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恋愛禁止社会  作者: 浅野タケル
2/4

Part 2


   1


 日曜日。

 朝早く起きた純は、遊人からもらったメモを頼りに、待ち合わせ場所である埼玉県K市の駅まで、電車を乗り継いで来た。

 駅を降りると、駅前にコンビニや商店などはなく、田起こしされたばかりの焦げ茶色の田んぼと、2階建ての家がぽつぽつとあるくらいだ。

 純はLINEで、K駅の北口で待っている、と送り、スマホゲームをしながら待つ。


 15分ほど待ったころ。自転車に乗った遊人がやってきた。

「申し訳ない。寝坊したもので」

 汗だくになっていた遊人は、自転車を止めた。

「そうか。よくあるよな」

「だね。やっぱり、夜ふかしはよくない」

「そうだな」

「あ、こんなところで油を売っていると、せっかく誘った女の子が逃げてしまう。急ごう」

 純はうなずく。

「うん」

「家まで案内するから、僕についてきて」

「わかった」

 純は、自転車を手で押しながら歩く遊人についてゆく。


   2


 田んぼとトタンが貼られた小屋、家屋しかない田舎道を、二人で歩くこと30分。

 遊人は、茶色い木の壁と広い玄関が特徴的な家の敷地内へ入る。

「ついた」

 遊人は玄関の前で自転車を停め、鍵をかけた。

「ここが遊人の家か」

「入ってもいいよ」

 遊人は手招きをした。

「そうか。じゃあ、入るぞ」

 純は敷地内に入る。

 千川家の敷地内には、島のある大きな池があり、その中を赤と黒のまだら模様の錦鯉と白い鯉が仲良く泳いでいる。

 遊人の自転車の隣に、水色のママチャリが停まっていた。きっと、これから会う女の子のものだろう。

「失礼します」

 純は一礼して、遊人の家の敷居をまたぐ。

 目の前には広い廊下があった。

 両脇にはむき出しの柱や梁が組まれ、柱と柱の間には、松や梅、竹などが墨で描かれたふすまがあった。

「お邪魔します」

 純は靴を脱ぎ、玄関の右端に揃えて中へ入る。

 遊人は大きな廊下をまっすぐ進み、左へ曲がった先にある、奥の部屋へ案内した。何も描かれていない戸に向かって、声をかける。

「失礼。逃げてないかい?」

 戸の向こう側にいた人物は、

「逃げるわけないじゃない」

 少し大きめの声で答えた。それは紛れもない、女の子の声。

 声を聞いた純は、緊張のあまり心臓の鼓動が高鳴り、小刻みに脈打っているのがわかった。

 遊人は戸を開ける。

 戸の先には、八畳ほどはあろう畳敷きの和室が広がっていた。開けられた障子戸の前には、苔のむした庭が広がっている。

 お目当ての女の子は、開けられた戸の前に座っていた。

 後ろ姿からわかることは、ピンクのパーカーを羽織り、茶色がかった長い髪が特徴的な、小さい女の子だということ。

(どうか、紹介してくれた娘が、かわいい娘でありますように)

 純は、振り返ったらブサイクでないことを祈った。後ろ姿が美少女でも、正面がダメなら幻滅してしまう。

「遅れてすまない」

 遊人が謝ると、女の子は振り向いた。

 女の子は、色白で丸顔、大きな飴色の瞳とぷっくらとした厚めの唇が特徴的な、美少女だった。

「遅かったのね、遊人。後ろにいる男の子が私に紹介する人?」

 純と遊人がいる扉の方を見、白く細い首をかしげる。

「そうですよ。彼は僕と同じ高校に通っている、野間純です」

 純は顔を真っ赤にして、

「よ、よろしく」

 一礼した。女子とめったに話さないためか、声がどこかぎこちない。

「私は草野美依子くさのみいこ。よろしくね、野間くん」

「お、おう」

「美依子は頭がいいんだ。何でも、金鶏学院大学付属高校に通っている。将来性も抜群だ!」

 遊人は誇らしげに、彼女のいる高校について説明した。

「ちょっ、何言ってるのよ。まだ将来のことなんて、決まってないのに」

 美依子は軽く遊人の手を叩く。

「仲、いいんだな」

「まあ、小さいころから知っているからね」

「へぇ。いわゆる、幼なじみってやつか」

「そんなとこかな」

「なるほど。美依子?」

「なに?」

 美依子は細い首をかしげる。

「しゅ、趣味は、なんだ?」

 純はどもり気味に聞いた。

「趣味ねぇ。あ、スマホゲームかな? あ、あと川柳かな」

 美依子は答えた。

「そうか。どんなゲームやってんだ?」

 美依子はスマホをつけてパスワードを解き、

「こんな感じ」

 ホーム画面を見せる。中には虎猫やモ○○○などのアプリがある。

「虎猫かぁ。最近マンネリ化してきたよなぁ。だから、最近はログインしてない」 

「野間くんもそう思ってたんだ。私もそう思っていたの」

「そうなのか。仲間だな」

 このとき、純は思った。女の子もスマホゲームしたりするんだな、と。

 この日はスマホゲームのフレンド登録や、ゲームの話をしただけで終わった。連絡先はもらっていない。

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