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紛い物の家族【アイリーンside】

悪役令嬢アイリーン・マクーガル視点です。時少し遡ります。

毎日毎日幸せだった。優しいお父様に優しいお母様。美味しいご飯とポカポカなお日様。あったかい布団で毎日眠り、辛いことも悲しいことも知らなかった。


しかし、そんな作り物のお話はすぐに音をたてて壊れ落ちた。



この国の王子と婚約すること。


それは私のお父様とお母様にとって世界で一番大切な事。あのスカルスガルドの女の子と仲良くするのもその為だ。


私は道具?私はお父様とお母様の道具なの?


8歳の時、セレナの誕生日を祝った帰り、私はずっと道具だったことを知った。


それからの四年間はあまり覚えていない。毎日毎日ひたすら努力して、お稽古や、お勉強や、作法を、学んだ。でも、こんな事をしても別に王子様が迎えにきてくれるわけじゃない。


お父様とお母様は沢山喧嘩をするようになった。毎日毎日、私が居ても、私が居なくても、沢山沢山喧嘩をしていた。


『私が頑張ればお父様とお母様は喧嘩しない?私が王子様と結婚したらまたあの時のお父様とお母様に戻ってくれる?』


毎日、セレナになる夢を見た。私が本当はセレナで、私は王子様と結婚している。そんな夢。


もしセレナが私の立場だったとしてもきっと、こんなことにはなっていない。セレナは真っ直ぐで、間違っていたら違うって言えるでしょう?


お父様もお母様も救える綺麗な自分の夢を見た。

そんなこと私にできるはずもないのに。


どんなに頑張っても終わりが見えず、時だけがすぎていくだけ。終わりにしたい。こんな人生終わりにしたい。そう思っていた時、お父様が急に言い出した。


その日は久しぶりに3人揃って食事をしていて、別に何かを話すわけじゃかったけれど、黙々と食事をしていた。すると、急に、お父様は話し出した。


「セレナがいなくなればいいんじゃないか?」


四年間努力し続けて、結局たどり着いた結果がこれだった。


お父様、お母様、ごめんなさい。私何の役にも立たなかったね。




セレナに四年ぶりに会った時、セレナの真っ直ぐな瞳と綺麗な礼儀作法を見た時。セレナも沢山努力していたことがすぐに分かった。どうせなら、怠け者で、全然努力しないダメダメな人だったらよかったのに。セレナがそうであってくれたなら私はただ貴方を憎むことができたのに。


私は知っていた。あの少しの動作をするのにどのくらいの努力が必要か。どのくらいの時間が必要か。


お父様、お母様、ごめんなさい。私やっぱりそんなことできないや。


ティーカップを入れ替えたこと、実は、セレナを救おうとか、そんな綺麗な理由じゃないの。私が死ねば、もしかしたらセレナに罪がかかって、お父様とお母様が喜んでくれるかもしれないって思ったから。そして、ただ、人を殺すのが怖かったの。私のせいで人が死ぬが本当に本当に怖かったの。中途半端のどっちつかず。ほんと卑怯で最悪。


それなのに、セレナ。こんな私の涙を拭ってくれてありがとう。こんな私に笑いかけてくれてありがとう。


ほんとだね。いらないね。お父様もお母様もこんな私なんてずっといらなかったんだ。



「こんな私なんか、いらない。」



気がつくと私はセレナの隣にいた護衛の騎士様に抱えられ、馬車の中でそう呟いていた。


あれ、なんでこの人に抱えられているんだっけ。私、死んじゃったんだっけ。


でも、手は透けてない。

まだ幽霊じゃないんだなぁ。

手をぼうっと眺める。


不意に手が重ねられた。


あれ。感触がある。まだ、私、生きてる。


「アイリーン様。いらなくなんてないですよ。決していらなくなんてない。」


私の体はその騎士様に抱きしめられる。あれ?なんで?なんで、私抱きしめられているの。


その騎士様は私を力強く抱きしめた。私はなにが起きているのか分からなくて、分からなくて、呆然としていると、その騎士様の体が小さく震えていることに気づいた。


「自分で毒を飲もうだなんて絶対ダメだ。生きてて……生きててよかった。」


生きてて、よかった?


私が?


私、生きてて、いいの?


「あ……私…私は。生きてても……良いのでしょうか。」


そう、尋ねるとその騎士様は、抱きしめていた身体を離して、私の頬に手を滑らせる。そして、私の顔を真っ直ぐ見つめた。


「私は貴方が生きててくれて嬉しいですよ。」


ポロポロと勝手に涙が溢れた。


何度夢に見ただろう。ずっと言われたかったその言葉。誰も言ってくれなかったその言葉。


騎士様は私の背中に手を回し再び抱きしめてくれた。今度は優しく、でも、しっかりと。私が消えてなくならないように、体の輪郭を確かめるように、優しく優しく抱きしめてくれた。


涙は止まらなかった。でも不思議と嫌じゃなかった。優しい騎士様の腕の中で、何も知らない無垢な赤ん坊のように、その日はひたすらにひたすらに泣き尽くしたんだ。

幸せになってね。

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