生まれて初めて泣いた日の様に【スヴェンside】
セレナの父、スヴェン視点です。
神様は僕を作る時
きっと何かを入れ忘れてしまったんだ。
子供の時から僕は周りと違っていた。周りが悲しいと思う事が全く悲しくないし、周りがおもしろいと思う事が全く面白くない。ある程度生きてみてもそれは変わらなかったし、周りと同じに感じられるようになることはなかった。
しかし、人が思う感情を持って生まれなくても、僕は全く悲しくなかった。
だから、理解したいとも思わなかった。
それが一番不幸なことだったのだとしても。
僕はきっと色んなことを気づかず生きてきた。僕の言動で傷ついたり、悲しんだりした人は沢山いるのだろうけど、指摘されても、揶揄されても、何故傷付いたのかわからない。
それに、だれがどこでどう傷ついたって僕にとっては関係ないことで本当に心底どうでもいいと思っているし、それを責められたところで僕の心も傷つかない。
この身の上だ。そこそこ名のある家だと、子供の時から色々汚い事や少しばかり悪い事は僕のすぐ隣にあったし、正義だの、大義だの本当にどうでもよかった。
だが、こんな僕にも友人がいる。名前はシャルス・デ・フォシュベリ。この国の国王で、友人になったときはまだ、王子と呼ばれる立場だった。
何故友人になったのか。それは、シャルスが僕と同類だったから。
シャルスも人の悲しみや苦しみに疎く、人が辛くなるようなそんな仕事も、平気でこなすような、そんなやつだった。
僕は普通にしていると、人とトラブルになるからいつも仮面をかぶっていた。だからそこそこ人に好かれたけど、心を許せたのはシャルスだけだった。
でも、シャルスは、ある女性に変えられた。
それは、なんでもないただの女。
ほんとうにただの女。
フリージアと彼女は言うらしい。
シャルスは、彼女はとても強く、とても弱い人だと言った。
守りたい人ができた。大切にしたい人ができた。そう話すシャルスを僕は本当に理解できなくて、理解できなくて、毎日毎日仕事に明け暮れた。
結婚は良い。お前もするといい。そう進めるから結婚もした。別に悪いとは思わなかったが良いとも思わなかった。
そしてしばらくして、フリージアはあっけなく死んだ。
シャルスはしばらくの間、何出来なくなって、僕はかわりに色んな仕事を手伝った。
その時シャルスは我が子と色々あったみたいだがその事はよく知らない。その話は関係者の中での秘密事項でも最上だったし、知ろうと思えばいくらでも知れただろうが、僕は知ろうとは思わなかった。
月日が流れ、僕にも子どもが生まれ、シャルスの子も婚約者を作る時期になるほどにまで成長していた。隣国との関係が悪かった為、僕はモクレンという姫との婚約を提案した。するとシャルスは『あの子には幸せになって欲しい』と、その提案を拒んだ。
何故だ。どうしてそう思ったんだ。理解できない。一度刃を向けた相手だろう?憎いのだろう?お前の大切な人を奪ったのだろう?
僕はもしかしたら何か重要な事をいつもいつも見落としているのではないか。
そう思った時、王宮でたまたま一度話した、真っ白の医者の言葉を思い出した。
『あなたはずっとずっと、人を理解できないことがさびしいのですねぇ。』
あの時はさっぱり理解できなかったこの言葉が、急に理解できた。
そうか、僕はずっと、ずーっと寂しかったんだ。
何故悲しいのか何故苦しいのか分からないこと。
同じだと思った友人が急に理解できなくなったこと。
あの子は幸せになって欲しいと願う気持ちをおかしいと思ってしまうこと。
僕は人を理解できなかったことが怖くて悲しくて寂しかったんだ。
そこからは毎日がどう生きていいのかわからなかった。でも、理解したいと、初めて思うようになったんだ。
娘を呼んだもの、それがきっかけで、特に用もなかったのだけれど、ようやく仕事も落ち着いて、少し時間が空いたから、顔を久しぶりに見ようと思ったから呼び出した。
正直、もはや興味がなかったもんだから顔も覚えていなくて、訪ねてきたときはこんなに大きくなっていた事にびっくりした。
そして、笑顔で『会えて嬉しい』なんて絶対思ってもないことを言うものだから、なんだか、可笑しくて、仮面を外して娘と話してみる。
そうすると、自分が思うよりもずっと娘は成長していて、考えていて、しっかり生きていることがわかった。
そう思ったらなんだか、可愛く思えてきて、そんな自分にびっくりして、でも、そんな自分が全く嫌じゃなくて。
なんで呼んだんだって、キーキー猿みたいに喚くものだから、適当な理由をつけてごまかして、少しいじめてやると、プルプル小鹿みたいに震えて騒いで。
きっと私がその場で考えた適当な話をすんごい考え込んでるんだろうなぁと思うと可笑しくて可笑しくて、だからお詫びに、少し噂になっていた恋路を応援してやった。
きっと、これも仕組んだことなんだって騒いでるんだろうなと思うとそれもまた面白い。
娘が出て行った後、僕は、生まれて初めて心の底から大笑いした。そして何故か涙が出た。
なんだこれは、まるで人間みたいじゃないか。
こんないい年したおっさんが、初めての感情に翻弄されまくりなのがなんだかおかしくて仕方ない。
「おいおい、もう、38歳なんだぞ。勘弁してくれ。」
この世界に生まれた日のように、ポロポロ涙が溢れた。
今まで流してこなかったツケのように、一生分泣いた。
「セレナには感謝しなくちゃあな。僕が親だけど、セレナから生まれたみたいじゃないか。気持ち悪い。」
資料の散らばる部屋を見渡す。
さぁ。適当についた嘘だが、ラグーン国とは仲良くしておいてあげるか。多分これは人生で1番の大仕事になるであろう。たかが娘の恋路の為に、本当、わらえるな。シャルス。
ふーっと一息ついて、娘に大きな借りを作ってしまった分を取り戻すべく、僕は机に向かった。
スヴェンは苦労した難しかったキャラクターなので、わかりにくい部分も多かったかもしれません。申し訳ないです。まさか、父親にこんなに苦労するとは思いませんでした。
この人は冷たく、怖く、冷酷で人間らしく見えないですが、この作品内で一番、怖がりで人間らしい人だと私は感じています。セレナを通して、少しずつこの人の成長も書いていけたらなぁと思います。
38歳の大きい赤ちゃん的な存在。可愛がってね。
ここで一旦王宮編は終わりになります。次から新章です。




