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裸の王様

「セレナ様………よろしいのですか?」


心配そうな表情でロイが私を見つめている。


「何がですか?」


私はクローゼットのドレスと睨み合いをしながらどのドレスを着ようか、どのアクセサリーにしようか、普段悩まない問いに悩まされていた。やっぱり今日は黄色にしようかな。春の季節だし、パステルがいいかも!


「もうかれこれキングサリ様をお待たせして1時間が経ちます。ここまで怒鳴り声が聞こえるほど彼も大層お怒りです。」


そう。私は約1時間前、この屋敷に突然現れたキングサリと窓越しの再会を果たした。私から出向こうと思っていたのに出鼻を挫かれ私は若干腹を立てていた。


「大丈夫。わざとですので。そろそろ行きます。屋敷を壊されたら嫌ですしね。」


「わざと?」


ロイは私の意図をわかりかねている様子であった。




「キングサリ様、お元気そうで何よりですわ。」


私はキングサリの待つ部屋に入るなり丁寧に挨拶をした。キングサリは大きなソファに深く腰をかけ、私を強く睨んでいた。


「これが元気に見えるか?よくもここまでこの俺を待たせたな。王子である俺を、なんだと思っている!!!」


キングサリは私のところまでツカツカと近づき、私の胸ぐらを掴んでそう怒鳴った。全く。鼓膜が破れそうだ。


私が話そうとすると、ロイがキングサリの手を掴み、私の体から物理的に離した。


「ぶ!無礼者!一介の従者が俺に無許可で触るなど!死刑だ!」


ロイはサッと私の半歩後ろまで下がったが、キングサリから全く目を逸さなかった。寧ろ威圧する様に、キングサリを見つめ、私はその静かな殺気を感じた。


「無礼者はそちらでしょう。」


私がそう告げると、キングサリは口をワナワナさせて私を睨む。


「そもそも、通達もなしに人の屋敷に勝手に来るなんて、無礼極まりありませんわ。私は貴方が勝手にきたのにも関わらず、忙しい中予定を開けて貴方と話しているのですよ?」


はっきり言って、特に急ぎの予定は無かったのだが、気持ちの良い昼下がりのランチを邪魔した罪は重い。普通王族と会う際は朝から自分の身支度でバタバタ用意してやっと失礼のない様に準備できるもの。1時間そこらで用意が終わるなんて、あまりドレスに興味のない私だからできる事なのだ。1時間で良く準備できたものだなと褒めてもらいたいくらいである。


怒りで震え上がるキングサリを椅子へ促し、わたしはニッコリ笑った。


「今日はとことん話しましょう。私達、まともに話した事も無いのですから。わたしも貴方に申し上げたいことが沢山あるんです。」


「俺は、お前を許していないからな。」


「奇遇ですね!私も貴方を許していませんよ?」


最近こんなのばっかだな。口ばっかり可愛く無くなっていく。私は内心ため息をつきながらこの坊ちゃん王子をどうこらしめるか、思考を巡らせていた。あーもー。ギャンギャンいちいち私の発言に噛みつく。


「そもそも、私から出向いて貴方に抗議しようと思っていたのです。」


「抗議?王族に抗議など、甚だ図々しいな。」


「あー、じゃあ、キングサリ()()。なぜ私の毒殺への加担を?」


キングサリの従者は、マクーガルの屋敷に居た。それはつまり、キングサリが私の毒殺に手を貸したということになる。急に茶会で死ぬなんてことは誰かが犯人になるわけであって、真っ先に疑われるのは主催のマクーガル家だ。だが、キングサリの従者が、やっていないと証言すればもちろん不自然な点はあるにしろ、押し通すことができるかもしれない。


実は私はキングサリがなにを考えているのか全く読めなかった。普通に彼を見れば、ただの馬鹿王子だが、毒殺などそんな大きな件に首を突っ込めるほど肝っ玉は座ってない様に見える。この馬鹿な仮面が見せかけで、中に黒いものが渦巻いているのだとしたら、それは相当手強いものである。


探る様にキングサリを見つめる。キングサリは私の質問に対しての考えを熟考していた。


いや。あれ?長く無いか?


「ど、毒殺…………だと????」


大量の汗と、手の震え。え。なに、この状況。


「キングサリ様。それは、なんのご冗談でしょうか?」


「どっ!毒殺など、俺は加担していないっ!俺は、マクーガルのものがお前を懲らしめたいから従者を1人貸せと言われ貸しただけだ!!」


これは、演技なのだろうか。もし演技なのだとすれば、天晴れである。私の毒殺への加担が故意では無かったと、堂々と宣言している様なものなのだから。


「私はあえて、まだ貴方様のお名前を出しておりません。なぜなら貴方が逃げてしまわない様追い詰めるためです。」


「現在裁判により、マクーガル家は貴族ではなくなり、罰を受けました。それは、マクーガル家の行った行動は罪に問われるという証明です。」


「今、私が、マクーガル家にキングサリ様が加担していたと主張すればすでに罪であると結論付けられた物なので、王族である貴方も普通に罪に問われます。ご自身がどれだけの事をしたのか、ご理解していますか?」


キングサリは明らかに動揺していた。はぁ。このおバカ王子はまんまとマクーガル家の人間に利用され、あろう事か、自身の進退の窮地に陥っているのだ。キングサリの未来は私の手の中にある。


「お…お前。もしかして…俺を脅しているのか……?」


はぁ。下らない。こんな男の為に私は色々な策を考えていたというのに、ただの阿呆とは。ならば早く会いにいけばよかった。


私が心底キングサリに失望していると、知らぬ間にキングサリは私の目の前まで迫っていた。ロイがまた、威嚇をしている。


「俺は王族だぞ!俺に逆らうやつはみんな死刑だ!」


パァンッッッ!!!!!!


大きな音が鳴り響く。私は目の前のキングサリの顔を容赦なく引っ叩いた。


キングサリはなにが起きたのかわからない、と言った表情で床に倒れる。呆然としていた。ついでにロイも呆然としている。


「母上にも殴られた事ないのに!!!!」


絶対マザコンだ。この人。


私はスルリと胸ぐらを掴んだ。


「命の重みも知らないような坊ちゃんが、軽々しく死刑などと口にするな!!!!!」


人の生まれる奇跡を、人が歩んできた道を、人の周りでまた笑い合う人々を、コイツは何にも知らないのだ。そんな、世間知らずの阿呆が、この国の王族だという事を私は心の底から悲しいと思った。


「お、お前。王族の俺を殴って……たっただで済むと思うのか………」


ブルブル震えながら私に必死で抵抗する。


「ロイ。私は今キングサリ様を殴りましたか?」


「いえ。キングサリ様はご自身でカーペットにつまずき、転ばれ頬を打ちました。」


さっきまで私が殴り飛ばした事に目をひん剥いていたと言うのに、真顔で言いのけたロイが少しばかり面白い。そして、それを聞いて目を白黒させているキングサリも面白い。


「さぁ、立って。キングサリ様。私はこれから貴方と行かねばならないところがあります。」


キングサリを引っ張り立たせようとするが全然立とうとしない。あぁ。これ腰抜けてるな。


私はロイにお願いし、キングサリとロイそして私で、馬車の用意をした。


「お前ら!俺をどこへ連れていく気だっ!!!」


「とって食べたりしないから大丈夫ですよ。」


私は喚き散らすキングサリを横に屋敷を後にした。

キングサリ編始まります。よろしくお願いします。

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