不穏なお誘い
すごい時が飛びます。
ここから新章になります。
時の流れは早いもので、実は『お父様突然王宮に呼び出す事件』からもう3年が経とうとしている。
私は相変わらず今まで通り勉強やマナーレッスン、弓の練習も欠かさずに!って言う感じで生活しているが変わったことがひとつだけ、それは、この三年間しっかり文通しているってことよぉ!!!!
ふつうに考えて、手紙だよ?書くのも出すのも面倒なあの手紙を、あの一件からかかさずに途切れず続けているのだ。最初は何を書いていいのか本当に分からなくてドキドキしてまともに書けなかったのだけれど、今は、リリスのおドジの話とか、ロイの剣のカッコよさとか、お父様の愚痴とか……、なんでも書けるようになっている。カルミア様もそんな感じで、毎日忙しい中でも途切れさせずに返してくださることが、どんな些細な内容であっても本当に嬉しかった。
たーだ!やっぱり会うことは簡単にはできず、この三年でどんなステキな成長を遂げたのかまだ確認すらできていない。自分に力がなさすぎることが本当に悲しいなぁと思ってしまう。つまり、進展も全くしていない。今はよくて、『話しやすい友人だなぁ。』程度で、ここから恋愛に発展なんてさせられるのだろうかと不安になる。ヒロインの場合、オープニングの16歳の時点で既にカルミア様は私にメロメロだった。つまり、今12歳だから、あともう四年しかないのだ。四年でメロメロになるのかぁ?私に?だめだ。想像できない。焦る。焦るよぉ。
そして、あとは、キングサリ王子は、実はあんまり干されて無くて、干されることを望むのも、ちょっとどうかと思うのだけれども、たまに手紙で、カルミア様も愚痴を漏らしている。なんだか、理由は側室の方、つまりキングサリ様のお母様に理由があるようだ。ここはすごくグレーな部分で王宮の闇に触れそうだから、まだ触れないように、関わらない選択を今は取っている。
あっ!そして、あのお父様と王宮でやりやって以降、お父様は何故か頻繁に家に帰ってくるようになった。本当に何故だかわからないのだけれど、でも、ニコニコと張り付いていた仮面はつける気配もなく、もう、口の悪さを前面に出して、まだ進展していないんだなとかなんとか、グチグチ文句を垂れてくるただのおせっかいおじさんと化している。
そして何よりムカつくのが、お父様の言っていた、『ブタ』なる方、つまり上に居座るムカつく奴がいると言うのは、真っ赤な嘘らしく、どんな人なのだろうと調べさせても一向にわからないから問い詰めると、
「はぁ?そんなの適当についた嘘に決まってるだろ?」
って言われて、本気で海に叩き落としてやろうかと思った。
「真実と嘘を入れ混ぜて話すと嘘も真実に聞こえんるんだよ。」
とかなんとか、謎のアドバイスを残してその日はさっさと王宮に戻ってしまった。
でも、今よくよくと考えると、この国は実力主義だから、そんなブヒブヒさん的な、そんな自分の利益のために動く人が上にいるはずなかったんだ。そんなことも気づかなかった私が馬鹿すぎて本当に嫌になる。
何故わざわざそんな嘘をついたのかと考えると、きっと何かすごい重要な理由があって、それを隠すために嘘をついたのだと私は考えている。その話を出した時すぐに王宮に帰ったのも追及を逃れるために違いない。
だが、理由は、結局一向に教えてもらえる気配がなく、もう本当に何を考えているかわからない人だと言うことしかわからなかった。
ただ一つ言えるのは、昔の関係よりは全然マシということ。お互い仮面を被りあって心を隠して話していた時よりもずっと楽になったとは思う。
そして、この三年間ラグーン国との友好関係もギリギリのところで保ってるらしく、どんな手を使ってるのか本当にわからないが、ありがたいとは思っている。
でも、どんどん借りが増えていく。絶対に勝ってやる!と意気込んでいたのにも関わらず、連戦連敗だ。
現在私は12歳、ロイは22歳。ロイは日に日にイケメンへ成長しているし、最近は以前のように、私に敵意を向けてくる相手にすぐ殺意を向けてしまうようなこともなくなった。逆に静かな殺気は放っているけども、それでもどこぞの護衛の数万倍優秀で私には本当にもったいないくらいだ。
はぁ。カルミア様は16歳か……高校一年位の歳。どんな素敵なお姿になっているのかしら。想像するだけで、鼻血がでそう。
そんな想像をしながら平和に毎日を送っていた。
「キシュワール!!」
窓から大きな青の鳥が入ってくる。この鳥はカルミア様のお手紙を運んでくれる優秀な私の大好きな鳥。キシュワール。本当に綺麗な羽ね。
いつものようにカルミア様のお手紙を背負っている革のポシェットの様なものから取り出す。しかし、今回はある部分でいつもと異なっていた。それは、カルミア様の手紙の他に、キシュワールの足に括り付けられているもの。不思議に思い、その足の紙を解くと、それは、私にとって不幸を知らせる手紙であった。
『セレナ・ディ・スカルスガルド殿』
そう宛名に書かれている封筒を裏返すと、裏に信じられない名前があった。
『アイリーン・マクーガル』
んえ!?!?ど、なに!?なんでぇ!?
急いでリリスにペーパーナイフを借り封を切る。内容は簡潔に言うとお茶会のお誘い。
実はアイリーンとはあの誕生日パーティー以降、一度もあっていなかった。以前は仲も良く、あちらからもたくさんお茶に招かれていたし、私もアイリーンが大好きだったので沢山会っていたが、あのパーティー以降一切お誘いがなくなったのだ。私は一応、お友達としてお手紙は出していたが、一度も返事は返ってこなかった。つまりアイリーンとは4年間絶縁状態にあったのだ。
理由は明らかにわかっていた。
私がカルミア様と婚約したこと。
きっと両親が私と会うことをやめさせており手紙もアイリーンにまでは届いていない。
だから今回この誘いは両親の指示のはず。
あの誕生日パーティーの冷たい目を私は忘れていない。確実に何かやってくる。
私は、急いでロイと、リリスを呼ぶ。
リリスには茶会の準備とロイには茶会での護衛指示、そして、あるものを用意してもらった。
いいわ。マクーガル家。受けて立とうじゃない。全て返り討ちよ!待ってなさい!
悪役令嬢アイリーン編です。よろしくお願いします。




