植物園視察①
扉を開けると、心配そうな顔をしたロイが立っていた。
「とても……情けない所を見せました。先程は本当にありがとう。貴方に助けられました。」
自分が情けなくてすごくすごく嫌になる。あんなんじゃ、ロイの誇れる主人になんてなれないし、ましてや、王妃にだってなれない。一応半分は私も同じ血が流れているのだから、慣れないと。あんな父親でも、一応人なのだから。
ロイはうーんと顎に手を当てて少し考えてから、今まで見たことのないくらい満面の笑顔を見せた。
「セレナ様は色々育ちすぎですし、このくらいは情けない内に入らないかと思いますよ。」
「んな!!そ、育ちすぎ……でしょうか。」
そんなこと初めて言われた。どう言うことよ。
「もう少し周りを頼って欲しいと言うことですよ。」
えぇ。もう十分頼っていると言うのに、なんてことを言うのだ。そんなことを言われると私は何もやらなくなりそうだから絶対にダメ。怠け出したら一生怠けるものなのよ。人間って。
「もうすでに沢山掴まらせて頂いてます。皆さん私を甘やかしすぎなのです。だから、お父様にガツンとやられたんです。きっと。」
ロイはそんな私を何故か寂しそうな、複雑な笑顔で見つめていた。一度ロイは何かを言い出しそうになり、いや。と話すのをやめた。何だろうか。
「何ですか?ロイ。」
「いえ、ただ、何のお話だったのかと…」
あー。コレは言うべきなのか?いや、あまりこの話は外に言うべきではないな。
「ただ、本当に顔が見たかっただけ…と言っていました。胡散臭いですけどね。あとは、植物園に行けとかなんとか。本当もう、なんなのかよくわかりません。とりあえず、今日のところは完敗です。」
ロイは面白そうに言う。
「完敗?ですか?」
「そうです!完敗!なので、次は、私が勝ちます。」
謎の対抗心を燃やす私、そしてロイはそんな私を見て本当に楽しそうに笑った。
「ところでロイ植物園はどちらでしょう?」
「本当に行くんですか?お父様の言う通りにはしないかと思っていました。」
うーん。話にしては本当に唐突だった。たしかに私は医学的なことも勉強しようと本は読んでるが正直言って知識はほとんどさっぱり入っていない。現代の素晴らしい文明の力がある時に比べてこの世界の医学は薬草などの漢方っぽい物?がメインで、そちらの知識は前世の記憶でも皆無に等しい。だってそうでしょ?痛みに効く草なんて知らないでしょ?ロキソニンなんてこの国にはないのだから。
どちらかとおまじない的な話が多く、若干宗教チックな本も有れば、コレは御伽話?魔法?みたいな医学の本も当たり前に医学書として並んでいるのだ。医学の知識もほとんど言っていいほどなく、さらには看護の知識でさえ学生レベルの私にはできることはあまりないなぁと落胆したのが、記憶に新しい。
「たしかに唐突ではありましたし、何か企んでる気満々って感じで本当に頭にはきましたが、今日は完敗だったんです。仕方ありません。ちゃんと行きますよ。」
ロイは私の話を聞いてまた、おかしそうに笑った。
「セレナ様は変な所をムキになりますね。」
「大切ですよ!勝ち負けは!やるからには勝ちます!最後に勝った方が勝ちですからね!私はまだ本当の意味では負けてません!」
そうなのだ!私は負けず嫌いなのだ。
そんなこんなで話していると大きい中庭に出た。木漏れ日が差し込むとても良い天気で気持ちが良くて大きく深呼吸した。するとスーっと薬草のような漢方のような香りが漂ってきて、辺りを見回すと、とても大きいガラス張りの植物園があった。
「本当に、本当に立派ですね。」
その美しい建物にハッと息を飲んでしまう。あんまり興味がなかったのだが、見てみたいと思う。とても綺麗だし、ここはもしかしたら医学の最先端なのかもしれない。
ん?でも、なんだか………
景色に気を取られていたが少しおかしいことに気づく。なに、なんで?護衛の数が異常だわ。ただの植物園でこんなに沢山の護衛をつける必要があるの?明らかにおかしい。
「ロイ?」
声をかけて顔を見ると、ロイも警戒の色を強めている。しっかり気づいていた。
とりあえず扉の前の警護に声をかける。たしか、話は通してくれていると言っていたはず。
「セレナ・ディ・スカルスガルドですわ。本日ここの植物園を見学させていただきたいのですがよろしいでしょうか。許可は私の父、スヴェンが取っています。」
屈強な男は私とロイと鋭い眼差しで見た後、告げた。
「話は聞いている。が、武器の持ち込みは禁止の為、ロイ殿。武器をお預かりする。」
「随分と厳重な警備ですね?何か貴重な物が隠されていたりするのかしら?」
「貴方には関係ないことです。」
あ、ふーん。ダメよダメダメ。少しカチンときたからっておこっちゃあダメよ。でも、私よりロイが切れているわね。
「理由を教えられないのなら、なおさら武器を預けることはできない。私はセレナ様の御命を守る義務があるのだ。」
ビリビリとロイと屈強な騎士の間で火花が散る。ううう。この人意外と短気なんだよね。まぁ、真面目が故なんだけど。私ただ植物園に来ただけなんだけどなぁ。
すると、警護の物が仕方ないと言いたげな感じでため息をついて私に仰々しい巻物をスルリと解いて私に見せる。
「理由は一つだ。王の厳命である。それだけだ。」
王!?!?!?
なんでそんなビックネームがここで出てくるのよ!どう言うことなの!?お父様は私になにをしてほしいわけ!もう!いや!!
「わかりました。仕方ありません。従いましょう。ロイ。」
はっ。とロイは武器を差し出して、そのついでに私に顔を近づけ、小声で囁いた。
『危険を感じたらすぐに仰ってください。盾となってここをすぐに突破します。』
あらあらイケボ。本当に頼もしくて物騒な男だこと。
警護の男は武器を受け取ると植物園の扉を開けた。




