目覚め
セレナ・ディ・スカルスガルドは齢8歳の誕生日の朝、長い長い夢から覚めて思い出した。この記念すべき良き日に見ていたのは幸福な夢ではなく、前世の記憶。そして前世の記憶の中で今の自分を知っていることに気づく。
私は知っている!!なんで今まで忘れていたの!?
セレナ・ディ・スカルスガルドは、私は前世でプレイしていた乙女ゲームの登場人物で、さらにヒロインである。こんな重要なことをなぜ今思い出すの!?さらに、今日は私の8歳の誕生日パーティー。この日はこの国の第一王子との婚約が決まる日。
「最悪だわ……」
なぜ最悪なのか、と言うと、この乙女ゲームは私の推しキャラであるまさに今日婚約する第一王子とくっつくエンドが無く、なんなら悪役まがいな役回りで、必ず18歳の成人後の結婚式で好感度を上げていたキャラクターと駆け落ちをする、と言うストーリーであるからである。くううう。普通に考えて、国民に発表もして正式に結婚式行いますって会場で普通ドカーンって入ってきた男と逃げちゃうの、自分達のことしか考えてないって思いません?
もちろん、このゲームはこの後国がどうなったとかそんなことは言及されてるわけじゃなくて、ヒロインと幸せに暮らしましたってなるんだけど、でも、普通に考えて王妃になるはずだった女が男と駆け落ちって、国が荒れるでしょ。サイテーでしょ。
それに、なぜ第一王子が選ばれないのかが全く分からなくて、サラサラのブロンドに優しい瞳、王になるために頭も身体も鍛え上げている彼を支えようと言う気にはならないのか。あろうことか悪者のような役回りまでさせて、信じられない!
こんな文句を垂れていても、この乙女ゲームを最後まで全て完璧にプレイしたのには訳があって、もしかしたら、もしかしたら、第一王子ルートが出るのではないかと言う淡い期待を持ってプレイを徹夜でし続け、結局、、何にもなかったと言うオチ。返せ!私の時間を返してくれ!
まぁ、そしてこんなに熱弁してはいるが結婚式をドタキャンされるような原因は第一王子にも実はあって、第一王子はいわゆるヤンデレ的?な素質がる。まぁまぁ、危なーいシーンもちょこちょこあって。でも、でもね、それは8歳の時から第一王子を蔑ろにして恋にうつつを抜かしているセレナにもかなりの原因はあったのだ。さらに王様とか王妃様とか、色々、今は説明しないけども、色々な原因が重なってね?とーにーかーくー!第一王子だけのせいでヤンデレになってしまったって訳じゃないのだ!
だから、決めた!私は全員の結婚式略奪ルートを回避して、さらに、第一王子のヤンデレルートも回避して、第一王子とのハッピーライフを送るのよ!!
さっき最悪〜って言ったけど、前言撤回。これはチャンス。もう2度と第一王子に悲しい思いはさせない!
2度と、と言うかこれは一度きりの人生で、リスタートもリセットもない現実世界。絶対選択は間違えれない。
コンコンと、とびらをノックする音が聞こえる。
「セレナ様、今日のお支度に参りました。入ってもよろしいですか?」
「はい、どうぞ。リリスおはよう。」
笑顔で微笑む。私は前世の記憶があろうと、今はこの国の貴族でさらに、この国を愛してる。ヒロインと同じような選択は、わたしにはできない。
「とびっきり可愛くお願いね」
リリスは、キョトンとした顔をして、そして、ふふと柔らかく笑った。
「もちろんですわ。セレナ様。今日はとびっきり可愛くしていきましょう!」