表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛禁止社会  作者: 浅野タケル
3/4

Part 3


   1


 純が美依子の連絡先をもらったのは、出会ってから2週間後のこと。昼休みに遊人からもらった。

 連絡先をもらったその日から、純は彼女に、毎日メッセージを送るようになった。

 だが、美依子からの返信は遅い。届くのは早くて2、3時間後、遅いときには、その翌日に来ることがあった。

「なぜ、こうも返信が遅いのか?」と純はメッセージを送ると、美依子は、

「課題が多いのと、塾や部活があって忙しいの。返信遅くてごめんね。野間くん」

 と返してきた。さすがは天下の金鶏学院高校。かなりのハードスケジュールだ。

「そうか。ごめんな。忙しいのにバンバン送ってしまって。あ、今度、いつ会える?」

「うーん。ゴールデンウィーク明けの日曜はどうかしら?」

「了解」

 会う日時が決まった。


 ゴールデンウィーク明けの日曜日。1か月前まで枯れ木同然だった千川家の庭に植えられた木には、鮮やかな黄緑色の葉が繁っている。

 隠し部屋では、純と美依子が楽しそうにスマホゲームを楽しんでいた。

 Part 3まで読んで、「デートをしたりしないのか?」と疑問に思った読者も多いかもしれない。最初に話したように、法律で中高生の男女交際が禁止されているため、青少年カップルが手をつないで、堂々と街中を歩くことはできない。おしゃれなカフェで、一緒にスイーツを楽しんでいるなど、拘留ものだ。

「そういえば、野間くんの学校って、テストいつなの?」

 スマホをいじっていた美依子は、聞いてきた。

「うーん」

 純は頬づえをつきながら、テストの日がいつだったか、思いだそうとする。

「26日だろう?」

 遊人は純の耳元でささやいた。

「あ、そうだ。26日だった!」

 純は目を大きくして、立ち上がる。

「純、それくらい、覚えておいた方がいいんじゃないか? テストまであと2週間、って先生方が口酸っぱく言ってるし」

 遊人はため息を一つつく。

「え、あ、でも、まだ2週間ちょいあるから余裕か」

「そんなんで赤点取るなよ」

「わかってるって」

「野間くん、頑張ってね」

「頑張ってやるさ。美依子のためなら、100でも取ってやる!」

「楽しみにしてるわ」

(何だか、先が思いやられそうだ)

 遊人は心の中でつぶやき、ため息を1つつく。


   2


 翌日の朝。

 いつもより早めに登校した純は、ロッカーの中に入れっぱなしにしていた問題集を取り出した。

 机の上に開いて、テスト勉強をはじめる。

「やっぱり、慣れないことはするもんじゃないな」

 純は愚痴をこぼした。昔からテスト3日前に焦り出す性分だから、愚痴をこぼすのも無理はない。

 だが、今回のテストは違う。美依子と、いい点を取る、と約束した。だから、今までのように、怠けてはいられない。


 数学の勉強が終わったあと、古典文法の問題集を開き、表の空欄にあてはまる助動詞を入れる。

「なり、たり、まほし・・・・・・次なんだっけ?」

「ごとし、だろう?」

 誰かが耳元でつぶやく。

 誰だ、と思って振り返ると、遊人だった。

「よっ、純。朝から勉強してるなんて珍しいなぁ。頭でも打ったか?」

「頭打った、は余計だ。おれはこの前、美依子と約束したからな。いい点取るんだ、って」

「そのやる気もいつまで持つかね」

 遊人はからかう口調で言った。

「おい、お前今なんつった」

 純は反論しようとしたところで、

「遊人。昨日借りた教科書、返せなくてごめんな」

 隣のクラスの伊東が、現代文の教科書を持って、教室に入ってきた。

 伊東は借りていた教科書を、遊人に差し出す。

「ありがとう」

 遊人は教科書を受けとり、それをしまいに、ロッカーへ向かった。

 伊東は純の方を向いて、

「お、あの成績最下位の純が勉強してる!」

 驚いた表情でこちらを見つめてくる。

「うるさいなぁ、伊東。こっちだって、学年最下位を脱却したいんだよ!」

「まあ、頑張れ」

 伊東はそう言って、教室を出る。


   3


「ただいま」

 純はドアを閉め、靴を脱いで玄関の右端にそろえる。

「純、おかえり」

「おかえり」

 純は部屋へと直行し、ドアを開けようとした。

 すれ違った純の母親は、最近様子がおかしい純の様子について、聞いてくる。

「あら、純、また自分の部屋? 最近、よくこもってるけど、どうしたの?」

「母さんには関係ないだろう」

「教えてくれたっていいじゃない」

「──」

 純は黙ってドアを開け、部屋に入る。

「よし、勉強しないとだな」

 純は、カバンの中に入れた参考書を取り出し、机の上に開く。


(まさかだけど、イヤらしい写真集やDVD見て、あんなことしてたりして・・・・・・だったら、父さんに言いつけて、やめさせないと)

 純の母親は不安だった。

 最近、息子である純の様子が、違う誰かのように感じるからだ。

 いつもの純は、自分や父さんが、「遅刻するよ」と注意しなければ、学校へ行こうとしない。休みの日ともなれば、昼夜逆転の生活を送っている。

 帰ってきたら、制服のままリビングのソファーを占領し、ゲームをする。そして自分が、「ゲームばかりしてないで、勉強しなさい!」と叱ると、言い訳をして逆ギレ。これが、いつもの純。怠惰でだらしないために、放っておけないところがあった。

 だが、4月の初めから、純の様子が変わりはじめた。

 誰から注意されなくても、すぐに支度を整え、学校へ行く。休みの日は、早く起きて一人どこかへ出かけるになった。帰ってきたら部屋に籠って、何かをしている。

(やっぱり、純はおかしくなった。人間が短期間で、あんなにまともになるはずがない)

 純の母親は駆け足で純の部屋まで行き、ノックもしないで戸を思いっきり開け、

「純!」

 大きな声で名前を呼ぶ。

「母さん、どうした? そんなに必死マジな表情になって。今、俺勉強してんだけど。集中してるから──」

 出てってくれないかな? と注意しようとしたときに、純の母親は、

「純、最近おかしいよ。2年になってから特にそう。学校帰ったら部屋に籠るし、いつも早寝早起きになったし。純、何か悩み事があるんじゃないの? まさかだけど、母さんに内緒で、男女交際してたりしないでしょうね?」

 今にも泣きそうな表情で、純に聞いてきた。

(何が悩みごとだ。俺は1年のころよりも充実してるんだよ。よく観察しろや、クソババァ。誰が親の前で堂々と、犯罪やってます、なんて言うかよ。むしろ、まともになったことを褒めるべきじゃないのか?)

 心の中で、母親への悪罵あくばを呟いた純は、

「母さん、人なんて、ときが経てば、自然と変わるもんだろ。さっきも言ったけど、集中できないから、あっち行ってくれないかな!」

 部屋から母親を追い出し、乱暴に戸を閉めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ