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百鬼先輩の百鬼夜行  作者: 八霧
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三話目 百鬼先輩の表 後編




あれから私と百鬼先輩は、今朝案内してもらった順を逆から辿って探し回った。

しんと静まりかえった校舎には私と先輩の足音だけが響き、

温かく優しい先輩の声音が静かに、そして穏やかに反響し耳の中に広がる。

雑音も何もなく、ここだけ切り取られた空間のようで…2人きりで誰も居ない………。


……()()()()()


先輩に会ってから、教室のある校舎から外廊下をつたって別館まできた。

1階から4階までまわってきたけど、誰ともすれ違わなかった。

それどころか声すら聞こえなかった。教室にいたときはまだ聞こえていたのに。


ふと外に目を向ければ、やっと陽が傾きかけ廊下に射し込む光に赤みが帯びてきたところだ。

今、何時なんだろう?先輩と話していていつの間にそんなに時間経っていたのか。


ぶるっと言いようのない不安が突然襲い、身震いする。

それを知ってか知らずか先輩は本館へ移動しましょうか、と変わらない笑顔を私に向ける。

私は頷き、不安を振り払うように先輩の後を追った。




◇ ◇ ◇ ◇




「そ、そういえば…百鬼先輩はどうしてあそこに…。」


教室のある校舎である本館の4階に移動してきてからも

黙っていると余計な考えばかり浮かんでしまい、気を紛らわせたくて仕方なかった。

こんなこと考えてる場合じゃないのに…あの御守りがなきゃ、あの御守りは……。


「……。…ふふ、この時期は迷子が出やすいので見回っていたんですよ。」


ハッとなり前を向く。先輩は立ち止まったいた。


「この時期って…百鬼先輩は2年ですよね?」


「代々伝えられてきた生徒会内でのイベントみたいなものですよ。」


「い、イベントって…。」


先輩はたまにおかしな表現をする。

どういう意図で言っているのか不安すら感じるような言い回しを。


先輩は急に長く、遠く続く廊下の奥に視線を移し凝視する。

私からは横顔だけだったが、一瞬驚いたような顔をしたのは気のせい……?


「…おや、早速いましたね。」


ふっと笑う姿に私も視線の先を追う。

廊下の奥からパタパタと足音が近づいてきた。

顔の輪郭がはっきりとした途端、見覚えのある顔にほっとした。


「……あ!えっと…百鬼先輩。」


「ふふ、()()()()()しまったんですね。」


「あ、ああ。」


先輩の言いように彼も違和感を覚えた様子で少したじろいでいた。

そんな様子を先輩の後ろで見つめていると、彼と目が合う。


白槻(しらつき)くん…だよね?」


学園の案内が終わって先生が来るまでの間、各々好きにお喋りしたり座って寝てたりとしている中、

彼だけはずっと一人で何か考え込むようにしていたから覚えていた。


「白槻…?」


先輩は明らかに驚いた様子で彼の名を聞き返した。

知り合いだったのかな、と思いもしたが少し様子がおかしい。


「え…ああ。白槻一(しらつきはじめ)って言います。」


「………。」


「えっと……?百鬼先輩?」


先輩は顔を伏せ、心配になり後ろから覗き込む…

……ゾッと背筋に冷たいものが流れた。


……(わら)っていた。


口元を抑えた手の隙間から明らかに、今まで見てきたような温かさも優しさもないモノが覗く。

咄嗟に視線を外してしまう。

……怖い。冷たいモノがこめかみを伝う。


「ああ、すみません。

白槻くんはこんなところでどうしたんですか?」


恐る恐る横目でみれば、さっきの恐ろしさが嘘のように再び優しい笑顔がそこにはあった。

…さっきのは気のせいだったのだろうか?


「えっと…帰るつもりが出口どころか階段すら見つからなくて。」


「白槻くん、ここは四階ですよ。一年のクラスは二階だったはずですが。」


白槻くんは困ったようにその真っ黒で艶やかな髪をわしゃわしゃと掻いた。

方向音痴っていうレベルじゃない、気がする。


「いやほんと何でかいつの間にかここにいて…。」


「………。ふふ、変わった方ですね。

一緒に来なさい。玄関まで案内しましょう。」


クスクスと笑う先輩に少し顔を赤らめ、白槻くんは恥ずかしさを誤魔化すように勢いよく頭を下げた。


「あ、ありがとうございます。…そういえば2人はなんでここに?」


「水城さんが落とし物をされたというので探していたんです。

御守りのようですが、白槻くんは見ていませんか?」


「いや、この階結構うろうろしてたけど見なかった…ですね。」


「そうですか。ということは体育館辺りでしょうか。」


「百鬼先輩、本当にすみません…。」


困ったように首を傾げる先輩の姿に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「おや、謝る必要はありません。せっかくのおめでたい日なのです。

そんな日は良き思い出だけで彩るべきです。それに…。」


先輩の手が私の頬をするりと撫でた。突然のことに頭が真っ白になってしまう。


「え……え?」


頬に残る温もりと微かに残る先輩の香り。

そこから徐々に自分の熱が上回り、顔がカッと熱くなるのが分かる。


「どうせなら謝罪より感謝のほうが私は好きですよ。」


「!!!…ありがとうございます!」


「ふふ、どういたしまして。」


さっきまで先輩に抱いていた恐怖が嘘のように掻き消されていく。

…きっと、見間違いだったんだ。

なかなか見つからない不安と焦りで疲れて変なふうに捉えてしまっただけだ。


相変わらず、誰もいない校舎。声どころか雑音一つしない。

聞こえるのは先輩と白槻くんの話し声。


そして私のナカから聞こえる(やかま)しいまでの心臓の音だけだった。





毎日投稿って大変ですね

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