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天上に御座す稲荷大明神に感謝を

「ま、桜花さんの気が済むまでは……」


 誰かの都合に合わせるのも悪い事ばかりでは無く、(おのれ)とは違った物の見方や知識により、新しい発見をさせてくれる場合も多い。


 だからこそ “賛成よりも反対の意見に情報価値がある” と考え、その論拠を分析する悪癖があるため、すぐに意見を変えて変節漢(へんせつかん)扱いされた事もある。


(より良いモノがあるなら、持論に固執する方が馬鹿らしいんだけどなぁ)


 個性というか、独創性を追求して非合理的な行動と取る意味が分からない(あた)り、きっと僕は味気ない人生を歩んでいるんだろう。


 基本的に率先して前を進むことなど無く、先頭を走る先駆者の少し後ろに追随(ついずい)して、そいつが失敗して脱落したら同じ(てつ)を踏まないようにするだけ。さらに別の誰かが先に行くのを待って、また勇敢な挑戦者の背中を追うのだ。


「大きな失敗をせず、程よく評価を得られる生き方ね…… 小賢(こざか)しいな」


 呆れ混じりの乾いた笑い声を漏らした後、桜花さんを待たせる訳にもいかないので風呂から上がり、洗濯機置き場と脱衣所を兼ねたスペースで着替えを済ませた。


「次、どうぞ」

「ありがとう御座います」


「ところで着替えはどうするの?」

霊糸(れいし)で構成できますから、お気になさらないでください」


 よく分からないが問題無いそうなので見送り、炬燵(こたつ)に戻ってTVを付ける。時間的に夜のニュースがやっていて、最近は関係が冷え込んでいる隣国との首脳会談の様子が報じられていた。


 何気なく聞き流している内に、仕事の疲れがぶり返して睡魔に襲われてしまう。


 それを紛らわせるため、職場で取り組んでいる顧客情報システムの応答速度を向上させる新規アルゴリズムを考察するも…… 余計に眠たくなって意識は途絶えた。


……………

………


「ん~、炬燵(こたつ)で寝ると風邪を引くと宮司様が仰っていた記憶があります…… はッ、これはもしや、お世話できる天与(てんよ)()では!?」


 天上に御座(おわ)す稲荷大明神に感謝を捧げ、ずずいと二部式襦袢(じゅばん)を着込んだ狐娘が悠に近寄り、何やら祝詞(のりと)(うた)い出す。


 霊力により細身のまま怪力を得た黒髪少女は起こさないように注意しつつ、眠り人をお姫様抱っこしてベッドへと運んだ。


「ん、うぅ」

「おやすみなさい、悠さん」


 そっと毛布と布団を掛け、部屋の電気などを消して自身も寝床に潜り込む。


 元が狐なので桜花からすれば恥じらうような行動でも無いのだが…… 翌朝、身体に(まと)わり付いた暖かく柔らかい感触により、緩やかに目覚めた部屋の主は反応に(きゅう)していた。


「僕にどうしろと言うんだ?」

「くぅ、すぅ……」


 桜花さんに四肢を絡められて身動きが取れない状況の中、無理に剥がさずとも会社が年末年始の休みに入っている事を思い出す。


 それなら構わないかと気持ちよさそうに眠る狐娘に(なら)い、二度寝を決め込もうとしたら、ぴこりと僕の胸元に頬を寄せていた彼女のケモ耳が動いた。


「…… ちょっとくらいなら、良いよね?」


 誰にともなく言い訳して両手で左右の狐耳を触り、ふさりとした耳毛も堪能しつつ縁を丁寧に指でなぞっていく。


「んぅ、うぅ」


 小さく声を漏らした桜花さんが身動(みじろ)ぎした瞬間、頭が動いて図らずも撫でまわしていた親指の片方が滑り、ズボッとケモ耳の奥まで深く(はま)った。

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