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頭隠して尻隠さず、その逆もまた然り

「あ……」

「ッ、うきゃああぁ!?」


 まさに獣の如く飛び退り、部屋隅からジト目を向けてきた狐娘に怒られること小一時間…… 何とか許してもらった僕は揶揄(からか)われていた。


「うぅ、悠さんが狐耳に欲情する性癖を持っていたなんて、(けが)されてしまいました♪」


「いや、純粋にケモ耳の感触が気になったんだよ」

「ん~、ちゃんと言ってくれたら触らせてあげますのに……」


 によによしながら狐耳をピコピコさせ、これ見よがしに上目遣いで誘ってくる桜花さんを無視し、外出の為に着替えを済ませる。


 すると狐娘も淡い燐光を身体に(まと)わせ、襦袢(じゅばん)姿から昨日の巫女装束へと(ころも)を変えたが、そのままでは衆目に姿を晒すことはできない。


「その耳と尻尾、何とかできないの?」

「…… 頭隠して尻隠さずと言いましょうか、半人前ですので片方だけなら」


 何処か気まずそうな桜花さんがシュッと狐耳を隠してくれたものの、モフモフ尻尾はぷらりと腰元より垂れ下がっていた。逆に尻尾を引っ込めた場合、ぴょこりと頭部にケモ耳が生えてしまう。


 まぁ、尻尾よりもケモ耳の方が誤魔化し(やす)そうなので、そちらの形態を選択してもらって、32型のPONY製TVと繋がったPCの無線マウスをクリックした。


 基盤(MB)制御の機能で本体の電源が入り、側面が強化ガラス仕上げの筐体内部で数個の静穏ファンが回転し始める。


 職業柄、無駄に高性能なハイエンドPCを自作しているため、ディスプレイ代わりのTVも電源を投入して、入力切替を済ませた頃にはデスクトップ画面が完全に立ち上がっていた。


 ただ、桜花さんはLEDでライトアップされたPC本体に興味が出た様子で、そちらに視線を奪われている。


「ふわぁ、綺羅綺羅(キラキラ)して凄いです」

「誰かに見せる機会って余り無いからさ、そう言って貰えると嬉しいよ」


 少しだけ機嫌を良くして、若い女性向けの衣類が扱われているサイトを検索し、隣に桜花さんを手招きして見流していく。


 その過程で幾つか候補となるような服装を確認した上、霊糸(れいし)で編んだという巫女装束を違和感のない服装に変えてもらい、自前のマウンテンパーカーを羽織らせた。


「フードを被れば狐耳は隠れるだろ」

「あぅ、少々窮屈な気もしますけど、致し方ありませんね」


 ぼやく狐娘を(なだ)めて街の中心部へ向かう道すがら、少し遅めの朝食を取るために大衆食堂に足を踏み入れる。


 あらかじめ調理された料理が棚に並んでいて、客自身が選んでトレイに乗せて支払いを済ませる店だ。


 実物を見て取捨選択ができるため、不慣れな桜花さんでも大丈夫かと思ったのだが…… 色んな物に目移りしていた彼女は “揚げ出し豆腐” を見つけ、ひとつ、ふたつ、みっつとトレイに乗せた。


「………… 揚げ出し豆腐、好きなの?」

「いえ、初見ですが、何やら旨そうな気配を感じます。じゅるり」


「そう、良かったね」

「なのです♪」


 食べたいものを食べるのが一番と割り切り、自分は日本人の朝食らしく白身魚とご飯、豆腐に味噌汁を頂く。


 なお、合計六個の揚げ出し豆腐を平らげた桜花さんはと言えば、上機嫌でほうじ茶を啜りながら、“今度、御師(おし)様にも土産として持っていきましょう” などと呟いていた。

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