表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/7

不自由の中にこそ、幸せはある

「そう言えば悠さんはここ数年、正月に帰省していませんよね?」

「親父とは盆に顏を合わせるから、年末年始は自宅だよ」


 湯呑(ゆのみ)を両手に挟み、小首を傾げた桜花さんにそう応えたものの、実際のところは母親が病死して以降、実家とは一定の距離を置いている。


 勿論、育ててもらった恩はあれども、いい年をした男が親父に会うだけの為に毎年田舎まで帰るのはどうかと思う(ゆえ)だ。


「そっちは御師(おし)様に年末年始の挨拶をしなくても?」

「えぇ、来たばかりなので…… ずずっ」


 おもむろに茶を啜った彼女と他愛もない言葉を暫く交わし、大衆食堂を出た次は中心街のデパートに(おもむ)く。


 年の瀬だからなのか、いつもより割り増しで多い人混みの中、本日の目的地である調理器具コーナーに辿(たど)り着いた。


「さてと、一通り必要な物を買おうと思うけど…… 料理は得意なの、桜花さん?」


()()は完璧です、今まで()()を摺り切れるまで読みましたので!」

「……………… 実践経験は無いんだね」


 一応、大学時代のお金が無い頃に自炊していたので、僕も手伝えば良いかと気を取り直し、万能包丁や鍋、菜箸や食器なども二人で吟味しつつ(そろ)えていく。


 さらにデパ地下で桜花さんが作りたいと主張してきた年越しそばの材料他、数の子やハムなどお(せち)料理に使う具材も購入した。


「う~、お(せち)は敷居が高い気もします。大丈夫でしょうか、悠さん?」


「手間が掛かるのは完成品を買って重箱に詰めれば良いから、そこまで心配もいらないよ」


 ともすれば、此処(ここ)で販売されている食品を並べるだけで、立派なお(せち)になるんじゃないかと思えるぐらいだ。


 通年通りならそれすらせず、即席麺の年越し蕎麦を食べ、三が日もコンビニ弁当などのお世話になっているけど……


 (たま)にはこんな年末年始があっても良いかと思い至り、ちらりと狐娘の様子を窺えば、せっせと買い物かごに大量の油揚げを放り込んでいる。


「好きなの、油揚げ?」

「それ程でも無いのですけど、御蕎麦に必要と言いましょうか、その……」


 照れ隠しに誤魔化そうとする桜花さんに溜息して、油揚げを使った料理を何点か思い浮かべながら買い物を継続した。


 そうこうしている内に荷物だらけとなった帰り道、気遣ってくれた彼女が声を掛けてくる。


「あの、霊力で怪力を出せますから…… 私が持ちましょうか?」

「そう言う問題じゃないし、気持ちだけ貰っておくね」


 人並みの見栄を張り、結構な体力を消費してマンションまで帰り付いた後、お昼は簡単な物を二人で調理して済ませ、数の子の塩抜きなどお(せち)料理の仕込みをしておく。


 やはりと言うか、桜花さんが戦力外である事が確認できた昼下がりの一幕となった。


 これだと世話をしているのは僕の方じゃないかと疑念を抱きつつ、夕方から始まった毎年恒例の国民的歌番組を聞き流し、炬燵(こたつ)に入ってまったりとした時間を過ごす。


 途中でそこから離脱した狐娘が頑張って用意してくれた年越し蕎麦は…… 大量の油揚げで覆われて麺が見えなかったけど、誰かと共有する時間は “多少不自由でも心地よく大切なものだ” と思い出せた大晦日になった。

皆様、今年一年お疲れ様でした!

良い年末を( ╹◡╹)ノ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 桜花ちゃんが、恩返しと言いつつ、役に立っていないところが可愛くて可愛くてたまらないです。 悠さんが、桜花ちゃんを預かるにあたり、しっかり算盤を弾いているのも、リアリティがあって良かったで…
[良い点] ケモミミは最高ですね。 [一言] すぐに次が読みたくなる作品ですね。 こんな生活できたらいいのになあと思う独身者です。
2019/12/26 12:50 退会済み
管理
[良い点] やっぱりケモミミなんですよね、そうそう!! [一言] 感想欄ではお久し振り!!稲村某で御座います! 一人より、二人の方が何となく、何がなくても何とかなるさ。そんな気分になれるお話ですね。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ