の魚介も、創造豊かな文化も、私はとても好きです。」


「そして何より、セザール国の国民は辛抱強く、何事にも真面目にコツコツ取り組む、そんな力を秘めています。」


先ほどまで大層不快な表情で目を逸らしていたキングサリが私の顔を見つめる。


この人は、きっと何も知らない。王宮という箱に囚われてこの国をこの街を何も知らない。


それは、とても悲しい事だと思った。


「キングサリ様は、カルミア様がお嫌いですか?」


カルミア様の名前を出すとすぐに憎しみをあらわにし、吐き捨てる様に、「そうだ。」と肯定した。


「なぜですか?」


わたしはすぐに質問する。


「あいつは俺のことを見下しているからだ!」


「どうしてそう思われたのですか?」


「どうって、それは、」


キングサリ様は少し考えた後、思い出した様に叫ぶ。


「母上もそう言っていた!カルミアは俺を見下していて、腹違いの俺を憎んでいる、そう言っていた!」


「キングサリ様。私は貴方の考えをお聞きしたいのです。貴方はなぜ、カルミア様を憎まれるのですか?」


私がそう、もう一度問いかけると、キングサリ様は何か言おうと一度口を開いたが、すぐに閉ざされ、その答えが返ってくることは永遠になかった。




舗装された道から次第に砂利道となり、ガタガタと馬車が揺れ始める。


そろそろかな。


「キングサリ様、つきました。おりましょう。」


私はロイに手を借り、キングサリと共に馬車から降りた。そしてキングサリは降りた場所に対して大声で文句を言った。


「なんだここは!!!どこかの屋敷に向かったわけではないのか!?」


ここはいわゆる商店街。時は、おやつの時間を過ぎて賑わいが増していた。商品を売る威勢の良い声が商店街の外まで響いてくる。とても心地よい。気持ちが良い音。


「ここからは歩きます。王宮の様に舗装されていないのでどうか足元にお気をつけ下さい。」


私がそういうと、キングサリは真っ青な顔をして馬車に戻ろうと引き返した。


おおっといけないいけない。


「ここまでありがとうございます。3時間後に戻りますのでそれまでどこかで休んでいてください。」


私は馬車を移動させた。キングサリは呆然と小さくなっていく馬車のお尻を眺めている。


「キングサリ様、ここで私と別れ、お一人で王宮に戻られるか、私と来るか今決めてください。」


そう告げるとキングサリは私をキッと睨んだ。


「心底お前が嫌いになった。」


「あら、それは奇遇ですね。私も同じ気持ちですよ?」


私は、間抜けな王子を連れて賑やかな商店街へ向かった。

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