バンの信じる道【バンside】
カルミア(第一王子)付きの専属医師視点
「ふーん。」
私はまじまじと殿下殿の顔を覗き込んだ。こんな顔する様になったのか。
幼少の時から殿下は、寂しさを抱えて生きていく覚悟のような物が体の周りに渦巻いていた。実の父親に拒絶され、腫れ物として扱われる日々は殿下の心の扉を強固にする。王子という肩書と尊い血がなければ自分について来る人は誰もいないと、そう線引きしてしまっている。
でもね。殿下殿。
自分にそれだけの価値がないと決め付けてしまう事、自分自身に命をかけてくれる人なんていないって思い込んでしまう事、それはね。
本気で貴方に支えたいと思う私達を拒絶するのと同じことなのですよ?
貴方は不思議な力を持っています。
王族には珍しく、すべての人の心の痛みに寄り添おうとする強靭な優しさを持っている。
優しい事は、切り捨てる生き方よりも辛く険しいもので、強い人しかできない選択です。
貴方はそれが出来る人間だと思っているんですよ?
「なんだ」
むっくりと膨れた顔で、私をジロリと睨んでいる。ほんとに貴方って人は面白いですねぇ。
「今のご令嬢。面白い人ですねぇ。いい恋人をみつけましたねぇ。」
すると少し顔が赤くなり顔を背ける。
「こい、びとでは、ない。婚約者だ。」
「婚約者って恋人じゃあないんですかあ?」
「違うだろ。思いが通じ合ってるわけじゃないんだ。もしの婚約者が恋人なら、俺には恋人が4人いることになる。」
寝具を脱がせ、胸の音を聞く、解毒を打ってからだいぶ経ってるし、かなりいい感じかな。声も聞き取りやすくなってるし。
「でも、彼女、貴方が好きなんでしょ?」
サラッと聞くと、殿下殿の顔は見る見る赤くなっていく。
「それはっ。あれだ。俺が王子だからかもしれないし、本当かだって、どうかわからない。俺は……」
「殿下殿。それはあのお姫様にとても失礼です。卑屈なのはいいですけど、そんなに自分の事を好きだと言ってくれる人が信じられませんか?」
わかってる。強い言葉を使ったが、殿下殿の気持ちは痛いほどわかる。
怖いのだろう。信じて裏切られることが。
人の愛を信じて、それが裏切られた時怖いから、最初から信じない。私もそんな時期があった。
殿下を見ると布団を握りしめ、険しい顔をしている。
「まぁ!私も彼女がどんな人かまだ知りませんし、信じろ信じろなんて言いませんけどねぇ?」
「んな!お前、言ってることがめちゃくちゃだぞ!」
「ふふふ。」
私の体はどこもかしこも真っ白でシルクのように美しい。頭髪もまつ毛も肌も全てが真っ白だ。
こんな風に自分を美しいと呼べるようになったのも実は最近で、殿下殿にも偉そうなことは実は言えない。
母も父も忌み子と私を蔑んだし、私も両親を蔑んだ。だから両親からの性は捨てたし、もらった名前も捨てた。
この体を治したくて体を沢山勉強して医者になったけれど、直す方法なんてどこにもなかった。色のついてる花を煎じて飲んだり、染めようと髪につけたり、自分が何故周りと同じではないのか、毎日毎日考えた。自分が周りと同じ容姿の夢を見た。
いつもいつ死のうか考えていた。
私は医学を学んだ後は森の中で小屋を建てて一人で住んでいた。人に会うことは人と違うことを実感するから嫌いだった。誰もいないここで一生暮らすのだと思っていた。
殿下殿に出会う前は。
「彼女、殿下殿と同じことを言いましたね。」
殿下殿はキョトンと私を見ている。
『綺麗だね。』
離れで暮らす幼い殿下が、人知れず屋敷から抜け出し迷い込んだ森で私に出会って、一番に言ったその言葉。
私はそれにどれだけ救われたのか。
殿下は覚えていないだろう。何年も前のことだから。
「殿下殿も見つけられると良いですねぇ。私のように、心から信じられる人が。」
「ほう。そんな人がいるのか。お前に。」
「いますよぉ。内緒ですけどね。」
貴方は知らない。私がどれだけ貴方に救われているのか。
でも今は蓋をする。
きっと、誰かがこの優しい殿下の心を溶かしてくれる、そう思うから。
「殿下だって可愛い女の子がいいですもんねぇ??私みたいな方がいいですかぁ?」
「なんだ、急に気持ちが悪い。」
ふふふ。楽しみにしておこう。彼の道を。
「私、ロリコンじゃないので安心してくださいねぇ。取ったりしませんよ。」
「なんの話だ。」
ムスッと口を膨らます殿下を微笑ましく見つめた。




