表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/113

植物園視察④

私は前世の記憶の片隅にあった、ずっと心に残ってる物があった。以前まではぼんやりと霞がかって思い出せなかったが、カルミア様の手を握り、汗を拭き、苦しむ表情を見て、自分の無力さを見せつけられている際に、スーっと霞が晴れたように思い出したのだ。


おそらくあれは、看護学生の時。学生なんて基本的に患者にとっては必要不可欠ではない物。本来なら普通の看護師で事足りるが、勉強のためにと受け入れてくださっているもの。だからこそ、私は、何かしてあげたいと強く思っていた。しかし、私は、力になりたいと思うばかりで何もできない事にとてもとても苦しんでいた。医療技術は看護師が行うし、清潔のケアも、私が行うよりもずっと看護師の方が上手なわけで、私が入ることで、患者さんの不利益になっているとさえ思っていた。


しかし、私は、その患者さんの言葉に救われることになる。


『辛い検査の時、怖い時、寂しい時、手を握ってくれて、ありがとうね。私は貴方の手を一生忘れないよ。』


最後、実習最後にそれを言われたのだ。


その時私は、何もできていないと、患者さんのことを見ていなかった自分を恥じた。看護師がいるのにと卑屈になっていた自分をとてもとても恥じた。


人は、本当に、本当に辛い時に、手を重ねるだけでも勇気が湧いてくることもある。


一緒にいるだけしかできない。でも、一緒にいることができるじゃないか。


グッと、カルミア様の手を握る手に力が入る。


私は貴方が好きなんです。貴方を支えたい。貴方の力になりたい。


すると私の手を握り返すカルミア様がいた。


ヴヴヴと、うなりながら、薄らと目が開いた。


「カルミア様、お体いかがですか?」


「………なぜ……ここに…」


「勝手に入ってきてしまい申し訳ありません。処分は後ほど…。人の倒れる音がしたので、緊急事態だと思い、駆けつけてしまった次第です。」


「そう……か」


声が枯れている。


「カルミア様、倒れられたのは、何か飲もうと思ったからですか?御飲み物飲まれますか?」


イエスかノーで答えられる質問にした方がいい。


「あ……ああ。」


「かしこまりました。では、ゆっくり、ゆっくりわたしに捕まって起き上がってください。」


ゲホゲホと咳が出て、とても苦しそうだ。背中をさすり、なるべく体が丸くなるようにする。トントンと、背中を軽く叩く。


タオルとお水を用意する。普通のコップしかないのが申し訳ない。受け口の窄まった物があればよかった。


口にお水を運ぶと案の定こぼれてしまう。コップの下にタオルを持って、衣類が濡れないようにする。


「す……すま…ない。」


「いいえ。逆に好きな方の近くに入られてラッキーですよ。」


カッとかおが赤くなるがわかる。恥ずかしくて顔が見れない。でも、目を合わせる。


謝らないで。


「だから、謝らないでください。私は貴方の力になりたいんです。」


カルミア様は少し目を見開いた後、手を口に当て、少ししてから、私を見て笑いかけてくださった。


「…では……あり…がとう……」


「はい。とっても嬉しいです。」


私は涙が出そうだった。なんて、なんて優しい方なんだろう。苦しくても、苦しくても、きっとこの方はそうやって優しさを捨てないで生きてこられた方なんだ。


グッと涙を堪えていると、カルミア様は私の頬に手を添え、目が合う。


「泣いて……いるの…か?」


ポロポロと堪えていた物が落ちてしまう。なんて情けない。


「す、すみません。あの。」


クッと唇を噛み締めていると、何故かカルミア様はフフッと笑った。


私は少しびっくりして、顔を向けると、


「はじめて………会った時の迫…力はどこに行った?」


と、おかしそうに笑っていて、少し回復してきているのかも、と、ホッとする。


「それは、お家の机にしまって来てしまったのかも、しれないですね。」


2人でクスクス笑いあう。


お水を飲んだからか声も少しずつスムーズになっている。とりあえず起きた事をお医者様に伝えた方がいいかもしれない。


「ロイ。お医者様を。」


ロイは、はっ。と会釈しすぐに呼びに行ってくれた。


ゲホゲホとまた咳をしているため枕をお腹に持ってきて、抱えるような体勢にしてから再び背中をさする。


「カルミア様、扉を破ったこと、おそらくされていたであろう人払いを破ったこと、お詫びいたします。とびらは必ず弁償させていただきます。」


座ったままで失礼とは思ったがそのまま深くお辞儀をした。


「いや……やめてくれ。実は嫌な……夢を見ていて、君がいてとても安心したん…だ。こんな俺なんかの為に……ありが…とう。」


「いいえっ。いいえ。もったいないお言葉です。」


今の言葉はすごくありのままのカルミア様な気がして、少しだけ嬉しいと、思った。


でも、俺なんかと、自分を下げてしまう事に寂しさを覚え、いつか、少しでも彼の心を癒せればいいのに、と、強く願った。


そして、それが私であればいいのにと。

カルミアの心の壁は強固で一生懸命叩き割ろうとしているのですが、難しいですね…。セレナに頑張ってもらうしかない!


ブックマークとても励みになります!ありがとうございます!


二本出せる時は二本出していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ