マクーガルの企み
私は、おそらくだが、マクーガルが何をしてこようとしているのかわかってしまっている。それもこれも先のストーリーを知ってしまってるからであって、一生懸命考えたであろう計画を不意にしてしまって申し訳ないと思っています。ごめんね。
しかしゲームではあの出来事はオープニング以降に描かれている物であった為、起こることが確実ではないから、注意は必要である。
おそらく、パーティーで私がカルミア様を慕っていると発言したことでストーリーに変化をきたし、この茶会が早まったと考えられる。
実行犯はアイリーンで裏には両親がいる。ゲームではアイリーンは私に強い憎しみを抱いていた為、実行していたが、現在、まだ12歳の子供に本当にできるのだろうか。
マクーガル家に着くと四年前と全く変わらないとても立派で綺麗な屋敷に圧倒される。
「懐かしい……」
そう呟くと、門に赤と黒のバラのドレスを纏った12歳とは思えない大人の雰囲気を漂わせる女性を見つけた。
「お久しぶりですわ。セレナ様。」
ふわっと笑う顔には以前のような無邪気さはなく、何かを覚悟したようなそんな強さが瞳に現れていた。その姿は、乙女ゲームでのアイリーンの最後を思わせるような、そんな儚げな雰囲気を纏っていた。
私も笑顔で挨拶を返す。本当に四年ぶりで、会えて嬉しいのに、こんな再会になったことが本当に悔やまれる。
アイリーンは私を見て、少し悲しそうな、でも、何か諦めたような複雑な表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻り、私を屋敷に案内した。
屋敷に入ると、中には信じられないほどの大きな肖像画があった。
ま、まじかー。王宮にもこんな大きな肖像画なかったぞ。王族でもこんなの書かせないのに。中央の階段の真ん中に巨大なマルクス・マクーガルの肖像画が飾ってある。つまり、アイリーンの父のものだ。
本当に自分大好きなんだなぁ。あんなふざけた私のお父様に負けて悔しがるのがとてもわかる。私の父は優秀だが、あまり自己顕示欲というものがない。屋敷もさほど広くないし、使用人も少ない。やたら私にドレスやらなんやら買うようになったが、それも本当に最近の話だ。ドケチというよりは、興味がないのだと思う。優秀だから出世はするけど、それを喜ぶわけでもないし、まぁ、そりゃ昇格するよねぇそうだよねぇ、みたいな小馬鹿にした態度。マルクス様がキレるのもわかるんだよなぁ。
「あらあら!まぁ!よくきてくれたわねぇ!!セレナちゃん!お久しぶりだわぁ!」
やたら大きな声で近づいてきたのはクラメール・マクーガル。アイリーンの実母である。四年たっても変わらぬ美貌。でも、ゾッとしたのはアイリーンと全く同じ姿であること。以前から似ているとは思っていたがここまでくるとわざとである。同じ髪型に同じドレス、同じアクセサリーに同じ位置のホクロ。全てがアイリーンと同じで、アイリーンを後ろから抱きしめながら、こう言った。
「ずっと貴方に私、会いたかったのだけれど、なかなか会えなくて寂しかったわ。ねっ。アイリーン。」
「はい。お母様。」
消え入りそうな声で返事をするアイリーンがとても痛々しかった。
アイリーンは美しいが明らかにやつれている。きっとこの四年間は、膨大な稽古や勉強をこなし、私よりも良い令嬢になることを強いられた過酷なものだったのだろう。
私も、そうなるかもしれないと、そうわかっていたのに、あの時慕っていると宣言してしまった自分がいて、チリッと胸が痛む。
私の道は色んなものを踏みつけてしまう。なんとかアイリーンをここから助け出したいけれど、方法が、私の力ではその方法が見つからない。
アイリーンとクラメールに案内され、茶会の会場へたどり着くと、そこにはアイリーンの父である、マルクス・マクーガルの姿もあった。
全員勢揃いじゃねーか。心の中で突っ込んでいると、ずっと静かな殺気だけ放つ空気と化していたロイが私の耳元でささやいた。
『マルクスの隣の護衛。あれはキングサリ王子付きの物です。』
!?
私は思わずロイを見る。ロイも眉間にシワを寄せて、警戒を強める。
キングサリ?キングサリですって??
この件にあのおバカ王子が絡んでいるというの?
そういえばロイはキングサリ様に以前支えていたと言っていた。ロイが気づかなければ気付けなかった。危ない。
いえ、違うわ。その前でも気づける所はあったのに見逃していた。
そもそもカルミア様の蒼鳥キシュワールに手紙をくくりつけるなんてこと、普通の家ができるはずもないことなのに、なんで気づかなかったの!?王子の鳥に触れられるのなんて王宮のかなり上の人にきまってるじゃない!!
つまりこの件にキングサリ様は協力していて、この場で起こる何かをキングサリ様の護衛が監視している、そう言うこと。
なるほど、そう言うことね。マクーガルはキングサリ様と手を組んでいるってこと。
受けて立とうじゃない。私を敵に回したこと、後悔するといいわ。




