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仮面の中身

「やぁ。久しぶりだね。あえて嬉しいよ。可愛いセレナ。」


はぁ。忘れていた。カルミア様にお会い出来るかもしれないと言う思考に頭の全てを使っていたことで、そもそも呼び出しはこのお父様がしていたもので、お父様と会わなければならないと言うことをすっかりぽっきり忘れていたのだ。相変わらず笑顔の仮面は鉄壁である。


王宮に着くと私は父の暮らす部屋に案内された。お父様はこの国のいわゆる外交として働いている。割とこの国における重要な役割を担っていることから部屋もすごくすごく豪華だ。この広さで一人暮らしかよ。部屋何個あんだよマジ。


今この国の外交は私の予測ではあるがおそらくかなり良くない。隣国との関係がすこぶる悪い事にある。隣国は王様があんまよくないイメージあるし、きっと苦労してんだろうなぁ。


「お久しぶりです。お父様。私も会えてとても嬉しいです。」


いつものように、思ってもないことを満面の笑みで伝える。お父様の家庭教師に習ったよう、しっかりと丁寧にね。


しかし、今日のお父様はいつもとは全く違かった。


鉄壁の顔を崩したのである。それは、私にとってとても衝撃的で、そして凄まじく恐ろしいものだった。


「思ってもないことを言うんじゃないよ。セレナ。」


「え?」


見たことのない顔をしていた。いつも垂れ目を活かしたヘラヘラした笑いを浮かべているのに、今はなんの表情も顔に貼りつけておらず、ありのままの表情で私を見つめていた。自然と手が震えるのがわかる。声が出ない。


「ごめんね。ロイ。下がってもらってもいいかな?」


急に笑顔の仮面をつけ直し、ロイに向かって言った。どうしよう。いやだ。この人と2人きりになりたくない。


ピクリとお父様のその指示に震える。しかしお父様の顔から目が離せない。


しかし、ロイは私の予想していた回答とは真逆の言葉をサラリと発した。


「すみません。スヴェン様。その命令は聞けません。」


震える手が止まる。私はゆっくりロイを見た。


「へぇ。その理由を教えてもらえるかな?」


お父様は肘をつき、また真顔になってロイを見つめてそう言った。


「私の主人はセレナ様ですのでセレナ様の命でしか動けません。一度セレナ様を通してもらってもよろしいでしょうか。」


ロイはまっすぐにお父様を見つめている。どうしよう。目が、体が熱い。本当に、本当にこの男はっ。


「ロイ。ありがとう。下がっていいわ。」


はっ。と私に会釈してすぐに立ち去る。そして振り返る瞬間に私に笑顔を見せて小声で言った。


「何かあればすぐにお呼びください。」


くそう。これでは立場が逆ではないか。私が支えられてどうする。なんって情けない。たかがお父様ごときにこんなこと。これから私は王妃になる女だぞ。こんなところでビビっている場合じゃない。


バタンとロイが出ていくのを確認して私はお父様と向き合った。そして、笑顔を崩し、そのまま、


「思ってもないことを先におっしゃったのはお父様ですよね?」


返してやった!ふーんだ!お父様が会いたいなんて思ってるわけがない。心の中で盛大にアッカンベーをする。


手はまだ震える。でも、最大の鼓舞を、ロイは私にくれた。ここが踏ん張り時よ!セレナ!


プルプル気を張っていると、全く予想外の反応が起きた。


お父様は大爆笑したのだ。


「っぶぅ!あっはっはっは!!あー。いいね。実にいい。」


何なのこいつ。本当に情緒がわからない。こわすぎ。


「いやぁ。実はね、ここにお前を呼んだのも、本当に顔が見たかっただけなんだ。だから、君の言うことは間違いで、会えて嬉しいのは本当だ。」


いつもとは違う意地の悪い笑顔を見せる。


「僕は君みたいに嘘はついてない。」


コイツ、絶対いつか痛い目見せてやる。こんな可愛い9歳のガキンチョを怖がらせやがって。


「そう…ですか。では、可愛い娘に会えたご感想と、今回の目的を手短にお願いできますか?」


嫌味たっぷりに告げる。セレナとして生きてきて初めて父親と本音で話すことに若干の感動を覚えながらも、同時に嫌悪感と恐怖心が心を乱す。早く、本当に早く終わらせたい。


そうだなぁと、私を上から下まで眺めた後にいつものニッコリの顔に戻る。本当に怖い。


「君はとても優秀だと聞いたんだ。ここ一年家を開けていたから、あんなにポーッとしていた僕のお姫様がどこをどういじれば優秀になるのか全く想像できなくてね?それで一度顔を見てみようと思ったんだけど、これは………。」


ぐにゃりと顔が歪む。


「想像以上だね。」


ダメだ。失神しそう。本当にこの人は関わっちゃダメな人だ。ロイの鼓舞で治った震えがまた再発する。


「あのロイ・ウェンデルを飼いならしてることにまず驚きだなぁ。アイツは真面目だが、少しやさぐれていたしね。面倒くさいだろうと思ってたんだけど、うまく取り込んだね。」


いちいち言い回しが癪に障る。


「ロイをそのように言わないでいただけますか?私の大切な剣です。」


ふーん、と、冷たい目が私を貫く。この人は人を何だと思っているのだろう。どこかで大切な何かを落としてきたみたい。


「実はね、僕はとっても偉い人と仲良しなんだ。とってもね。」


そのまま話し始める。


「その人が王子の婚約者は仲の悪い隣国の姫を婚約者にしようと思っているけど、王子には負い目があって、できれば好きな人と結婚させてあげたいとも思うって言っててね。」


コイツ王と友達とかマジで言っているのか。


「だから、バカなのか?って言ってやったんだけど。いつもは割と僕側と言うか、まぁ、国を思えば小さな犠牲を厭わない人?だから、そんな選択肢が上がることが不思議で不思議で。子に情があって、それで国の利益を捨てようかな?って考えるなんて全く思わないでしょ?」


「君は、保険なんだよ。ほら、1人の婚約者に絞ってたら、もう国民はそうだと思い込んじゃうでしょ?婚約者候補には、もちろん隣国のお姫様もいて、まだその話はその姫には届いてないけれど、何人も婚約者を作ったのは隣国の姫とも婚約の可能性をつなげておくため。君たちは本当に隣国との関係が悪くなった時にすぐに切り捨てられる捨て駒なんだよ。」


予想外の事実に目の前が暗くなる。


「そっ。それで、結局なにがおっしゃりたいのですか?何が目的ですか?」


「まぁ、これは、僕が提案したんだけど、毒にも薬にもならないような私の娘なら別に一時的に婚約者にしても問題ないかなぁ〜ってさ。」


クッと口角が上がる。


「でも、パーティーの日、面白い話を聞いてね。どうやら私の娘が、王子を慕ってるって宣言したそうじゃないか。」


ひゅっと息が詰まるのを感じた。


「それは事実?」


「は、はい。事実です。」


「まぁ、最初は別に慕ったところで毒にも薬にもならない君じゃあどうこうなるわけじゃないって思ったんだけどね。でもどうだ。最近とても努力して頑張ってる、従者からの信頼も厚いって聞くじゃあないか。」


「だからね、セレナ。私に協力して欲しいんだ。」


「協力、ですか?」


予想外の提案と、思った以上の父親の化け物さに冷や汗をかく。何だこの人。何がしたいんだ。


「僕が外交官として隣国との関係を友好に保つ。そうすれば君は婚約者から外されることはないだろう?そのかわり……」


「君は王妃の座を必ず勝ち取れ。」


なるほどこの人は出世したいのね。前世の記憶を取り戻す前はそこまで勉強熱心でもなかったし、まさかそうなれるようになる可能性を考えてもいなかったけど、急に努力し始めたから娘を王妃にして成り上がりたいと、そういうことね?


何ってやつなの。本当にサイテー。拳を握り締めてキッとお父様に向かった。


「お父様。たしかに私はカルミア様を慕っていますが、そんな理由であなたに協力したくありません。出世は大事でしょうけど、私はこの国が好きなんです。自分の利益を先に考えるような貴方に上に立って欲しくはありませんし、そもそも、私を適当な穴埋めで利用しようとしてた人に協力するわけがないでしょう?」


「王妃になら、自分の力でなります。貴方の出世のために働いたりなんて絶対しません。」


ムカついた。すごくすごくムカついた。この人は私のことも、国のことも、民のことも、考えていないんだ。きっと自分のためだけに生きてきた。ひたすらひたすら貪欲に。


それに、私はここでコレを飲んだらきっと、きっと後悔する。私は誰に対しても後ろめたい気持ちでいたくない。私を信頼してくれてるリリスやロイにも、カルミア様にも。


「君は誤解している。僕はね、心底どうでもいいんだ。出世とか、名声とか、そういう類のものはね。」


「では…なぜでしょう?」


沢山の?が頭を回る。何が目的なの。金も、地位も名誉も目的ではない、と?


「いくつか理由はあるんだけどね、まぁ、まずは僕の上に居座るブタがブヒブヒうるさいんだよね。それこそ今君が僕に抱いたようなイメージの塊みたいな?そう言う自分のことしか考えないような醜い塊みたいなやつが上にいることで国にとって利益を生もうとしても邪魔で身動きが取れないんだよ。」


「この国の権力図を見れば、そのブタの娘が隣国との関係が悪化しなければ第一優先で王子と婚約になりそうだし、そうなれば本当に手がつけられないんだ。」


「と言うのが一つと。あとはー。まぁ、借りかな。」


「借り…ですか?」


「僕はさ仲のいいその偉い人にさ、借りがあるんだよね。何で今回その息子に恋愛結婚して欲しいなんて思ったのかなんて僕にはサッパリ理解できないんだけど、まぁ、ここらへんで恩をかえしておこうかなぁってさ。」


これは、本心なんだろうか。それとも私を利用するための嘘?どっちかわからない。


と言うか後半の理由は、カルミア様が私のことを好きでないと成り立たないわけで、急に何でそうなったんだ???


「いや、お父様。私はカルミア様が好きですが、カルミア様は私のことは別に何とも思ってませんよ?」


すると、いつもは細ーい目が急に大きく開いた。


「はぁ?何だ君は?もしかして王妃になるとかほざいておいて、惚れさせる自信がないのか?それとも自尊感情が低いのか?いくら僕だって、あのブタの娘よりは可愛いとは思ってるぞ?あのブタの娘は顔はまぁまぁだが性格が最悪でな。それよりも自分が劣ると?そう、思っているのか?」


ぐっ。惚れさせるとかそーゆー話じゃなくて、そーじゃなくて!!


どうしてもカルミア様が私の事を好きになってくれる未来が想像できない。ゲームでは私にメロメロだったけど、この生きてる現実であの聡明そうな彼がそうなる未来が!全く!想像できないんだもん!


「あーそれとも何か?惚れさせずに何かしら小細工して手に入れようとでもしていたか????」


ブチッと何かが切れるような音がした。


何だコイツは。どこまで私を、カルミア様をバカにすれば気が済むのか。


「いいえ?そんなことは全く考えておりませんでした。私は一度会話しただけの関係ですので、惚れさせるとか、そう言う段階まで考えが至っていなかっただけです。私は何かを小細工して私に目を向かせるなんてそんな真似しません!」


「だろうな。ックク。まぁ、利害は一致してるんだ。とりあえず今は、僕はただ隣国との関係を良好に保つ事を考える。そして君は王妃になることだけを考える。それでいいだろう?」


全てこの男の言う通りになっている気がして、なんだかモヤモヤする。何も、何も敵わない。コイツには。本当にムカつく。


「私はっ。」


言葉を紡ごうとしたところで止められる。


「話は終わりだ。もう下がっていいぞ。」


んな!何なんだコイツは!勝手すぎる!


「そうですか!もういいです、失礼します!」


くるりと翻して出口に向かう。全く何の時間だったのか。どっちにしたって、私が協力しないって言ったとしても、結局私はカルミア様の隣にいたいと思えば、コイツの思い通りになってしまうじゃないか。だったらここで呼び出してわざわざ考えを明かした理由は何なんだ。


まさか、本当に顔が見たかったとか?


はっ。なんてね。


「あ!そういやぁ!」


と呼び止められ首だけで振り返る。もう礼儀もクソもない私の態度に自分でもじわじわ来る。

しかし怒られる様子はなく、気にしない様子で言葉を続けた。


「医学も勉強しているらしいじゃないか。王宮にいい薬草を育ててる植物園があるんだ。ここまできたんだ。これで帰ったらもったいないだろ?もう許可は出しているからそこに寄ってから帰るといい。」


なによもう!何なのよ!唐突に本当なんなの!?


「気遣い感謝致します!!!」


力強く言い捨てて、バタンと扉を閉じた。


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